開示請求は本当に自分でできるのか
はじめに
結論から言いますと、開示請求は自分でできます。
驚かれた方も多いと思いますが事実です。
それでは、なぜ開示請求が自分でできるのか、その理由を順を追って説明させていただきます。
※ここでいう開示請求とは、掲示板やSNSなどで誹謗中傷、著作権侵害などをされた場合に、その投稿者を特定するための手続きである発信者情報開示請求のことを指します。
開示請求に対する世間のイメージはおおよそ下記のようなものではないでしょうか。
弁護士に依頼しないとできない
高額な費用がかかる
日数がとてもかかる
私の周りにも、爆サイや5ちゃんねるなどの掲示板、XなどのSNSに誹謗中傷を投稿されている人がたくさんいますが、上記の理由から泣き寝入りしていることがほとんどです。
近頃はネットで個人が自由に発信できるようになった一方で、匿名の書き込みによる誹謗中傷に悲観し自殺者がでるなど社会問題となっております。
自分で開示請求ができることを広めることにより、こういった匿名による誹謗中傷などの書き込みの抑止に少しでも貢献できることを望みます。
開示請求は弁護士に依頼しないとできないの嘘
開示請求は弁護士に依頼しないとできないと思っていませんか。
弁護士とは、本人の代理人となって紛争を解決する職業です。
つまり、弁護士は本人ができることを本人に代わってするのが仕事です。(刑事弁護や弁護士照会などの一部例外はありますが)
ですから、開示請求は自分でもできます。
というよりも、自分でするのが原則なのです。
それではなぜ弁護士にしかできないとみんなが勘違いしているのか。
それは主に下記のような原因が考えられます。
・開示請求の手続きに関する情報が少ない
・海外のサイトを経由して発信されているので管理者が不明であったり手続きが煩雑である
・インターネットの専門用語に抵抗感がある
開示請求の手続きに関する情報が少ない
開示請求という手続自体が広く知れわたるようになった現在でも、その手続内容に関してはあまり詳しく知られていないのではないでしょうか。
このNOTEでは現在のそのような状況を打破するため、開示請求に関する情報をどんどん発信していきたいと思っています。
管理者が不明であったり、海外のサイトを経由して発信されている
たとえば、SNSのX(旧ツイッター)の管理者は、Twitter, Inc.(ツイッターインク)と合併して設立されアメリカ合衆国のカリフォルニア州サンフランシスコに拠点を置く、X Corp.(エックスコープ)です。
また、インターネット掲示板5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)の管理者は、フィリピンのLoki Technology,Inc.(ロキテクノロジーインク)となります。
※インクとは、日本でいう株式会社のようなものです。ディズニーのモンスターズインクはモンスターたちの会社の話でしたよね。
同じくインターネット掲示板の爆サイの管理会社は現在も非公表です。株式会社フェイズ(旧AeGate株式会社)であると報道されたこともありますが、その真偽は定かではありません。
このような事情が開示請求手続を複雑にしています。
インターネットの専門用語に抵抗感がある
開示請求に要するインターネットの知識はそこまで難しくありません。
しかし、普段聞いたことがない用語がたくさん出てきますので、初めての方は拒否反応を示してしまいがちです。
開示請求について検索してみて、IPアドレス、DNS、MVNO、ICCID、WHOISなどの知らない言葉ばかりで挫折してしまった方も少なくないのではないでしょうか。
しかし、一見難しそうな言葉でも、自分が理解しやすい言葉に変換すれば問題ありません。たとえばIPアドレスは、インターネット上の住所と考えればイメージが沸くかと思います。
このNOTEでは難しい言葉はなるべく分かりやすい言葉に変換して記載するように努めていきます。
開示請求は高額な費用がかかるの嘘
開示請求には高額な費用がかかるので、手続きをしても加害者から回収できるお金よりも開示請求費用の方が高くなって損をするという話を聞いたことがあるのではないでしょうか。
確かに弁護士に手続きを依頼すると高額な弁護士費用がかかります。
一般的に開示請求だけの費用(開示請求後の加害者との示談交渉や訴訟、差し押さえなどを除いた費用)ですと、相場は30万円~50万円といわれています。(弁護士報酬は平成16年に自由化されましたので、事務所によってまったく異なります)
ただし、前述したとおり開示請求は自分でできますから、自分ですることによりこの費用を節約することができます。
ケースバイケースですが、仮処分や訴訟に発展した場合でも実費(裁判所に支払う印紙代や郵送代)は2万円程度となります。
仮処分には10~30万円程度の担保金を請求されるケースがありますが、担保金は嫌がらせ目的での手続きを防止するためのものですので、手続き完了後に返金されます。
※担保金とは法務局に供託(きょうたく)するお金です。たとえば選挙に立候補するときも事前に一定の金額(衆議院小選挙区ですと300万円)を供託する必要があります。売名行為での立候補を防止するためであり、選挙で一定数以上の票を獲得すると返金されます。選挙に立候補すると街頭で選挙演説ができたりするので、誰でも立候補できると迷惑ですよね。
開示請求は日数がとてもかかるの嘘
開示請求には1年以上かかると聞いたことがあるのではないでしょうか。
開示請求は一般的に下記のような流れとなります。
それぞれの段階で相手方がどのように対応してくるかによって手続きに要する期間は変わってきますが、平均9ヵ月といわれています。
① SNS事業者等へのIPアドレス開示請求(任意開示)
② SNS事業者等へのIPアドレス開示仮処分及びログ保存請求(2に応じなかった場合)3ヵ月
③ プロバイダへの氏名住所等の開示請求訴訟 6ヵ月
※これは開示請求のみにかかる期間です。加害者へ損害賠償請求をするにはこの後に内証証明郵便の送付、示談交渉、損害賠償請求訴訟などの手続きが必要となります。
加害者の権利に配慮して任意の開示に応じることは少ないため原則訴訟手続になりますので、やはり開示請求には日数がかかってしまいます。
しかし、簡易迅速な被害者救済を図るため、開示請求の根拠法であるプロバイダ責任制限法が改正され、非訟手続制度が創設されましたので、開示請求にかかる期間が大幅に短縮されることが今後期待されています。
※非訟手続とは、訴訟以外の裁判手続きであり、訴訟手続きに比べて手続が簡易ですので、事件の迅速な処理が可能となります。たとえば、非訟手続では、外国企業へEMS等で申立書の送付が可能となります。
希望の光!新たな開示請求制度の創設
プロバイダ責任制限法が改正され、令和4年10月1日から新たな開示請求手続が可能となりました。
この改正により、今まで別々に行う必要があったSNS運営企業への仮処分請求(②)とプロバイダへの開示請求(③)を同時に行えるようになりました。
つまり、3ヵ月+6ヵ月かかっていた手続きをまとめて行えるため、開示請求に要する期間が大幅に短縮され、また手続にかかる手間や費用も減ることが期待されています。