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デジタルスカルプトによるアート作品の創生

日本を代表する現代美術家・村上隆が率いるアートの総合商社、カイカイキキ。今回は、村上隆の立体アート作品の基になるデータを、デジタルツールを用いて作成する「デジタル造形師(スカルプト)」をご紹介します。立体作品は彫刻だけに限りません。最新技術だからこそできる、無限の可能性を秘めた仕事の裏側にクローズアップします。

(プロフィール)
氏名:A・S(男性)
学校:国立大卒(視覚映像デザイン専攻)
経歴:2011年入社 札幌、中野で映像制作部署「Kaikai Kiki Animation Studio PONCOTAN(ポンコタン)」の立ち上げに携わり、スカルプト(デジタル造形師)部署に異動。現在はディレクター職として勤務。

氏名:Y・O(男性)
学校:美大卒(建築専攻)
経歴:2015年入社 スカルプト部署の立ち上げに携わり、現在はディレクター職として勤務。

より早く、ダイレクトに意見を反映できる体制に

——立体作品を手掛ける「彫刻・立体造形部」はいつ頃からあるのでしょうか。
A・S:正式には2016年に始動し、今年で7年目です。スカルプトのメンバーは現在7人います。彫刻作品自体は随分昔から作られてきましたが、カイカイキキ社内に専門の部署はありませんでした。

かつては、原型となる小さなマケット(試作用のひな型)を制作し、修正や確認を重ねて、当時はすべて手作業のため、ポーズや一部のパーツサイズを変えるだけでかなり時間がかかりました。OKが出て、発泡スチロールや粘土で実際のサイズにするのですが、大きくする作業はさらに数週間の時間がかかっていました。それを何十回も繰り返していたのです。

——それが社内かつデジタル造形で自由にできるようになったのですね
Y・O:1つの作品を創り上げるために数年~十数年と要していたことが、非常に短期間でできるようになりました。画面上の操作で大きさを変え、元に戻すのも一瞬。内製化によりスピード感が得られました。作品にもよりますが、最短1カ月半程度でデータが出来上がります。

A・S:確認用の30~40センチ程度のモデルは、村上の指示を即座に反映させ、社内の3Dプリンターを使って半日から1日で出力できます。手作業でサイズを変えていた頃とは違い、1メートル超の等身大サイズを発注する場合でも、同じデータを用いるためそのままのクオリティで大きく出力されるというメリットがあります。

ブラッシュアップして仕上げていく段階で、よりダイレクトにクリエイティヴなアイディアやこだわりを細かに反映できる組織になったのです。

スカルプトの作品は彫刻にとどまらず

——どのような作品のデータを手掛けてきましたか。
A・S:2020年に六本木ヒルズに展示された大型彫刻「お花の親子」。ブロンズに金箔を施した高さ10メートルの作品です。

六本木ヒルズに展示されていた大型彫刻「お花の親子」。

Y・O:ブロンズや固い樹脂のFRP(繊維強化プラスチック)など大掛かりな造形は業者に依頼します。そのベースとなるマケットを制作し「これをそのまま大きくする」という指示を出せる段階までもっていくのがスカルプトの役割です。

——カイカイキキがプロデュースする「となりの開花堂」で販売するドット絵などのお花のクッキー型もスカルプトが作ったとか。
A・S:3D技術が生かせるものは何でも引き受けています。クッキーも立体であり、村上の代表作品である「お花」の3Dデータを既に作成済みであるとの理由から、彫刻作品とクッキーに境界は無くて良いハズだ!と、なりました。

Y・O:クッキー型であれば市販の型は金属を切削して加工しますが、3Dプリントで済む型を考えます。

クッキー型

Y・O:某男性ファッション誌の付録でお花のフライパンのデータを手掛けもしました。世界中から注文が来て、出版社が大増刷を仕掛けたのは、嬉しいリアクションでした。
 
社内にはオリジナルのカバンやアパレルを製作する縫製部があり、オリジナルスニーカーも作っています。スニーカーの製造工場があるベトナムの業者さんに発注する際、誤差を無くす為、ソールを立体でモデリングして、実物大のマケットを送付し、同時に完パケの3Dデータを入稿します。

オリジナルスニーカーのソール

3DCGはクリエイティブの中心的部署となっています

A・S:リアルな世界だけでなく、VRやARのような仮想現実の世界、アニメーションのCG会社がやるような映像用のモデルを作ることもあります。Y・Oさんは建設系の設計図面が描けます。それぞれ持っている技術があるからこそ、ジャンルが広がっているのです。

——3Dに関わるすべてが対象なのですね。
A・S:たとえばフィギュアだけを作り続けたいという人は多くいます。ですが僕らは、メデイアを大きく横断して、デジタルスカルプトを利用して、幅広く資産を作り出しています。


まとめ

現代美術家・村上隆の彫刻作品のデータを制作する「スカルプト」。デジタル技術ならではのスピード感と、社内に専門の部署があるからこそできる細部へのこだわりを両立しています。3D技術を生かせば立体アートの可能性は無限大。スキル次第で活躍の場がさらに広がること間違いなしです。少しでも気になった人は下記ページをチェックしてみてくださいね。



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