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カニカニレボリューションと休む
本作品は、カニの話だ。それも、進化を途中でやめたカニの話だ。生物は、生存適応のために、身体を大きくするものもあれば、逆に体を小さくするものもある。本作品に出てくるカニは、真っ直ぐしか歩かない。方向転換が出来ないということは、生存にとってかなり致命的だ。行動範囲が限定されていれば、捕食されやすいだろうし、子孫を残す相手と出会う確率も減ってくる。そんなカニが、進化をしようとしたり、進化をしないようにしようとする。本作品はそんな話だ。
本作品のストリーは、上記のように非常に明快で、わかりやすい。海外漫画を読んでいると、説明が意図的に省略されていたり、分かりきらないところが出てくることがよくあるのだが、本作品にはそういうところはない。これを端的に表現している、訳者である原正人さんのあとがきを引用させていただく。
地味なカニを主人公に据えつつも、スピード感溢れる追跡劇や読者の目を引く派手な戦闘シーンが盛り込まれており、読んでいて飽きることはない。主人公ソレイユが深海で修行をするシーンがあったりして、思わずクスリとしてしまう・・
さて、本作品の漫画表現的な特徴としては、1つめにイラストレーターを使用して描かれているところだろうか。1980年代にイラストレーターではないが、マッキントッシュで作成された、下記のバットマンと見比べてみてもらいたい。
本作品の作画はこんな感じだ。
いずれも背景色も落ち着いたトーンで見ていて安心をする。上のコマに書かれた手を見ても、手書きがイラストレーターか分からないレベルだ。80年代にできたことと現代できること(目下、今でも技術は進歩していると思われるが)には、大きな隔たりがあり、技術の進歩が、漫画の作画にも影響を及ぼしているとは、と驚いた。本作品の主題と重ね合わせるとするならば、ある種の能力の限界が、その種の一生の限界を画するように、ある技術の限界が、その作品の限界を画するのではないかと感じた。
現在(2021年8月現在)東京オリンピックが開催されている中で、コロナ感染者が増加しており、夏を楽しむ雰囲気ではない。そんな中で、海辺に行きたくなるそんな作品でもある。