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部誌 「潮」


はじめに

 ご無沙汰しております。昨年は諸事情により、部誌を出せなかったので、今回の部誌は二年ぶりの出版となりました。そのため、初めての執筆・編集となり拙いところも多いと思いますが、温かい目で見ていただければ幸いです。
 私たちは部の活動として基本的に俳句を詠んでいるのですが、私は俳句を詠み始めるようになって日常の小さな変化やどうでも良いことに気づくことができるようになった気がします。これは結構面白くて、なんとなく街の変化が見えてきてマンネリ化した世界を少し変化させてくれた様に感じます。
 拙いものですが、ぜひ読んでいただければなと思います。

※著作権等の都合により一部の句を取り下げました。

部員他己紹介

・氏名(学年)(筆者)

・中村治樹(高三)(大山)
 尊敬すべき先輩。先輩の句の印象は、景が見えるが、固くなりすぎず、ふんわりした空気感も纏っている。そしてこの空気感が大好きだ。また、落語ができるらしく、話がめちゃくちゃ上手い。本当に、甚だしく上手い。だから、先輩と同じチームでのディベートは安心感があった。あと、優しいんで好きです。

・大山圭一朗(高一)(永所)
 とても頼もしい後輩。元バスケ部らしい。俳句を始めたのは1年前の夏からだが、物をよく観察しているように感じるような句が多いと個人的には思う。来年は期待してるぞ。

・永所勇人(高二)(北川)
 バドミントン部にも所属していて、理系で、国語と数学がどちらもかなりできる。スマホなど電子機器にも詳しく、とても頼もしい存在なので、ぜひ友達になるべきだと思う。これからもよろしく!

・北川将磨(高二)(佐藤)
 吹奏楽部員の高校二年生。ウクライナ語が少しわかり、二十世紀前半のヨーロッパの歴史が好きだと言う。イケメンになりたいらしい。

・佐藤拓智(高二)(豊原)
美術部部長。文芸部副部長。デイベートでの抑揚のある話し方が魅力的。マイクのラップ持ちは彼のアイデンティティ。

・豊原一誠(高二)(浅香)
この部活では数少ない文系の一人。彼の句はこの部活の中でもかなり面白い。一般的な句とは一線を画していて俳句の懐の広さが見える。

・浅香優(高二)(濵野)
本誌の編集長。航空研究会にも所属している。句会での自分の一文字をたまに変える。アニメが好きで卒論もアニメのことを書いた。新世紀エヴァンゲリオンと北海道日本ハムファイターズのファン。

・濵野佑太(高三)(金子)
中村先輩と同様、最高学年の先輩。俳句に心血を注ぎながら学校の成績も優秀なオールラウンダー。俳句の印象としては部員の中で最も手堅く、一緒に出場した開成高校文化祭戦では最優秀賞を受賞している。俳句面でも人間面でも尊敬できる先輩の一人だ。

・金子晃(高二)(郷古)
弓道部にも所属している。高二の代だと最古参の一人。句会で出す句は難しい取り合わせが多く、俳句初心者の僕にはまだ理解できない。早く句の意味を理解して、先輩と同じ景を想像できるように精進したい

・郷古悠介(高一)(島田)
水泳部にも所属している高校一年生。ヤクルトスワローズのファンらしい。句会でたまに野球関連の句を出したりしていて、面白い視点を持っている。関東の練習会では発言も多かったのでこれからが楽しみ。

・島田道峻(高二)(岡村)
頼れる部長であり、何ごとにも寛容な聖人。陸上部にも所属していて、陸上部副部長。長距離走が速いらしい。野球が好きで読売ジャイアンツの吉川尚輝ファン。彼の句は共感できるものが多く、詩情があってとても良い。

・岡村潤(高二)(土谷)
高校二年生。部長と同じ巨人ファン。パスケースも巨人グッズと巨人愛に溢れている。彼の句はとても綺麗な描写が読者に広がる一物仕立てであり、読む者を引きつける繊細さがある。

・土谷海理(高一)(張)
高校一年生。合唱部にも所属しているが、たまに行方不明な日がある。彼の句は季語に寄り添った豊かな風景の俳句が多く、絶対上手くなると思う。是非俳句を楽しんで、来年頑張ってほしい

