第77話 『消えた彫刻家』 (スペシャルゲスト・こーたろ怪談さん)
(今回は特別にコラボゲスト、こーたろ怪談さんのネタをお送りします)
これは私が活動を始めて一年と半年ぐらいたったとき、ツイッターである方からフォローとダイレクトメッセージをいただいたんです。プロフィールを見たらいいお年で、四、五十代のくらいの男性なんですね。で、趣味で彫刻やってますって書いてあったんですね。
で、どうしたんだろうと思ってメッセージを見てみたら、「実はこんなことが。コータロさん、怪談の活動しているみたいなので、もしよろしければ自由に使ってやってください」って内容だったんですね。
どうもありがとうございます、とお話を見させていただいたんですが。
この男性、先ほども言った通り、彫刻が趣味なんですね。その彫刻。動物も掘ったりするらしいんですよ。たとえば図鑑を見てね、気に入った動物があったら、正面の見えているところをササササと彫って。フリーマーケットに出すと、結構売れちゃう、みたいなね。腕は結構すごいんですよね。
で、今までいろんな趣味をやってきたんだけど、彫刻が一番長く続いているというかしっくりきたそうなんですね。
で、そんな彼があるとき、まあその日も会社で普通に事務仕事をしていたんですよ。そしたらね、いきなり頭の中にひらめきが来たんですね。「これ、次の彫刻のネタだ」というか、ハッというふうになってバーってメモにおこして。で、その週は、ちょうど会社からお休みを取れっていうふうに言われてて。働きかた改革とかあったじゃないですか。ちょうどその頃だったんで。連休を取ることにしたんだそうです。有給を長く取っていなかったから、お休みを繋げろって言われて。で、しょうがないからじゃあ何日かとるかっていうことで、結局もともとあった三連休に一日足して四連休にしたんだそうです。まあそれで時間が出来たから彫刻しようかってなって、ちょうどその矢先に降りてきたイメージだから、家に帰ってめっちゃほくほくしたらしいんですよ。そして自分のそのメモ書きを見たら、
「うわ、なんだこれ」
って思ったらしいんだけど、まあもう手は止まらないから、帰りにホームセンターで買ってきた木材を、一心不乱にカッカッカッカッ。彫り始めたんだそうです。
そしてできたのが、体育座りをしていて、人間の頭に当たる部分、顔が一切なくて、何層もの牙があるような、そんな人形だったんですね。
この世のものではないです。まさに異形のもの。
衝動的に彫ったもので、もう寝食忘れて二日くらいで彫ったんですよ。もうほんと水飲むくらいで本人もバテる寸前で。で、それでようやく終わって。もうこの方は人付き合いも下手なんだけど、唯一親しくしている人がいたんだそうです。まあ深く連絡を取る人というか。学生の頃からの友達なんですね。で、その方に、
「こんなの三つできたよ」
パシャって写真撮って送ったらしいんですよ。そしたらね、
「うわ、お前なにこれっ。すげー気持ち悪いじゃん」
その写真を送った相手というのはオカルトも好きみたいで、ものすごいその人の彫った、そのだんご三兄弟というか、そういう三つならんだ異形の物がね、ものすごく気に入ったみたいで、一体くれないかと言ったんだそうです。
「お金払うから」
でも
「金なんかいらないよ。じゃああげるよ、一体」
「OK。じゃあこの休み中に取りに行くわ」
ということで実際に次の日には取りに来たんだそうです。
その日は泊まってってもらうことにして、久々に二人で酒飲みながら近況語り合ったりして。
次の日になってお友達は帰っていった。で、残りのお休みの日っていうのはまた図鑑見て、いろいろな本見て、この絵というか生き物いいなって思ったら彫ってみたりとか、あとは自分で体を動かす健康維持のトレーニングとか、そういうことをして過ごしてあっという間に休みは終わったんだそうです。
