脳腫瘍と闘うリナちゃんが笑顔でいるために【浪花浩和さん】
子どもをケアするお父さん・お母さんに「自分らしい暮らしのコツ」について伺うインタビュー企画。
今回は、脳腫瘍とたたかう娘さんをお持ちのお父さん「浪花浩和さん」にお話を伺いました。日々忙しく働かれている傍ら、SNSでの情報発信や”VoiceRetriever”の共同研究にも携わっている、浪花さんの育児やケアに関するお話や、仕事と家庭の両立するための秘訣から “自分らしい暮らし” のヒントを探ります。
笑顔がとっても可愛いリナちゃん(11歳)
浪花浩和さんのプロフィール
インターネットが普及する少し前、某電気メーカーの系列会社にシステムエンジニアとして就職。退職後、地元での再就職先でホームページ制作の仕事をする傍ら、26歳から約5年間、1人で父親の介護を経験。その後、結婚し、誕生した長女のリナちゃんに脳腫瘍が見つかる。生活に合わせて拠点を変更しながら様々な仕事を経験。現在は、社内の情報システムに携わっている。家庭では、長女リナちゃん(11歳)と次女さん、長男さんの3人のお子さんのお父さん。BlogやFacebookなどの情報発信や、「上衣腫家族の会」の運営、東京医科歯科大学と共同で※「VoiceRetriever」の開発を行うなど、精力的に活動されている。
※「VoiceRetriever」とは東京医科歯科大学が研究開発を行なっている、様々な理由で声を出せなくなってしまった方の、コミュニケーションをサポートするための機器です。口の中で音を鳴らし、話すように口を動かすことで、スピーカーから音声がでます。自身の声で話すように「声を取り戻す」ことを手助けしてくれます。詳しくは、下記の記事をご覧ください。
脳腫瘍と闘うリナちゃんとの歩み
ーーリナちゃんのご病気が見つかってから、これまでの歩みについて教えてください。
1歳過ぎまでは健やかに成長し、4月には保育園に通い出しました。つかまり立ちを始め、歩き出す時期から、力が抜けたようにクタクタになっていることがありました。食欲もなくなり、ゼリー状の物しか食べなくなりました。
(幼少期のリナちゃん)
最初は胃腸炎などを疑われましたが、明らかにおかしいので病院でMRI検査を受け、小脳に腫瘍が見つかります。
脳幹を圧迫しており、呼吸がいつ止まってもおかしくない状態と告げられ、翌日に緊急手術。10時間にも及ぶ手術をし、ICUに入りました。
その後も呼吸状態が悪く嚥下機能も低下していたことから、気管切開(気切)と咽頭分離手術を受けます。その結果、体調は安定したものの、声を失いました。身体も右片麻痺が残っています。
入院中に二度目の手術もしましたが、脳幹付近の腫瘍は取りきれず、「がんの再発は起こるでしょう」と宣告されます。5年生存率が20%と言われた時は、愕然としましたね。
(手術後のリナちゃんと浪花さん)
入院は9ヶ月に及びました。その間、小児病棟は24時間、家族の付き添いが必須と言われ、妻と、義理の両親と交代で付き添いをしていました。
緊急手術だったので、全く調べる余裕も、心の準備もできませんでした。最初は訳も分からず苦しかったですね。
退院後は、約3ヶ月通っていた保育園には通えないと言われ、療育センターに通うことになりました。年中までは親子通園をしました。
年長の時に、近所に新しく保育園ができたんですが、そこに相談すると、吸痰が必要なので、看護師を用意すると言ってもらえました。そのおかげで1年間だけ普通の保育園に通えました。
体は半身麻痺で、傾きながらなんとか歩ける状態から、同世代の子と楽しく過ごしたおかげで、歩く機能はだいぶ回復しました。
ーー現在小学生のリナちゃんは、どんな日常を送られていますか?
