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第24話 都市伝説『新エンジン』(BJ・お題「8月15日」)

これまた、ニーマンという謎の人物から私に送られてきた情報なんですが、彼によると、非常に効率のよいエンジンが軍事用に開発されているというんです。エネルギー効率と言いまして、多くのエンジンは熱エネルギーを使って運動エネルギーに変えるわけですね。蒸気機関に始まり、車のエンジンとかもそうです。


ここで車に詳しいバスさんに聞いてみたんですけれども、エンジンのエネルギー効率というのは40%くらいだそうで、じゃあ、あとの60%近くは熱とかになってただ捨てられているっていうことですね。

それじゃ、そのニーマンの話では、エネルギー効率が50%以上のエンジンが実用化されている、っていうんで、それはかなり効率が良いということになります。

それも、海で使われているようなんです。そのエンジンが極めて静かである、というのがミソのようで、どうも潜水艦とか、魚雷で使われているのではないかというのです。

潜水艦って超音波を使って、音で探り合いをしますよね。だから攻撃体制に入ろうとすると、それだけで音で知られてしまいます。ところがこのエンジンはほぼ無音で動くらしいんですね。それでいて高性能だっていうんです。

エンジンは極秘開発されているので、設計図も軍事機密なんですが。

それであるときそのエンジンを積んだ艦が、事故にあったというんです。深夜のことでした。岩にぶつかって座礁したっていうことで。

艦の壁にはわずかな損傷しかなかったようですが、エンジンに影響がおきたようですね。

なにかと不審な点の残る事故ではあったそうです。どうも仕組まれた事故ではないかと。海域も他国の海域に侵入してしまっていました。ここで艦が沈没ということになると、その後にその海を所有している国に艦の部品を回収されてしまい、軍事機密を知られてしまうことになります。それだけは避けなければなりません。

すぐさま2名のエンジニアと、なぜか副館長と下級の水兵2名がエンジンブースに送り込まれました。
そのとき、近くにいた乗組員がいました。――名前を言うとどこの国かヒントになってしまうんで、M二等兵とN二等兵としますが――抜け出してそこでクスリをやっていたらしいのです。

実はそのすぐ近くにある小さな倉庫に、なぜか薬が置かれているのを、2人は知っていたのです。そこで夜中に船室を抜け出しては、その一部を横領して使っていたのでした。なぜそのような薬があるのかは知りませんでした。

そこは真っ暗ですし、懐中電灯を持って現れたエンジニアたちも彼らには気づきませんでした。

「見たか?」

「見た」

M二等兵によると、厳重な入り口が開く瞬間がちらりと見えたらしいんですよ。

エンジンブースの広さは、テニスコート半面くらいであったそうですが、M二等兵によると、そこにすでに人が潜んでいたったって言うんですよ。やはり軍事機密を盗み出すために、侵入者が艦を誤作動させた疑いが残ります。

すると、ブース内から銃声が聞こえました。
その直後、やがて、緊急警報がなりました。脱出ボートによる脱出命令です。

M二等兵もN二等兵も、慌ててその場を離れてデッキに出たそうです。

さて、他国の海域とはいえ、海のただ中です。助けなどくるのでしょうか?

水兵たち総勢約50名は4艘のゴムボートに乗り込み、オールで海原に出ました。

艦長たちを含めた3名ほどが、別のボートに乗っているのを、M二等兵は見たそうです。操縦できるタイプのボートで、かなり立派なものです。

見た瞬間に、頭がかっとなってしまったそうですよ。自分たちだけいいボートに乗って助かる気なのかってね。

スーッと、そのボートは音も立てずに進んでいきました。
ゴム製ではあるのですが、後方に車輪のようなものがあって、それが回転しているんです。

いっぽうM二等兵は、死も覚悟したそうです。

ところが、艦長たちの乗るボートが、急に止まってしまった。なにをしている!と怒鳴りつける艦長。エンジニアが、後ろにあるエンジンの入った四角い箱を開けます。
とたんにそのエンジニアが中に吸い寄せられてしまいました。

「その箱から出てきたのは、白い、裸の人間たちだったよ。妙な太い毛のようなものが身体についていて、月夜の中で白―く映えていたんだ」
と、M二等兵は証言するのでした。

その後「よこせー」と言う変に甲高く掠れた声が聞こえたそうです。

その後、「やめろー」と大慌てで艦長たちが言う言葉に、その不気味な声はかき消えてしまいました。

ゴムボートに乗った水兵たちがそれをあっけにとられて見ていますと、やがて艦長たちのボートは沈んでいったそうです。

その直後のことです。
ゴムボートの周りに、白く浮遊するものが次々と現れました。
やがてボートのヘリに、

ペタ、ペタ、ペタ

と音をたてくっつくものはーー

人の手でした。真っ白な手。

その後水面から顔が出てきます。髪の毛のない、頭が半分のところで平らになった、いびつな顔でした。それらが皆、「よこせー」「よこせー」と言います。

水兵たちは必死でそれら異形のものを追い払おうと、あるものはオールで押し、あるものは蹴飛ばしました。ですが、その白い者たちはひるむことなく、ただひとつの動作をくり返していることに気づきました。

