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従業員への株式給付に関する論文メモ:no1 ~Kong & Wang(2024)


従業員への株式給付

昨今、世界だけでなく日本でも、従業員に株式給付を行う企業が観察される。

日本経済新聞(24年12月24日付け)によると、みずほ信託銀行による調査を基に、信託型株式報酬制度の導入を開示している企業数が9月末時点で累計405件となった。前年同月と比較して、2倍のペースで推移しているようである。

同記事には「信託型株式報酬制度が支持される理由の一つに、各企業の中期経営計画や人材戦略と連動性を持たせられるなど柔軟に設計できる特徴がある。他の主な従業員向け株式報酬制度である譲渡制限付株式(RS)やストックオプション(株式購入権)と比べると制約は少ない。」と書かれている。

一方で、「資本政策の効果を見込んで導入を検討するケースもある。制度を導入すると企業の一定の株を預かる信託銀行が株主となる。議決権は従業員の意思を反映して行使するが結果的に安定株主の確保につながりやすい。持ち合い株の解消が進むなか、特定株主から直接信託銀行が株を引き受けるため、受け皿にもなる。アクティビスト対策として検討するケースもある…」という指摘もされている。

従業員への株式給付と環境へのエンゲージメントの関係は?

従業員に自社の株式を給付することで、従業員の日頃の努力を促せる可能性がある。加えて、企業が将来的な株価下落を招きかねないリスクの高い行動をとらないようにする抑止力としても機能するかもしれない。

Kong & Wang(2024)が注目しているのは、役員ではない従業員に自社の株式を給付することで、企業の環境への取り組みがより促進されるのではないか、という点である。従業員への株式給付は、共通の利害を持つメンバーを団結させ、経営陣に炭素排出削減を迫るプレッシャーを与え、それが結果としてメンバーの健康増進と長期的な企業価値への関心の高まりにつながるからである。

2009年~2019年の中国上場企業25,136観測値を用いた分析からは、従業員への株式給付制度(ESOP)導入と企業の環境への積極的な取り組み(エンゲージメント)の間に正の関係を確認している。

ESOP導入企業と比較した場合、ESOP導入企業は導入後に、環境保護支出、環境保護スコア、ESG評価の平均値がそれぞれ66.67%、11.12%、5.59%増加することを明らかにしている。

このように従業員への株式給付がリスク要因の1つである環境に良い影響を与えている事実は興味深い。

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