1年間、普通の保育園に通えた実績から、地域の小学校に行くことができました。近所の小学校では受け入れることが難しく、少し田舎の学校まで通うこととなります。
小学校は、医療的ケア児を受け入れるのは初めてだったので、オレンジホームケアクリニックの紅谷先生に相談して、教育委員会と学校と協議を繰り返しました。オレンジさんの全面協力を得て、ようやく小学校に通うことができました。
福井県では気切をしている子が通えたのは初めてでした。そのおかげで、リナより下の子達も、事例があったおかげで地域の小学校に通えたみたいです。
学校の子ども達とふれていると、リナちゃんの機能もどんどん良くなっていきました。学校という場所は最高のリハビリの場になります。最近だとマラソンを1km走れました。
紅谷先生には、器械体操や鉄棒をしてもいいですか?と聞くと、びっくりされました。現在は気切部分に注意しながら、マット運動もやってます。「医療の最先端をいってるよ」って言われます。ドクターstopじゃなくて、ドクターgoを出してくれました。
嚥下機能もチョコやアイスのような溶けるものからOKが出て、いつの間にか普通のご飯を食べられるようになっていきました。小学校でも給食を食べています。
ただ、現在も再発を繰り返していて、さらに2回手術をしました。様々な治療法もトライしましたが、やっぱり再発は止まらなく、1ヶ月に1回くらい検査を受けています。
(水泳やマラソンにも挑戦するリナちゃん)
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浪花さんのケアの原点
ーーお父様の介護も経験されたとのことですが、当時の介護の様子はどのようなものだったのでしょうか。また、現在に活かされている点があれば教えてください。
父は、急性腎不全で人工透析をしていました。最初に脳出血を起こした時は、自分でご飯を食べ、会話もできて、杖歩行も頑張っていました。それから半年〜1年後に再度発症した脳梗塞で、寝たきり、車椅子生活になりました。話せなくなって、会話は筆談か文字盤でした。
当時、母は他界していて弟も県外に出ていたため、独身だった私が1人で介護をしました。私は31歳、父は59歳でした。大人の介護を一人でするのはしんどいですね。排泄の介助や着替え、食事、透析、福祉車両に買い替えて病院まで連れて行ってという生活でした。4〜5年続いたかな。記憶ではずいぶん長くやった気がします。
父の介護の時は、IT系のホームページを作る仕事をしていたので、在宅ワークも可能でした。病院に通信環境とパソコン持ち込んで仕事をしたりもして。介護サービスをフル活用しながら、デイサービスやショートステイをお願いして、出張もしてました。
辛いなと思うこともありましたが、慣れるもんですね。だんだん父親のことが愛おしくなりました。
正直なところ、娘にケアが必要になった時は「またか」って思いました。
父の時に得たケアの方法は現在にも活かされています。また、障害があっても動じる事がなくなったのは、当時の経験があるからだと思います。
ーー浪花さんが、ケアにおいて1番大切にしていることはなんですか?
りなが楽しむ事が一番。と、同時に私たちも楽しむ。
「1日一生」という考え方を大切にしています。1日は一生で、次の日はまた新しく生まれ変わって1日を迎えて終えるという意味です。1日を一生懸命、1日を楽しく過ごせたらいいなと思って毎日を過ごしています。
りなの夢は、医師とパティシエです。ケーキが作れるドクターだねって。
学校の作文には、人の役に立ちたいから医師になりたいって。でもパティシエにもなりたいって。食いしん坊ですよね。
(おっきなカニを頬張るリナちゃん)
どんな時も笑顔を絶やさないよう心がけてます。
リナには、人のことなど気にせず、我が道を歩んでほしいと思います。
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「本人にも家族にも」気持ちよく過ごせるように、、、
ーー色々経験されてく中で、もっとこうだったら助かるのに、と思うような点はありましたか?
入院時の24時間の付き添いですかね。仕事との時間調整や、幼い兄弟がいたるすると、さらに大変だと思います。こういうところにも、第3の機関や代行サービスの介入があると助かる人も多いんじゃないでしょうか。あとは、付き添いの人が使用できるお風呂やキッチンのような生活環境や、テレワークも増えてきた今、ネット環境が使えるエリアなどが充実すると、付き添い時間と生活の両立がしやすくなると思います。
あとは、学校ですね。最近は学校側の受け入れの幅も増えてきましたが、まだ難しさを感じる場面も多いと思います。医療的ケアのために看護師さんが必要になるなど、大変なこともあると思いますが、社会生活は同級生と接することで身につくものだと思います。 垣根を無くして、「分ける」より「受け入れる」価値観が作れたら親としても嬉しいです。
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ケアと仕事・家庭を両立しながら、自分らしくいるために
ーー現在のお仕事について教えてください
車で約20分ほど離れた会社に勤務するサラリーマンです。
部署の上司には家庭事情をご理解していただいており、早退や、検査のために休む事も快く了承してくださっています。また、子どもが入院している時は残業ができませんでしたが、そこもカバーしてくださいました。
娘の状況を隠さず話す事で、理解が得られやすくなりました。
無駄な残業はせず、家にいる時間を長くすることができています。環境には恵まれていると思います。
ーー休日はどういった過ごし方をされていますか?また、ご自分のための時間はありますか?