皆、なんらかの部品を持っていたのです。それが皆、バケツにしろ、コップにしろ、水を掬えるようになっている。それらを使ってその異形の者は、数十体はいたのでしょうか、皆が水をゴムボートに向かって一心不乱にというのか、淡々とというのか、入れ込む。わずかな量ではありますが、チリと積もれば山となる。
ゴムボートの一艘が沈み、また一艘が沈む。
白い者たちは、一艘ずつ、確実に手をかけてきます。

Mさんたちは必死でゴムボートを漕いだそうです。ですが、最後の一艘であったそのボートにも、白いものたちは一瞬で追いついてしまう。

ひたり。ひたり。ひたり。
ピタ。ピタ。ピタ。

ぼたり。

「よこせえ」

水が縁からは静かに、少し遠くからはじゃばじゃばと入れられます。皆もうパニックで水を外に出そうとしたり、異形のものを攻撃しようとしたり。

そのとき、N二等兵が立ち上がったそうです。
「ここにあるっ」
そう言って彼が海の向こうに放り投げたのは、倉庫から盗んだ薬であったそうです。

その薬が飛んでいった方向に、勢いよく

ビチビチビチビチビチッ

異形の者たちはむらがり、争うようにそれを取り合い、やがてそれらは——

おそらく海の藻屑となって消えたのかと思われるのですが、見ていないのでなんとも言えないということです。水兵たちは振り向く間もなく、ボートを漕ぎつづけました。


生還したM二等兵は後にN二等兵から聞いたそうです。戦艦で、彼はM二等兵よりももっとはっきりとエンジンブースの奥の様子を見ていました。

エンジンブースには白い、裸の人間が、ずらーーっと並んでいたそうです。それが、ひたすらに機械的に動いていて、完全な無表情。また、身体中に管やら針金やら機械やらが装着されていて、手足はともに、べダルのように回転運動をする器械にうまいことくっつけられていたといのです。

それで、点滴のようなものも無数に取りつけられていたって言うんですよ。病院で患者さんにたくさんの管がつけられるのを、スパゲティー症候群っていうらしいんですが、まさにそんな感じだってN二等兵は言うんですね。おそらくですが、トイレも食事もなく、栄養を取るのも排便排尿も管とかを利用してなされていたんではないかと。

また倉庫にあった薬は、覚せい剤と、精神科の薬、とくにうつ病の薬がたくさんあったそうなんです。


来る日も来る日も報われることがない作業をすると、人はうつ状態になるそうです。
うつになると、活動が少なくなり、自殺をするようにもなります。

ちなみにうつ病の薬の研究のためには、ネズミを水に漬け込み、溺れるまでひたすらもがく時間を調べるそうです。うつ病の薬を打たれたネズミは、そのもがくのをやめるまでの時間というのが長くなるそうですよ。


ところでかつて日本には人間魚雷っていうのがありました。乗ったら最後、生きて戻ることはない人間魚雷。

空軍の特攻隊は有名ですが、あれはほとんどが敵艦にも届くことなく死んでしまったのが大半であったという話ですね。
いっぽうで人間魚雷の回天は、終戦の8月15日に至る直前まで使用され数多くの敵船を撃沈させました。人間魚雷という平気があまりに狂気じみて残酷なせいでしょうか、国内ではあまり話題にはなっていないようです。
ところが最近、とある国がこの人間魚雷のことを調べに来た、という話があるのですね。


ところであの異形の者たちが「よこせ」と言っていたのは、本当に薬をよこせと言っていたのでしょうか。

「8月15日」というお題でバスさんがお盆の話を外してきましたので(笑)、都市伝説担当ではありますが、私がそちらに引き寄せておきましょう。
お盆といえば舟幽霊の話は有名です。
お盆に海に行くな、などと言いますが、船を出すと、「ひしゃくをくれえ」と言われて、つい渡してしまうと、それでもって亡者に水を舟に注がれるから、穴の空いた柄杓を渡さなければいけないという。あれです。

穴の空いた柄杓を渡しつづけるとどうなるでしょう。次から次へと来る舟が、みな穴の空いた柄杓を予め用意している。柄杓を注ぎ続ける亡者のほうだって、なにか学習するんじゃないでしょうか?

「ひしゃくの底をよこせえ」なんてね。

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