静岡県立大学「会社会計」の講義メモ:日商簿記2級を学んで世界を広げていく(3回目)
減価償却費の計算方法:定額法と定率法
日商簿記2級では、減価償却費の計算方法として「定額法」「定率法」「生産高比例法」が登場します。中でも「定率法」を理解することが重要です。
毎期減価償却費の計上額が一定の定額法とは異なり、定率法では期間の最初の方の計上額が相対的に多くなり、その後逓減していきます。
(例)備品20,000円を第1期期首に取得する. 第1~3期の決算時の減価償却に関する仕訳を行いなさい。なお、償却率(耐用年数を別の角度から見ています)は20%とする(要は耐用年数5年)。
第1期:減価償却費=20,000円×20%=4,000円
第2期:減価償却費=(20,000円ー4,000円)×20%=3,200円
第3期:減価償却費=(20,000円ー4,000円ー3,200円)×20%=2,560円
仕訳:(借方)減価償却費✕✕円 (貸方)減価償却累計額✕✕円
第2期の減価償却費の計算がポイントです。定率法で減価償却費を計算するときは、取得原価から期首の減価償却累計額を控除することが重要です。この作業をしないと、減価償却費は定額法と同じになってしまいます。
第1期:減価償却費=20,000円×20%=4,000円(上記と同じ)
第2期(第1期の減価償却費を控除し忘れた場合):減価償却費=(20,000円)×20%=4,000円
計算方法を暗記する、というよりも「定率法は毎年減価償却費の計上額が違う(年数が若い方が負担が大きい)」という本質を覚えておけば、計算をしている最中に間違いに気付けると思います。
利益マネジメントの世界へ
経営者が法律の範囲内で利益を意図的に変化させることを利益マネジメントと呼んでいます。「法律の範囲内」という点がポイントです。仮に法律を抵触した場合は粉飾となります。
財務諸表で報告される会計数値は、公認会計士の厳格な監査をへて「正しい」と認められているのですが、経営者はルールの範囲内で会計数値(利益)を調整するインセンティブがあると考えられます。
その利益マネジメントの方法の1つが、減価償却の計算方法の変更なのです。例えばこれまで定額法で計算してきたものを今年度から定率法に切り替える、というイメージです。
上記は22年度の西日本旅客鉄道の決算短信です。21ページを見ると、以下の
ようなことが書かれています。
【引用】
有形固定資産のうち新幹線車両の減価償却方法については、従来、定率法を採用しておりましたが、当連結会計年度より定額法に変更しております。
当社は、新型コロナウイルス感染症の拡大を契機としたお客様の行動変容による市場構造の変化を受けて、2020 年10 月に「JR 西日本グループ中期経営計画2022」の見直しを公表し、当連結会計年度より、様々な施策の具体化を進めることとしております。
上記施策の基軸となる新幹線については、山陽新幹線の利便性向上に向け、ご利用に応じた列車運行体制の適正化や、最新車両「N700S」の導入により車両配備体制を確立し、新幹線車両を長期的かつ安定的に使用できる環境を整備していきます。
このような経営環境の変化及び経営方針の見直しを踏まえて減価償却方法を検討した結果、新幹線車両については、急激な価値の低下は想定されず、今後長期安定的に使用していくことから、償却方法を定額法に変更することが、費消パターンをより適切に反映すると判断しました。
また、減価償却方法の変更の検討を契機に、新幹線車両の使用実態の検討を行った結果、当連結会計年度から、より実態に即した経済的使用可能予測期間に基づく耐用年数に変更しております。
これにより、従来の方法と比べて、当連結会計年度の営業損失、経常損失及び税金等調整前当期純損失はそれぞれ12,708 百万円改善しております。
このように企業が減価償却費の計算方法を変更した理由について詳細に記述しているのは、企業会計基準の一般原則の1つである「継続性の原則」に依拠していると考えられます。
〇継続性の原則
企業会計は、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない
利益マネジメントの動機を考えてみよう!
〇利益を増加させたい企業の例
(増加させないと)赤字になる企業
(増加させないと)前年度の利益を達成できない企業
(増加させることで)多額の経営者報酬を受け取れる企業
〇利益を減少させたい企業の例
(減少させないと)公共料金等の引き下げを国・地方公共団体に要請される
(減少させることで)税金の支払いを減らす
他にも様々な動機があるかもしれません。
利益マネジメントはアカデミックの世界で多くの研究蓄積があります。関心がある人は、例えば以下の文献を読んでみることをお勧めします。
https://www.hakutou.co.jp/book/b113484.html