なかなか良かった!「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」
韓国ドラマ「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」を観た。
(ネタバレあります。ご注意下さい。)
韓国沼の先輩方は口を揃えて「前半はすごくいいんだけど、後半がね…」
「途中から辛くなるよ…」と言うのでなかなか踏み切れなかったけれど、「ある春の夜に」を観てからチョン・ヘインの他の作品も気になり始め、 恐る恐る、えいやっと意を決して視聴開始。
結果、自分でも驚くほど心に残ってしまい、なかなか他の作品に移れない。
こんな時は徹底的にどっぷりハマって「もうお腹いっぱい」状態にして昇華させるのがいちばん!
「ある春の夜に」と同じ監督・脚本家で、演出・カメラワーク・音楽はどれもゆっくりと余韻が深く、少ない台詞で多くの感情を伝えてくる。
会社のビルの屋上、自宅マンションの入り口、レストランのいつもの席。
車の中、公園の抜け道、レンガ壁の店の前。
繰り返し登場する場所、同じ画角は二人の状況や気持ちの変化をより際立たせる。じれったさ、溢れる幸せ、不安、すれ違いの始まり、別れ。
公園の破れた金網は公に出来ない関係の暗示にも思える。
秘密の冒険を始める扉だったり、二人を遮る壁だったり。
傘は重要なモチーフ。
突然の雨に一本だけ買って急接近した相合傘。
これまでの関係を壊してしまいそうでなかなか気持ちを言い出せないジュニが「大切にしてね」と精一杯の言葉でプレゼントした赤い傘。
お見合いに行ってしまった後、大きな後悔を抱えてジュニの家に行くためにジナが買った緑色の傘。
二人を明るく映すラストシーンの黄色の傘。
音楽も素敵。特に好きな3曲。
Rachael Yamagataの「Something in the rain」「La La La」
Carla Bruniの「Stand by your man」
ユン・ジナ 35歳 コーヒーチェーンの本社スーパーバイザー
ソ・ジュニ 31歳 ゲーム会社のクリエイター
姉の親友、弟の親友。家族のような付き合いをしてきた二人。
チョン・ヘインはジナを慕う年下の可愛らしさ、親という後ろ盾がなく育つ中で経験したであろう悲しみや強さ、愛するジナを守り切れない苦しみや弱さを見事に演じていた。
大人になりきれない甘さや頼りなさが残る女性からジュニを愛して愛されて強く変わっていくソン・イェジンの演技はさすがとしか言いようがない。
恋に落ちていくジナとジュニはずっと観ていたいほどじれったくて可愛らしくて幸せで温かい。
話したくて会いたくて触れていたくて。
寝る間を惜しんで電話をして、少しでも長く一緒に居たくて、帰るのを引き留めて、慌てて朝帰りして。
ああ、恋愛ってこうだったぁ…とふと懐かしく思い出してしまった。
韓国で「眠っていた恋愛細胞を呼び起こす」と言われた理由がよく解る。
ただ、その幸せには常に影や不安が付きまとっている。
相手の家柄や職業が最優先の異常なほど保守的なジナの母親。
親代わりに大切に育てた弟が傷つくのが一番辛いジュニの姉ジョンソン。
ジュニや親友のジョンソンが自分の親に傷つけられて苦しむジナ。
自分のせいで母親に責められ叩かれ泣くジナに心を痛めるジュニ。
幸せが募るほど、不安や罪悪感も深まっていく。
「私たちは間違っていない」
「ただジュニがいれば他に何もいらない」
「私よりも私を心配して大切にしてくれる人のために強くなりたい」
ジュニの愛が、ジュニへの愛がジナを強くしていく。
嫌な事を嫌だと言えなかったジナがセクハラの告発をするまでに。
反比例するように、傷つき泣くジナを見ているうちに、一途で頑なだったジュニの心には少しずつヒビが入って、ついに砕けてしまう。
ジナの誕生日に「一緒にアメリカへ行こう」と伝えたジュニ。
会社からも親からもジナを開放させてあげたかったのも本当。
でも自分自身がこの苦しみから逃げ出したかったのも本当。
一緒に行ってしまえば楽になれるけれど。
本当はそうしたいけれど。
強くなったジナは会社からも親からも「逃げる」ことは出来なかった。
そして二人は別れた。
数年後、ジナの弟の結婚式で再会する二人。
恋人といても幸せそうではないジナを見かけるジュニ。
アメリカにいる間ずっと「ジナは幸せになるな」と思っていたのに
自分が願ったとおりのジナがいて、胸が張り裂けそうなジュニ。
思いがけない再会に動揺するジナ。
「全部忘れたと思っていたけど、実際彼に会ったらまるで昨日まで付き合っていたみたいだったわ。もう少しでたぶん私、駆け寄って彼を抱きしめるところだった」と友人に打ち明ける。
「出来たら、前の、付き合う前の関係に戻れない?」
ジナはこれからも会う機会があるジュニとのわだかまりを少しでも解きたかった。「親友の弟」でもいいから、繋がっていたかった。
でもジュニはその言葉が許せなかった。
「本当に前の関係に戻れるのか?本当に出来るのかよ!
