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ムチャチョ ある少年の革命と休む
海外漫画特にフランス圏のバンドデシネを読んでいくと、世界が広がる気がする瞬間がある。それは、普段触れない色彩感覚であったり、日本のメディアや教育課程ではなかなか触れられない世界の出来事を知れる瞬間だったりする。本作品ムチャチョはまさにそんな作品だ。
本作品は、中南米ニカラグアの1976年を舞台とした作品だ。まず、ニカラグアってどこだっけって感じだし、現代史におけるニカラグアに状況を知らない人も多いと思う。そんな人でも楽しめるように本作品の巻末には簡単なニカラグアの年表も付属している。漫画も楽しめる中南米ニカラグアの現代史を簡単に触れることができる。海外漫画の醍醐味だと思う。
次に、本作品はバンドデシネの中では著名な、エマニュエル・ルパージュという漫画家が作品を描いている。このエマニュエル・ルーパージュの絵がまた素晴らしいのだ。中南米の明るい太陽を感じるベージュ調の色彩、ジャングルの雰囲気を感じるグリーンフィルターがかかったような色彩、夕暮れ時の紫っぽい色彩、それぞれの場所や時間、それぞれにマッチした色彩がふんだんに表現されている。
バンドデシネの漫画家の中には、背景を含めて緻密に書き込む漫画家もいる。エマニュエル・ルパージュはどちらかという緻密に描き込んでいく漫画家というよりは、色彩表現で描き込んでいく漫画家であるように思われる。いうなれば、バンドデシネ界の印象派ともいえる作家であると思う。
前置きが長くなった。本作品は1976年、紛争状態にあるニカラグアのある村に宗教画を描くために赴任した若者、ガブリエル・デ・ラ・セルナの成長(革命)の物語だ。ガブリエルは宗教画を描く中で自分の性に目覚めたり、ジャングルの中でゲリラと行動を共にしたり、その中でゲリラの仲間を助けるために人を殺したりする。それはニカラグアの革命運動と、ガブリエル個人の革命が重なるようなものであった。
上記がガブリエルだ。1コマだけみても絵のうまさ、色彩の奥深さみたいなのを感じて頂けると思う。これがこの1コマだけでなく、全てのコマで続くのだ。
上記はジャングルを進むシーン。水の流れる様子とかジャングルの間に陽が差し込む雰囲気もすごくいい。絵画よりは色々簡略化されていたり輪郭線が強調されていて漫画っぽいが、こういう絵画があると言われても違和感ない。
これは村での銃撃シーンのあとの1コマ。まるで映画の1シーンのような緊張感あるパネルだ。悲惨だけど静寂に包まれた、綺麗で残酷なシーン。本作品でとても気に入っているシーンだ。
以上のように、本作品はストーリーを楽しんで1回、それぞれのコマの色彩を楽しみながら1回、ガブリエルの成長を楽しみながら1回、合計3回は楽しめる作品だ。是非一読して頂きたい。