・張澤堉(高二)(中村)
ちょう たくいく と読む。帰国子女でグローバル部でも後輩。外見からは想像もつかない突拍子もない句が出てくることがある。弦楽部にも所属しているらしい。部活はほどほどにね〜。

高三と顧問による十五句連作

 日々の旅
持ち上ぐるかなぶんの脚ついて来ず    本間純一
土薄らトマト畑のパイプ椅子       柿木晴翔
朝焼やちぎれば和紙のやうなパン     濵野佑太
隧道や夏野に自由満ちてをり       中村治樹
小鳥来る帽の小銭に札埋もれ       遠藤泰介
満月や眠れるワニは尾を曲げて      濵野佑太
抱き上げて犬の呼吸や秋桜        深井直樹
引き付けし鉄棒匂ふ小鳥かな       宮下遼大
草餅や墓の箒の短き柄          遠藤泰介
朝焼に引き波の貝止まりけり       深井直樹

自選十句

 道中   中村治樹
隧道や夏野に自由満ちてをり
翡翠や彼方に火力発電所
日めくりの波打つ端や小鳥来る
ナイフの箱開けて九月の灯の栄え
のどけしや潮風の入る定食屋
割れ目より蜘蛛湧きつくす日永かな
ネーブルや一人に夜道うす長く

 ふところ   濵野佑太 
切り絵の目少し角張る木の芽時
髭剃りをはたけば髭やヒヤシンス
蝌蚪の水旅館の鍵をふところへ
湯上がりの靴下かたし夏蜜柑
朝焼やちぎれば和紙のやうなパン
サルビアや病駆の深き土ふまず
早退に下駄箱広し冬ざくら

 壺   島田道峻
荷ほどきの学寮の蝌蚪生まれたり
抱へたるにはとりしづか花薊
うつとりと入江に壺や春日傘
アイスコーヒー続々人の来る岩場
汗拭や場末を燃えてゐる匂ひ
トマトから斜めにたれのゆくところ
朝焼や割り箸の散る草の中
遠吠えや案山子がすべて死にさうな
調律の一音届く鶏頭花
将棋指しゐて新蕎麦の運ばれ来

 ヤクルトと魚肉ソーセージ   佐藤拓智
鉛筆の折れし日永の工務店
山猫の骨を磨くやヒヤシンス
桜蘂降る地に恋すべき火星人
長閑さや弾みて魚肉ソーセージ
花あざみ蘂粲粲と迸れり
翡翠の打ちたる水や喜々と跳ね
面相を暑さにまさぐられてゐる
馬肥えて白樺の木の隙に雲
秋の灯に見るヤクルトの栄養価
密漁に良き岩浜や後の月

 玉響   浅香優
新宿と代々木近くて石鹸玉
ダイヤルの八の固さや藤の花
中年の腰掛けてをる柳かな
湯の底の笹身に襞や長閑なる
炎帝や浮きの触れたり離れたり
夏雲やタイプライター叩く音
友を待つ人の手にあるラムネかな
東芝の配電盤の小鳥かな
人を見て育つてゆくや寒桜
鳥の巣や声の大きな修行僧

 喉の色   岡村潤
長閑さや砂糖に紅茶揺れてをり
銀皿をはみ出すナンや長閑なり
掛け軸の影広がりぬ春の夕
落石に反る金網や花薊
麦茶喉鳴らせば食道の長さ
鷺草や初めて簪挿す女
秋茄子土偶の足のまろまろと
血の混じる喉に脈あり寒稽古
特急の終着静か冬茜

 異国   金子晃
駘蕩や道場下駄の緒の青き
行く春や腿湿らせる驢馬の鼻
飛ぶを待つ翡翠双眸たぢろがず
メロン掬ふ異国の丘の香りして
朝焼けや錆びしアンカーチェーン垂れ
大皿の縁の触れ合ふトマトかな
秋暑し弓道場のうすぐらく
鶏頭や重ねて籠手のくつたりと
いなびかり見しもののみの仲なりけり
長き夜や指人形の国栄え

 風   豊原一誠
暖かやすずめの影の跳ぬるさま
蝶々舞ふレジャーシートを広げれば
釣り堀のビールケースや長閑なり
屈み込む影へ蛙子寄り来たり
野薊や引き戸の固き集会所
赤蜻蛉遊具の網に止まりけり
老人の墨磨る音や冬の朝
潮風は大路の先の草餅に
掲ぐれば疾さの増して風車