そしてそれから一ヶ月後。
その友人のほうから、LINEが来たんです。
どうしたんだろう。
《悪い。
あの人形を返してもいいか》
《いいけどどうしたの
別にあげたもんだけどじゃまだったらいいよ。
こっちで作ったもんだからまたもらうから》
《はーい。あのさぁ。
お前これ、3つとも捨てた方がいいんじゃないか》
いきなりそんなこと言われたんです。
トークでそんなことが来たもんだからなにかあったのかなぁと思って電話かけたらしいんですよ。
そしてしばらくして電話がつながって
「お、どうした。なんか俺の気に食わなかった?」
「あのさあ。間違いだったら申し訳ないんだけど、口の中なんか光るように仕込んだ?」
「いや、俺そんなことまでしてないよ。光るってなあに」
「お前のさ、あの彫刻のさ、牙がサメの歯みたいに幾重にもなってるじゃんか。あの真ん中がさ、赤―く光るんだ。夜になると。お前がLEDかなんか仕込んだかなーと思ってさ。でも見ても電池入れるところもなんもねーからさ」
「なんもしてないけどね」
「今お前、この声聞こえる?」
なにも聞こえない。
「え、聞こえないけどどうしたの」
「お前からもらった夜からさ、アー、アー、こんな声が夜中じゅう家に響くんだよ。で、始めはなんだと思ってかみさんがびっくりしちゃったからさ。俺、起こされて見に行ったらさ、その声って明らかにお前のその人形を置いてあるところから鳴ってるんだよね。俺んち夜中テレビもつけないしさ、ましてや俺たちの部屋二階だし、テレビは一階にあるけど電源つけてないし、その時間だからね。俺たち以外誰もいないし。とにかくやばいんだよ」
「なにお前、とうとうオカルトでおかしくなった?」
「ふざけんじゃね。冗談じゃないよっ」
「あー。ごめん。じゃあそしたらさあ、俺、取りに行こうか」
「いや、いい。オレが渡しに行く。ちょっとお前もいっしょに連れてってお祓いもしたほうがいいと思うからさ。いっしょにオレが持ってくから。お前車ねーだろ」
「まあそうだね。わかった。じゃあそしたら待ってるよ」
「うん。早いほうがいいと思うから、ちょうど明日お休みだからさ、明日土日だから明日の午後三時に行くようにする。遅くとも3時には行く。早くてお昼には着くようにするわ」
「了解。待ってるよ」
こんな風にして電話は切れたんです。
「おかしいな」
で、自分でも気になって、残りの二体のほうをふと見てもなにもない。
「あいつぼけたのかな。俺たちもいい年だから。まああともう少しで六十だろ」
と思いながらまた素材探して彫ってたんですよね。趣味で
その日終わって、お風呂入ってビール飲んでゆっくり寝て、翌朝いつもと同じく七時くらいに目が覚めて、ちょっとウォーキング行って、で自分でご飯作ったりして、まあその彫刻したりして友人が来るの待ってたんですよ。
十二時だから昼飯作ってやろうかなと思ってパスタ作ったんですね。友人と二人分作って待ってたんだけど、まぁこない。
「まあ多分休みだから、ちょっと寝てたりして遅くなってるのかな。遅くても三時って話だったし。まあ俺としては別に今日行かなくてもいいんだけどさ」
そういうふうに思って。
一応午後の二時を過ぎたから友人に電話してみたんですよ。
繋がらないんですよね。
「おかしいな。まあいいや」
そのまま彫刻やったり家事を済ませたりしたらもう午後の五時を過ぎたんですね。
さすがにおかしい、どうしようかなーって思ったときに自分の携帯が鳴ったんです。
すごい寝坊だなぁと思いながら、はいもしもし、って出たら
「○○さんですか」
誰だ。
「はい、そうですが」
「私です。あっ今日あの主人がお宅の家にお邪魔するって」
あー、友人お奥さんかあ。話したのずいぶん前だから忘れちゃったー、と思って
「ああっ、いつもお世話になってます。どうしました」
