無責任なAIに筆を握らせるな mimicの無責任さを批判する

この記事は、AI画家について、その無責任さを批判する記事である。同時にそれらのサービス運営のお粗末さを批判する記事でもある。

人間が人間たる所以は、責任感をもって行動し、いざという時にけじめをつけられるからである。
イラストレーターにもこの原理が完全に適用される。我が国では表現の自由が保障されている以上、自由に表現してよいが、同時に自分の創作物には責任を持たなければならない。

もし自分の創作物に対して謂れのない誹謗中傷を受ければ正当な反論を繰り出し撃退すべきであり、真っ当な批判があれば受け入れる必要がある。そこには絶対的な基準はなく、個々の人間同士が、人間の集団同士が、話し合いを重ねて落としどころを見つける営みが必要だ。

しかし人間と違って、AI画家は責任を取ることが出来ない。
もしAI画家に切腹プログラムを組み込み、人間たちから糾弾されるとコードが破損し、ハードディスクが煙を上げて砕け、画面に「この度は誠に申し訳ございませんでした、私の進退をもって責任を取らせていただきます。」と表示され、機能停止するような仕様にしたら人間たちは納得するだろうか。
納得するはずがない。ただのプログラムがそんな行為をしても意味がない。

AIによるイラスト作成サービスmimicには責任をとる仕組みが完全に欠如しており、そのことを運営者が認識していないお粗末さが多くの人間の反感を買った。
mimicは悪用が非常に容易なシステム設計にもかかわらず、それを抑止するシステムが全く備わっていなかった。

mimicに自分の作品以外をアップロードすることは禁止されているが、そんな規則を無視する人間が大量にいることは、イラストレーターなら常識として知っている。彼らは常に無断転載や著作権の問題に悩まされている。

mimic運営はイラストレーター界隈の実情をきちんと調べずに性善説に基づいたシステムを構築したのだろうか?違うと推測するのが普通だろう。界隈で無断転載や自作発言が蔓延っていることは絵に関わる者ならば皆が知っていることである。

とするならば、mimic運営は悪用される可能性が高いことを知りながら「知らないふりをした」としか思えない。mimic運営は自分たちのシステムが容易に悪用されることについて「もし悪用されたとしても我々の責任ではない」と悪びれもせず主張したのだ。

彼らによれば悪質な利用者に対しては法的措置を取るというが、絵に描いた餅である。大量の悪用者が発生するのに、悪用者一人一人全員に対して訴訟を起こすなど不可能である。1件の訴訟を起こすのに10万円かかるとして、100人の悪用者がいればそれだけで1000万円が必要になる。

それを管理する人員も必要になる。どうやってそのコストをmimic運営が負担するつもりなのだろうか。もしかすると超有能なAI弁護士を使うつもりなのかもしれない。

AI弁護士の冗談のくだりはさておき、そんな大量に訴訟を行うのは無理なのだから、もしmimic運営が真面目に法的措置を取るならば、影響が大きく悪質な悪用者に限られる。

当然、ちょっとしたイラストレーターが彼らの作品を悪用された場合などは無視され、ごく一部の超著名イラストレーターが被害を受けた場合のみ対応することとなるだろう。

mimicによる被害が発生した場合、超有名でイラストレーター自身がブランドとなっているケースでは被害が少ないだろう。既に仕事の実績があり信頼も勝ち取っているのだから、mimicに模倣されても被害を訴えればいい。数多くのフォロワーが援護してくれるだろう。仕事のつてだっていくらでもある。

対して、駆け出しのイラストレーターの場合はすり潰されることとなる。mimicに模倣されてもファンが少ないので助けてもらえない。訴訟を起こす経済的・時間的余裕もない。絵柄が世間に知れ渡っていなければ、mimicに模倣されたことを世間に信じてもらえない。

泣き寝入りして筆を折るしかない。mimic側にしてみれば無視してほっとけばそのうち消えるのでどうでもいいと思ってるのだろう。これは妄想ではない。訴訟を行う体力が無い弱者が泣き寝入りするのは大昔から続いている問題でありどの業界でも起こることである。あなたが次の被害者になる。

以上のように、mimic運営が本当に法的措置を取るかどうかについては、実情を考えると疑問符をつけざるを得ない。mimicの規約からは、何かあれば責任をとるという覚悟が全く感じられないのである。

AI画家は技術的には確かにすごい。これは認めざるを得ない事実である。つい5年ほど前はこんな技術が登場するとは夢にも思わなかった。

だがその技術が他人に迷惑をかけるならけじめをつけなけらばならない。もし、多くの技術至上主義者たちが呪文のように口にする「法的に問題がない以上mimicには問題がない」という文句を、本当に正しいと思うなら、そうはっきり言えばいい。

mimicの規約に「法律上問題ないので皆様のイラストを勝手に学習して勝手に出力します。法律上問題ないので我々はいかなる責任もとりません。」とはっきり書けばいい。

mimic運営はそうはっきり明言せずに、責任の所在を有耶無耶にした。問題が起きた場合の解決方法も実効性が無かった。性善説を信じている振りをした。そういう卑怯さ、姑息さを人々は許さなかった。

「法律上問題ないので勝手に絵を使用するのは何ら問題ない、反対するイラストレーターは感情論に振り回される馬鹿野郎だ」と主張するのは大いに結構。それを学習材料にされるイラストレーターたちに面と向かって言えばいい。

だが本当にそれが正しいことだと胸を張って面と向かって言える責任感を、言い返される言葉を受け止める度胸を技術至上主義者たちは持ち合わせているのだろうか。

技術至上主義者たちは、実際に手を動かして膨大な時間をかけて絵を描いているイラストレーターたちがこの件に対してどう思ってるか、彼らの意見を聞いているのだろうか。技術の進歩のために足蹴にされる人間の屈辱を無視してはいないか。個人の尊厳を軽視してはいないか。

技術の進歩のためにならイラストレーターたちは喜んで犠牲になるべきだという傲慢さが技術至上主義者たちの間に蔓延っている。自分がやりたいことのために誰かを犠牲にする必要があるなら、相手のところに行って丁寧に説明をして頭を下げてお願いするのが人間の道理である。

結局、mimicは不正利用対策が十分にされる正式版の発表まで非公開となった。イラストレーターたちの声を受けて迅速に行動した点は評価できる。正しい責任の取り方だった。今回、責任を取ったのはmimicというAI自身ではなくmimic運営の人間たちであった。責任を取る行為は人間にしかできない。

飼い犬が人を嚙んだ時、犬に刑事罰を加えても意味がない。犬を殺処分するか、飼い主に刑事罰を科すか、あるいはその両方だ。それが責任を取りけじめをつけるという意味である。責任を取る覚悟がないなら犬を飼うな。(了)

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