 漬物石   北川将磨
蛙子と呼ばれたがらぬ蝌蚪もおり
制服の皺も愉快な長閑なる
油絵の中に一本風車
怪人が踊って逃げていく
良夜漬物石すとんと置いて秋深し
鼻筋に本落ちてくる昼寝かな
兵営の薊や兵は既に去り
白黒の家族写真の暑さかな
全集を再び開く春夜かな
野遊びに一日の長のあるものか

 人間と   永所勇人
長閑なり角潰れたる茶封筒
人波を少し避けたる風車
夜桜や飛行機の音二度聞こえ
青写真兄とレトルトカレー食ふ
夏野にて消え失せまいとジャスコの字
マラソンをひとり先ゆく紅葉山
稲光赤城山より見える塔
人形の破れた服は雪間かな
歌女鳴き噛み砕く飴頬を刺す
花楓すべて人語を解すめり

 旅   張澤堉
冬萌や草の日記はピカピカと
春の夜や旅の枕に縮れた毛
漆黒の流れる馬尾や風車
群れの蝌蚪ぶつかりてまたぶつかりて
長閑なるモヒカン刈りが行列に
野薊やこわごわ残る服の皺
野薊やジリジリと弾くチェロの弓
老人の座り歩いて日永かな
電車内の汗をつけ合う油照
地上地平の大樹老いたる雪野かな

 新宿   大山圭一朗
長閑なる新宿駅を横から見る
はいいろの家から蝌蚪の水に着く
指に押す縫針固し花薊
夏の夜のスマホに語らせる神話
噴水と側転と手を叩く人
小鳥来る朝や今日までの宿題
秋の草膝の高さにつづきけり
学窓の手すりの匂ひ冬の昼
Aさんの煙草を受ける冬の朝
電柱の一つ傾く冬田かな

 馳せる思い   土谷海理
レシートの長さに怯む長閑な日
在りし日や桜散る山に人骨の群れ
滴りの行先追いたる子供かな
駆け込みし梅雨の電車や煙草の香
空蝉や砕けて風になりにけり
夕凪や弁財船の帆ほの黒し
旱魃や江戸へ行く子も見送れず
片蔭の人を羨む黒バイク
復讐終へて赤富士を見る
星月夜亡き君の声聞こえけり

 べーすぼーる   郷古悠介
邯鄲よ私はいかに生きるべき
出征の前夜に囲む関東煮
雪催い車窓の奥に遅刻見え
自己満の親の説教のどかなり
幼稚園時代の記憶は花薊
池の名も知らずに泳ぐ蝌蚪たちよ
金持ちの鷹ついに山川を狩り
つばくろや空中を舞うヘルメット
沈丁花西武ドームのブーイング
春の日や西川遥輝のホームラン

編集後記

 編集長として夏休みを通してやってきました。もう少し企画を入れたかったけど、いくつかの企画が頓挫してしまったことは無念です。ただ、去年の例がない中で今年の部誌が完成したことはとても嬉しい。来年こそは自由作文の実施を期待しているぞ。
 「次回『一年、心、重ねて』 さぁ〜てこの次もサービス、サービスゥ」(浅香)

おわりに

 最後までご覧いただき誠にありがとうございました。今回の部誌の進行や編集の多くは編集担当の部員に任せてしまったのでここで彼らに感謝を伝えたいと思います。この部誌に掲載されている句の多くは学校として参加した大会や賞のものなのですが、部員はこれから個人としてもっと多くの賞に応募していくでしょう。そのためにも部員全員一層の精進を続けて参ります。
 いずれどこかでまた我々の句に出会っていただけることを願ってこの部誌の結びとさせていただきます。(島田)

見出し画像 撮影 豊原(宮島にて)

※今回の部誌に掲載した句は
第26・27回 全国高等学校俳句選手権大会
令和5・6年度 中高生俳句バトルinあらかわ
第6・7回 俳句賞「25」
第70回 不器男忌俳句大会
開成学園の文化祭での俳句のディベート企画
に提出した作品を含みます。

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https://www.instagram.com/kaijo_bungei/

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