見出し画像

静岡県立大学「会社会計」の講義メモ:日商簿記2級を学んで世界を広げていく(5回目)

期末商品を評価する

日商簿記3級までは、決算時に残っている商品の金額(ひいては在庫数)が問題に記載されていました。日商簿記2級の試験にも問題に期末商品棚卸高の金額は記載されていますが、少し考えるべきことが増えます。

問題を使って実際に考えたいと思います。

以下の資料に基づいて、必要な決算整理仕訳を行いましょう。なお、期首商品棚卸高は30,000円です。記録は三分法で行い、売上原価は仕入勘定で算定する。
 
帳簿棚卸高 数量10個  原価 @5,000円
実地棚卸高 数量9個   正味売却価額 @4,800円

実地数量が帳簿数量と一致しない!? 

実際の在庫数(実地棚卸高)が帳簿とおりであれば社内に10個の商品が存在しているはずです。しかし、調べてみると、実際の商品は9個しか存在しません。1個あたり5,000円で仕入れた商品が1個(10個-9個)存在していないことになります。この5,000円の損失を棚卸減耗損と呼んでいます。

なぜ棚卸減耗損が生じるのでしょうか。その理由として考えられるのが、商品の万引きや紛失などです。実際には決して起こってほしくないことではありますが、現実問題として「帳簿の数量と実際の在庫の数量が合わない」というトラブルは起こり得ます。私自身、かつて本屋さんでアルバイトをしていましたが、年1回の在庫のカウント(棚卸作業と呼んでいました)で、とある人気漫画の在庫数が合わない、という事態がありました。

日商簿記2級の世界は、こうした現実問題と向き合ううえでの重要な知見を提供してくれています。

商品の価値が低下している!?


例えば、アパレル店での季節物の商品仕入を考えてみます。

冬物のマフラー。冬には5,000円で仕入れられていました。しかし、温かくなり、同じ商品が4,800円に値下がりしていたとします。

決算時に実際に店舗に残っている商品の価値を貸借対照表に表示することになりますが、店舗にある9個のマフラー(帳簿上には10個あるとなっていますが、実際の数量でないと正しい価値評価にならないので実際の数量で考えます)の価値は5,000円ではなく4,800円ということになります。つまり、1個につき200円の評価損を出すことになります。これが商品評価損です(9個×200円=1,800円)。

【上記の問題の仕訳】
(借方)仕入30,000円 (貸方)繰越商品30,000円
(借方)繰越商品50,000円 (貸方)仕入50,000円
(借方)棚卸減耗損5,000円 (貸方)繰越商品5,000円
(借方)商品評価損1,800円 (貸方)繰越商品1,800円

なお、期末時点の繰越商品の金額も検定試験でよく問われます。棚卸減耗損や商品評価損がない場合は「50,000円」が決算時の繰越商品の金額です。

今回は、棚卸減耗損5,000円と商品評価損1,800円が存在しているので、決算時の繰越商品の金額は「50,000円ー5,000円ー1,800円」で43,200円になります。

在庫管理は大きな経営課題の1つです!


在庫を保有することで、棚卸減耗損や商品評価損が生じる可能性が高まります。企業にとっては、いかに在庫を少なくするかが、1つの大きな経営課題になります。小売店などアイテム数が多い業態の企業はもちろん、仕入or製造から販売までの時間がどうしてもかかる傾向にある商品・製品を取り扱う企業にとっては在庫管理を適切に行うことが必要とされます。

在庫を多く保有することに関してのデメリットを挙げてみたいと思います。
・予期していなかった売上高の減少
・生産・棚卸資産管理の失敗
・棚卸資産の陳腐化

トヨタ自動車が開発した生産方式であるジャストインタイム(JIT)方式は、「必要なモノを必要なときに必要な数だけ」つくる仕組みで、在庫を可能な限り最小限に抑えようとする取り組みです。

それでは、実際にJIT方式は在庫管理を効率的にすることで将来の企業業績を高めるのでしょうか?この点についてはいくつかの研究で「Yes!」と支持されています(Kinney and Wempe, 2002; Fullerton et al. 2003)。
 
一方、在庫を多く抱えることに企業の将来にとってのメリットがあるでしょうか?

例えば、売上高の変動が激しい場合に、生産コストを一定に保つことができる点は魅力かもしれません。他にも、欠品による売り逃しを避けることや将来の原材料の価格変動に備えることもメリットとして挙げられます。
 
多大な在庫を保有していても、在庫管理を効率的に行うことでカバーできる可能性があります。何のために在庫を保有するか、企業の方針が必要になります。 
 
例えば、店内にめちゃくちゃ多くの商品数を有するドン・キホーテで考えてみましょう。同社の経営理念「顧客最優先主義」の下で掲げられている重要な価値観の1つが「いつも時代もワクワク・ドキドキする驚安商品がある買い場を構築する」です。

スーパーマーケットやコンビニのように常識と規則性で(加えて緻密な顧客データ分析に基づく科学的なエビデンスを根拠に)陳列された店内で買い物をすることがほとんどになりつつある私たちの日常ですが、ドン・キホーテに行くと私たち消費者だけでなく、下手をしたら店員さんさえも商品の置き場所がわからない場合があります。効率的な買い物とは裏腹に、どこになにがあるのかわからない、買い物時のワクワクがドン・キホーテが訴えたいメッセージです。こうした店舗展開に、多くの在庫数の確保は必須になるかもしれませんね。

このように在庫管理1つをとっても、そこに企業の意図や戦略があることがわかります。

いいなと思ったら応援しよう!