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【対談】「体幹を鍛えることで体が正解を教えてくれる」知的障がい者×スポーツトレーニングの効果とは

海邦福祉会では、7年前から利用者さんに向けたスポーツトレーニングを毎週水曜日に実施しています。

トレーニングを行うのは、元プロサッカー選手であり、少年サッカーチーム「FC CRECER(クレセール)」を運営する比嘉健志郎さん。

「スポーツを教える」と一言でいっても、知的障がいのある方に教えるのは、戸惑うこともあるはず。サッカーのプロであり、子どもにスポーツを教えるプロでもある比嘉さんが、利用者さんにどんなトレーニングを提供し、どんな発見があったのか。また、スポトレによって、理事長・隆生さんはどんな効果を期待し、実感したのか。今回は対談形式でお話いただきました!

<取材執筆:三好優実>

スポーツトレーニング導入の目的は、交流と子ども達への啓蒙

ースポーツトレーニングを取り入れて7年とのことですが、最初のきっかけを教えてください。

比嘉さん:最初のきっかけは、隆生さんに僕が経営する少年サッカークラブチームのスポンサーになって欲しいとお願いしたことですね。

隆生さん:そうそう。じゃあスポンサーをやるから、うちの施設に週に一度スポーツトレーニングに来て欲しいとお願いしたんです。

ートレーニングを取り入れることで、どんな効果を期待されていたんでしょうか。

隆生さん:まずは交流ですね。トレーナーさんが毎週来ることで、利用者さんとの間に講師と生徒っていう関わりができる。職員としか関わりがない利用者さんにとって、それだけでも価値があるんです。あと月に一度、チームの子ども達と交流の機会を作って欲しいとリクエストしました。ただ集まってお菓子を食べるだけでもいい。接点をつくることで、利用者さんが子どもと関わる機会になるのはもちろん、子ども達への障がいの啓蒙にもなると思ったんです。

ー啓蒙ですか。

隆生さん:今は分断教育が主流だから、子どもが障がいを持つ人と関わる機会が少ないでしょ。だけど月に一度でも交流があれば、いつか大人になった時に障がいのある方を見ても「そういえば昔、サッカーやってた時にこういう施設がスポンサーになってたな」「ああいう人たちか」って思えるのかなと。

比嘉さん:子ども達にとってもいい機会だと思います。それこそ僕自身、中学生の頃、障がいのある方に差別的な態度をとってしまったことがあるんです。それまで関わる機会がなかったから、怖いって気持ちがあったんだと思う。もっと小さい頃に関わりがあれば、違ってたのかなと思います。

ーチームの子ども達が差別をしてしまう怖さはなかったですか?

比嘉さん:それはなかったです。むしろ自信がありました。もちろんやんちゃな子は何人かいますけど、だけどみんな素直で、話せば理解できる子ばかりです。何かあったとしても、少なくとも次からは気をつけられる。だから最初から大丈夫だと思ってました。

隆生さん:このチームのいいところは、スポーツを通して体だけじゃなく、心を鍛えることを大事にしているところだよね。そういう意味では、ハンディがある方と一緒に何かやろうとする経験は、競い合いながら培うものとは違う、別の強さに繋がるのかなと思います。

大人が危惧するより子どもは柔軟。「最初から友だち同士みたいに、普通に交流してました」

ーやりはじめた頃、子どもたちの反応はどうでした?

比嘉さん:意外と、最初から普通に交流してました。僕もびっくりしたんですけど、すぐに友だちみたいに接してたんです。僕たちが想定していたトラブルも全然起きない。驚いてもなかった気がします。

隆生さん:嘉手納のドームでスポレクやったのも最初の方だったっけ?

比嘉さん:ですね。やりましたね。

隆生さん:子ども達はうちの利用者さんたちが走るサポートをやってくれたけど、かなり普通だったよね。一緒にごはん食べたりして。なにか事前に伝えてたの?

比嘉さん:伝えてましたけど、大まかなことだけです。障がいを持ってる方だから、やりづらそうとか困ってるなって気づいたら動きなさいよ、くらい。こうしちゃいけない、ああしちゃいけないは言いませんでした。これは普段の指導もそうですけど、まず失敗してもらった方がいいと僕は思ってるので、あんまり最初に色々言わないようにしてるんですよ。

比嘉さん:目の前の人が何に困ってるかに気づいて、自分なりにサポートする。失敗してもいいから、自分なりに考えて動く。それって結局サッカーの上達にも繋がるんです。人のことに気づけるようになると、自分の動きにもちゃんと気づけるようになってくるんですよ。

隆生さん:それはあるかもしれないね。利用者さんは圧倒的にできないことが多いけど、そういう人と関わる経験を通して、“生まれつき弱い方が世の中にいる”ことも感じて欲しい。

子どもと利用者さんの共通点は「気にかけてくれているか」に敏感なこと

ー子ども達と利用者さんに共通点はありますか?