「いやー今日朝、と言っても十一時過ぎぐらいに主人が車に乗ってそちらに出かけたんですよ。そしてお宅結構離れてるじゃないですか」
「あ、まあそうですね。車でかかりますね」
「で、向かっていると思っていた矢先に、電話かかってきたんですよ、病院の方から。主人が、交通事故で亡くなったんです」
「本当ですか。えっ、どこの病院です。僕もすぐ向かいます」
「で、主人はあなたに返すものがあるって言って持って行ったんですけど。もうそれも今私のところにはあるんだけど、どうしていいかわからなくて」
「奥さん大丈夫ですか。僕も一緒にやりますから。あの落ち着いてください。今向かいますからね」
そう言って彼、病院に向かって。
まあそっからちょっと落ち込んじゃっている奥さんをなだめながら、葬式とかも一緒にまあ手伝いできるところは手伝って、友人の焼香とかもしまして、なんやかんやで、まあ一段落ついたわけですね。
友人の納骨も終わりました。
奥さんはものすごく悲しんでたんだけど、そのときにふと思い出したように、
「あ、これです。主人がお返ししようと思っていたもの」
その旦那さんっていうのが、車がもうほとんど大破するぐらいのすごいひどい事故に遭ってしまって、一面血らだけだったんですって。
でもその彫刻、奥さんもなにも手を加えていないと言っていたんですけど、そんな形跡は一切見当たらず、血の色も一切付いてなくてキレイなんですよね。
カバンに入れていたせいなのかもしれないとも言っていたけれど、不気味だよなー。そんなふうに思って、まあ友人の奥さんから受け取ってそれを持って帰ったんですよ。
で、まぁちょっと彫刻やる気にもならなくて、その晩はぼーっとしてて、友人との思い出をふりかえったりしたんですね。
そしてそんな物思いにふけっていたら、二時くらいになってしまった。
「そろそろ寝よ。明日一日休みだけど、もう寝ないとダメだな」
そしてふと気がつくとなんか声がするんですよね。
耳を澄ましてみると
「アアー、アアー」
怖いから側にあった木刀を持って家の中見ていくんですね。不審者が入ったのかもしれない。
そしてじりじりって声のする所に行ったんだけどそこにはなにもない。
あるといえばその声のする方を見たら自分が彫ったあの異形の三体があるだけ。
そしてその口はそれぞれ、赤、青、黄色。
その色に光っていたんだそうです。
そこで彼は記憶を失っています。
正確に言うとまぁそこは気絶をしてしまったんですね。記憶を失ったというよりは。気がつくと昼になってて。
でもその三体の彫刻というのは、別に落ちた様子もなく普通に棚の中に収まっているんです。
「……っていうことがあったんですよ。こーたろさん。でね、友人ってやっぱり死ぬ前にその声を聞いてるわけじゃないですか。で、僕も聞いちゃったんですよね。だからもしかしたら僕ももう長くはないのかもしれない。最後に遺書がわりに残しておくので、もしよろしければこの話、使ってやってください」
そんなふうに締めくくられていて、「どうもありがとうございました」って言って、それから一ヶ月後、その方……
フォロワーからいなくなってたんですよ。
ブロックされたのかなぁと思って検索してみたんだけど、その人出てこないんですよね。アカウントごと消されちゃってる。
あれっ?
で、彫刻とかで調べても、それらしい人は見つからないんですよ、
この人最初から存在していたのかな。メッセージも消えちゃってたから、その人自体がいなくなっちゃったんですよ。
あれ?これ本当に僕、やりとりしたのかなっていう不思議な面もあるし、なんなんだろうなっていう。
まあそんな彫刻があったら怖いな、嫌だなっていう話でもあったんですけど。まぁ色々そういう不思議なことが重なったお話でした。
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