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村上隆のイマジネーションを「形」に。アートの歴史を支える職人たち

日本の現代美術事業のパイオニア・村上隆が率いるアートの総合商社、カイカイキキ。国内外においてアート作品制作、アーティストマネジメント、映画やアニメーション制作、ギャラリーやカフェの運営、出版、マーチャンダイズ制作など、多岐にわたる事業を展開しています。

その中でも、カイカイキキの心臓部でもあるといえる村上隆の絵画を制作しているのが「ペイント(絵画制作)部署」です。2011年に入社したペイントディレクター(リーダー)2人はどのように活躍しているのでしょうか。仕事への適性を聞くと、意外な答えが返ってきました。

プロフィール
氏名:Y.I(男性)
学校:美大卒(彫刻専攻)
経歴:2011年入社 参加プロジェクト「An Arrow through History:Gagosian Gallery(2022年)」「村上隆の五百羅漢図展:森美術館(2015年)」など複数。現在はペインティングディレクター職として勤務。

氏名:A.F(女性)
学校:美大卒(グラフィックデザイン、イラストレーション専攻)
経歴:2011年入社 参加プロジェクト参加プロジェクト「An Arrow through History:Gagosian Gallery(2022年)」「村上隆の五百羅漢図展:森美術館(2015年)」など複数。現在はペインティングディレクター職として勤務。

日本画の流れを組んだ作業工程

作業するY.I氏

——普段の仕事環境について教えてください。
Y・I:僕たちが働くスタジオは埼玉県の入間郡三芳町にあります。絵画のみならず、データ制作部・版画部・デジタル造形師、アートハンドラーなどアート作品の制作に携わる複数の部署が集まっており、1日あたり約25人のペイントスタッフが倉庫を丸々一棟使用して作業に当たっています。

作品は常時20~30点を抱えています。クライアントや展示会向けの絵画、新しいアイディアの絵画などがあり、優先順位をつけて五月雨式に取り掛かります。社長であり作家でもある代表・村上のアイディアや指示に迅速に対応できるよう、日勤と夜勤に分かれて24時間体制で絵画制作に取り組んでいます。

作業中のA.F氏(左側)

——お二人はそれぞれ日勤・夜勤のリーダーを務めていますね。
A・F:現場監督として、作品全体の把握やスケジュール管理を担当しています。作品の優先度に合わせて細かい工程をスタッフに割り振りし、クオリティーや進行感をチェックするのが役目です。作品について、村上との毎日の確認も欠かせません。

Y・I:ペイントスタッフの仕事は、建築でいう大工仕事のようなもの。村上隆という「建築家」がいて、その作品イメージをIllustratorでデータにおこす作品データ制作(データオペレーター)という「設計士」がいる。そのバトンを引き継ぎ、絵の具を使って最終的に施工する「大工」のイメージです。

作業するA.F氏

——絵を描く以外にはどのような作業があるのでしょうか。
Y・I:資材の発注や準備のあと、キャンバスを貼り込み、地塗り剤などを塗って下地を作ります。経年劣化を避けるため、日本画の手法を取り入れて木製パネルに和紙を貼るのも特徴です。これにより、100年先も良好なコンディションを保つことを可能にしようとしています。

絵の具を混ぜ合わせて指定の色を作る調色が終わると、土台となるシルクスクリーンに印刷。その上から絵の具を使って実際に絵を描き、アクリル系のヴァーニッシュで表面に光沢を出すなどの繊細な作業を経て仕上げます。金箔を貼ったり、筆で調整したりという細かな工程も含まれます。

分業は固定していません。それぞれの工程が得意なスタッフに割り振りしますが、徐々に担当可能な作業を増やすようにしています。いずれは全員が全ての工程できるようになる、というのが基本スタンスですね。

——「調色」は初めて聞きました。何をするのでしょうか。
Y・I:はじめに下図となるデータを制作段階で村上が色を決めるのですが、モニター上で発光している色なので、絵の具での再現は極端に難しく、全く同じ色が製造できるわけではありません。なので全体感として、イメージに近い出来上がりにするため、一色ずつ既製品の絵の具を混ぜて、調整していく作業を指します。

調色の作業の様子

作品の大きさにもよりますが、1作品に使用される色は1,000色や2,000色に上ります。過去に作り出した大量の色のストックから選ぶこともありますが、作品は毎回オンリーワン。実物ができあがってから色を修正することもあり、機械化できない重要な工程です。

技術より求められる要素とは

——お二人は美術大学を卒業していますね。絵画の専門知識は必須でしょうか。
Y・I:ペイントスタッフは美大の絵画専攻卒がほとんどです。ですが、意欲さえあれば入社してからでもどうにかなるのでは、と感じています。僕もそもそも絵画の専攻ではなく、色彩感覚も強いわけではありませんでした。最初はできないことばかりでしたから。根気と忍耐があって、その次にセンスが求められます。もちろん初めからできるのが一番ですが、プロ意識を持って、反復することで習得できることも多くあります。技術に対して貪欲である人や職人気質の人が向いているのではないでしょうか。コミュニケーションが取れて、集団で制作できる人と仕事がしたいですね。

A・F:忍耐が必要な場面は多くあります。積極的かつ貪欲に動くことや、コミュニケーションがしっかり取れることが必要なスキルだと思います。

——他に身に付けておくべきことはありますか。
A・F:芸術の事業に生まれてはじめて触れるのですから、心構えは最低限必要かも知れません。著書やYouTubeなどを通じて、「村上隆」の目指す芸術の在り方を知るのも、大切な気がします。

まとめ

現代美術家・村上隆の作品制作を支える土台ともいえる、「絵画制作(ペイント)スタッフ」。多くのスタッフが携わり、多種多様な作品を生み出す、世界一の絵画制作のノウハウが詰まっている職場です。そして、創り出された作品たちは全世界に羽ばたいていきます。

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