俺は死ぬまで殴られたって絶対に出来ない!」
「あんな風にあなたが去ってから、私が幸せでいたと思う?
周りの哀れむ目に耐えながら、それでも踏ん張っている自分自身が何より嫌だった。悔やみ恨みながら、毎日毎日、歯を食いしばって耐えてきたの。これはジュニとギョンソンを傷つけた罰だと言い聞かせてきた。その地獄のような苦しみがあなたにわかる?」
「なんで俺がそれを知らなきゃいけないんだ!
ジナがどう生きてきたかなんて、俺には関係ない!!」
お互いに激しい感情をぶつけあうこのシーンは本当に素晴らしかった。
ロングカットが多いこのドラマの中でも圧倒的に。
ジナは会社を辞め恋人とも別れ、済州島に移住して友人のカフェを手伝う。帰国の荷造りをしながら聴いていた曲が終わり、録音されたジナのメッセージが流れ、思わず手を止めるジュニ。
「ジュニ、私よ。ありがとう。私を大切にしてくれて。愛してくれて。
誰かにこんなに愛されるなんて思わなかった。
知らないでしょ。今の私がどれだけ幸せで毎日を過ごしているか。
あなたにたくさん教えてもらったわ。
愛とは限りなく惜しみなく、たった一人のために心の限りを尽くすこと。
私も愛する時はジュニのように愛するわ。
ジュニ、愛してる。ものすごく、ずっとずっと愛し続けるわ」
二人でいた時間がどれほど幸せだったか。
ジナが自分をどれほど愛していたか。
そして自分がジナをどれほど愛していたか。
ラストシーン。
急な雨に慌てて店じまいをするジナの前にジュニが現れる。
「持って行った傘を返せよ」
「そんなことを言うためにこんな遠くまで来たの?笑わせないでよ」
「顔は笑ってないぞ」
まだ付き合う前、過去を整理しようとしたジナがジュニに貰った赤い傘を捨てられずブランコで思いを巡らしていた時と同じ、たわいないやり取り。
降りしきる雨の中でじゃれあい戯れながら二人の気持ちが再び結ばれる。
「俺は本当にジナなしでは生きられない」
ああ、ハッピーエンドで本当に良かった・・・
正直なところ、周りの感想と同じく後半は観るのが苦しかった。
幸せいっぱいの前半とのギャップが大き過ぎて、辛かった。
ストーカーまがいの元カレと二人で会ったり別れ際に握手したり、
母親を黙らせる最後の切り札だと考えてお見合いに行ってしまったり、
一人暮らしの部屋をジュニの出張中に勝手に契約してしまったり。
ジナの勝手な行動が大きな騒動や亀裂を生んでしまい、なんとも歯痒かったけれど、ジュニに頼らず強くならなくちゃとただ一生懸命だったのかな、と思いたい。
済州島の綺麗な夕陽や穏やかな海のように、やっと手にした幸せに包まれていつまでも幸せでいて欲しいな。
また二人に会いに戻ってしまいそうだけど、まずはいったんこれで卒業!