比嘉さん:あります。子どもって「この人は自分のことを見てくれてるな」「気にしてくれてるな」って感じないと心を開いてくれないんです。そこは利用者さんも同じような気がしますね。

ーたしかに子どもって、言うことを聞く大人と聞かない大人を分けている気がします。

比嘉さん:ですよね。だからうちは、全員集まるミーティングは効果が出なくて辞めました。みんなの前でポジションの話やプレーの話をしても、聞いてるし理解もしてるけど入ってないんですよね。やってくれない(笑)。だけど個別で話すとちゃんと入っていくんです。毎回個別で話をするのは大変だけど、それが大切なんだって気がしますね。

隆生さん:利用者さんは、それがもっと色濃くなった感じだよね(笑)。

比嘉さん:そうですね。かなり濃厚(笑)。だからトレーニングの最初にやる散歩では、コミュニケーションを取る時間としても活用しています。

試行錯誤の末辿り着いた「散歩」からはじまるトレーニング

ートレーニングは毎回、散歩からはじまるんですか?

比嘉さん:はい。試行錯誤した結果、最初の30分間散歩をして、残りの30分で身体操作トレーニングになるような何かをやる流れに行きつきました。

身体操作トレーニングの様子

ーどうして散歩なんですか?

比嘉さん:最初、動いてくれる人とくれない人にかなり差があったんですよ。僕としては全員に動いてもらいたくて、音楽をどんどん変えてみたり、ボールを使ってみたりしました。だけどそれでも絶対に動かない人がいて(笑)。そこで生まれたのが散歩です。散歩なら、ほぼ全員行くんです。しかも散歩前は気分がすぐれなかった人も、散歩が終わると気分が晴れてたりする。動いて太陽にあたるのがいいんだと思います。

隆生さん:毎朝やってるラジオ体操を見たのがきっかけだったんだよね。長年の習慣だから、音楽がなったら体が勝手に動く(笑)。

ー7年間のトレーニングで、利用者さんにはどんな効果がありましたか?

比嘉さん:目に見えて筋肉がついたとか、何かができるようになったっていうのはないけど、動きはとっても変わりました。散歩に50分かかってたのが、30分くらいになったり。

隆生さん:障がいを持ってる方って、脳の電気信号がうまくいかなくて思うように体を動かせないパターンが多いんだよね。たとえば高さや距離がわからなくて、高いところから落ちてしまったりする。怪我をすると、今度は支援する側が危険回避するようになるから、余計に刺激が減って衰えていくんです。スポーツをやったから電気信号が流れるってことにはならないだろうけど、刺激によって動きがよくなることはあると思うんだよね。転がってるサッカーボールを止めるだけでも、距離感が少しずつ分かってくる。

比嘉さん:たしかにチームの中にも一人、軽度の知的障がいを持ってる子がいて、以前は少し特徴的な走り方をしてたんです。だけど体操して、正しく体を動かせるようになると、走り方が急に綺麗になった。「その走り方は間違ってるよ」ってこっちが教えるんじゃなくて、体幹を鍛えることで体が正解を教えてくれるんです。体が理解するから自然と治る。

隆生さん:外に出ることで認知に繋がることも大きいよね。歩いてる人って目立つから、車を運転してる人が見て「あそこの施設の人が歩いてるんだな」って思ってくれるだけでもいい。

比嘉さん:たしかに、一緒に外を歩いてると、結構手前から止まってだいぶ待ってくれたり、道を譲ってくれる人もいますね。

隆生さん:そうそう。そうやって、地域の目をつけたい。監視ではなく、見守りの目。チームの子ども達も、たとえば全然違うところを利用者さんが歩いてたら「なんでこの人ここにいるの」って気づいてくれたら嬉しいよね。

対談が終わった後も、今後「ウィーターフェスティバルをやってみたい」「昔の風雲!たけし城みたいなことをやりたい」と提案する隆生さんと、「それ面白いですね」「やりましょう」とノリノリで相槌を打つ比嘉さん。

最後に、隆生さんが積極的に外部の人を招く理由を教えてくれました。
それは「内部で何かをやろうとすると、心が折れた時に継続性がなくなってしまうから」

利用者さんにとって職員は「いつもの人」。そうではなく「毎週水曜日の人」が訪れることで、普段と違うことをやるスイッチになる。さらに専門家が毎週きてくれることで、職員に負担なく継続できる。いいこと尽くしなのだとか。

職員の負担を増やさずに、外部を巻き込みながら愉しむ。その在り方にも、海邦福祉会らしさを感じました。


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