土日が休みで、毎週どこかに出かけています。
最近は温泉ブームなんです。ちょっと前に日帰り温泉に行った施設に「今度は泊まりたい」って子どもたちが言うので、この前は福井の芦原温泉に家族で泊まりました。コロナのおかげで、キャンペーンやってて安く泊まれるようになってて、それをフル活用しました。普通だと泊まるには悩むけど、安く泊まれてよかった。眺めも良くて、温泉もよかった。リナはビュッフェが好きだったみたいです。
(宿の浴衣を着ての1枚。とても楽しそうです!)
ただ、自分の時間を作るのは簡単ではないですね。
趣味は、
写真を撮る事、映画鑑賞(自宅にホームシアター完備)、音楽鑑賞、スキー、インラインスケート、パソコンの組み立て、プラモデル、ビール&日本酒、料理、ドライブ、瞑想、神社参拝、自然が豊かなところに行く、旅行、ハイテク機器で遊ぶ、などなどたくさんありますが、、
子どもから開放される時間は朝しかなくて、4〜5時には起きてちょこちょこしてます。時間の確保は頑張ってしてます。
写真は出先で撮ったり、でも映画はあんまり見れてないかな。
機械をいじったりは、趣味と仕事が半分重なってる感じもありますかね。
ーー「上衣腫家族の会」の運営や、東京医科歯科大学との共同プロジェクトに携わるようになったのには、どのようなきっかけがあったのですか?
上衣腫家族の会については、もともと個人で小児がんに関する情報を、BlogやFacebookで配信していました。
それを見られていた、リナと同じ病気を持つ親御さんとFacebookのメッセージで何度かやりとりをさせて頂き、東京の小児がんのシンポジウムでお会いする事ができました。
その後、その方から、共同で上衣腫家族の会を立ち上げませんかとお誘いを受け、運営を行う事になりました。
Facebookのプライベートページで、そこに100人くらいの人が集まっています。悩みや治療、症状を投稿して、経験者がコメントを返すといったかたちです。情報共有、情報交換を行うプラットフォームですね。とても緩やかな会です。
ーー東京医科歯科大とのプロジェクトはどういった経緯でスタートしたのでしょうか。
東京医科歯科大のTwitterでの投稿をみて、使いたい!と思ったのがきっかけです。
リナちゃんとお話がしたくて、勝手に研究をしてるんですけど。自分のため6割、りな4割みたいな。でも、ひいては世界中の方のためになると嬉しいです。時々ズームでミーティングしてアイデア出しとかもやってます。
東京医科歯科大と共同でVoiceRetrieverのプロジェクトを進めているのはとても楽しいですね。
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ーー最後にお仕事やケアを両立しながら自分らしくあるための工夫やポイントを教えてください
自然体かな。
無理をせず流れに身をまかせるようにしています。
自分らしくという点では、過去を嘆いても仕方がないし、未来を心配してもどうにもならない。
今を生きる事を意識して、一日一日を大切に過ごす事が、自分らしさに繋がると思います。
家族といられる時間が長くもてて、子供達が笑顔いられるだけで嬉しいですね。
(フラダンスをしなやかに踊るリナちゃんも素敵です♪)
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以上、本日は脳腫瘍と闘うリナちゃんのお父さんである、浪花浩和さん に、一日一日を一生懸命に楽しく過ごすコツや、ケアと仕事に関するお話しを伺いました。
日々の過ごし方や考え方、お話いただいたエピソード全てから、浪花さんのリナちゃんへの愛が伝わってきました。今回お見せいただいたリナちゃんの写真には、笑顔がたくさん溢れています。今、当たり前と思われているケアのあり方にとらわれず、もっと過ごしやすい世の中に変わっていける可能性を学ばせていただきました。
浪花さんの貴重な声や熱い思いが、一人でも多くの方に届くことを願います。
浪花浩和さん、本日はありがとうございました。
【取材・文=小坂なつみ】