点描画家hiromiの静岡個展で感じたこと
ふと、嫉妬の感情が消えていることに氣づく。
純粋に「しんこきゅう展」を観れたのは、今回の静岡個展が初めてだ。
「おれだってできるんだぞ」と心の中で叫んでいたのは、半年前の大阪個展。
大阪での「しんこきゅう展」は、それまでと規模が違った。
クラウドファンディングのページが朝日新聞記者の目に留まり、大々的に報道された。来場者は200人以上。3日間の開催で、連日たくさんの方が会場に足を運んでくださった。
たくさんの方が、点描画家hiromiの作品に時間を吸い寄せられていた。
絵に足を留め、涙を流す。
大変喜ばしいことだった。点描画家hiromiの作品が、たくさんの方の目に留まる、感じてくださる、涙してくださる。喜ばしいことなのだが、同時に、心の中で黒いものが渦巻いていた。
「おれだってできるんだぞ」
嫉妬だった。
ぼくも芸術家の端くれ。点描画家hiromiの作品が人の心を動かす様を見て、嫉妬していた。
喜ばしいが妬ましい。
こればかりは複雑だ。
当時のぼくには、作品がなかった。
作家として再スタートを切ったばかり。初作品となる『スポットライトを浴びたくて……』は、公開していものの、物語はまだ途中で、紡ぎかけの処女作はとても、人の感情に届くようなものではなかった。
おそらく作家あるあるだろう。初めて世に出す作品ほど、世界が変わる感覚に陥る症状はなんと言うのか、“自惚れ症候群”とでも名付けようか。
「この作品が完結したら、もっともっとたくさんの人の心を動かせる」
そう自負していた。
大いなる自惚れを抱いていたぼくにとって、想い半ばでの「しんこきゅう展 in la galerie」はあまりにも辛辣だった。
目に映るのは、点描画家hiromiの作品を見に、わざわざ足を運ぶ大勢の人々。
賑わう個展会場に反比例して、ざわつきを増していくぼくの内側の黒。
できる、
できるはず、
自分にもここまでのことができるはず……。
点描画家hiromiの世界にあたたかさを感じる傍らで、どこか煮え切らない黒を心に塗りたぐる自分がいた。
『スポットライトを浴びたくて……』は、静岡個展の1ヶ月前に完成した。
完成しても世界は全く変わらなかった。
けれど、どこか、ぼくの心は穏やかだった。
黒一つない快晴。
純粋に穏やかに、「しんこきゅう展 in Wazo」を楽しむ自分がそこにいた。
静岡個展の頃のぼくは、自分にしかできないことをやっている自負があった。
心から自分の読みたい作品を描ききったぼくは、創作者として、これ以上ないほど満ち足りていた。
自分の個展に200人もの人が来てくれたわけじゃない。目の前で、ぼくの作品に涙してくれる人を見たわけじゃない。
けれど、ぼくは十分に芸術家だった。
自分にしかできない表現をやり遂げた。
作品への感想をたくさんいただいた。
作品を愛してくれた人たちが、心の黒を癒してくれた。
変化したのは世界じゃなく、自分自身の方だった。
「ぼくはぼくのままでいいのだ」と、
そう、強く思えていた最中の静岡個展だった。
空間に、作品に、「しんこきゅう展 in Wazo」に、素直に心を委ねて過ごした。
今まででいちばん心地のいい「しんこきゅう展」だった。
「しんこきゅう展」の後には必ず、スナックhiromiという打ち上げがある。
静岡個展のスナックhiromiで、ぼくはひたすらに泣いていた。
参加者さんと酒を交わし、1人と話しては泣き、また1人と話しては泣き、また1人と……、そんな具合だった。
自分でもビックリだ。一体どうしてしまったのだろう。
なぜかは定かではないのだが、おそらく、
「よくやってきたな自分」という旨の涙だったのだろう。
今回で三度目となる「しんこきゅう展」、初めて自分自身を認めた状態で迎えていた。
「ぼくはぼくのままでいいのだ」という心境の変化が、点描画家hiromiのサポートに対しても自負をもたらした。
点描画家hiromiのお手伝いはこれまでにも、渋谷個展、大阪個展としてきたが、いずれも、自分の仕事を「誰にでもできること」と片付けていた。
自分のできることは当たり前に感じてしまう心持ちは、誰しもが抱いたことがあると思うが、加えてぼくは、自己肯定感が飛び抜けて低かった。
「自分なんて別に大したことはしていない」と、そんな心持ちで彼女のお手伝いをしていた。
今でこそ、結構なことをやっていると思うのだが、
点描画家hiromiのお手伝いは、
まだ彼女が点描画家hiromiを名乗る前の、作品集制作のお手伝いから始まり、
個展前は、個展告知用のDM作成から、クラウドファンディングの本文作成や、重要な想いをお伝えする記事の作成、キャプションボードやスポンサーボードのデータ制作、
個展中は写真撮影と映像撮影、
個展後はそれら諸々の作品制作、
といった具合だ。
これらを1人でこなせるのは、それも、点描画家hiromiの想いを汲み取りながら、彼女にストレスをかけることなくこなせるのは、まぁ、ぼくしかいないだろうと、
今なら素直に思えるのだが、
以前のぼくは全く思うことができなかった。
それほどまでに、以前のぼくは、自分自身を大切にできていなかったのだと思う。
今回の静岡個展で初披露となった作品がある。
「大切な存在」という作品。
左の際に描かれたクローバーこそがその象徴、ということはまぁ、語らずしもというところだろうが、
誰もがこのクローバーに、自分自身の大切な存在を重ね想うところだろう。
ぼくが重ねたのは、他の誰かではなく、自分自身だった。
Wazoに飾られた「大切な存在」、
タイトルと絵に、
「そうね…。」
と、心の中で頷く。
まぁ、よくやってきたと思う。
この2年間、点描画家hiromiのサポートを、ずっと。
自分の創作活動の傍、まっすぐな彼女にお願いされ、自分の持てる能力をフル活用。
打ち上げで氣持ちが安堵したのだろう。
「今までよくやってきた」と、心のどこかで思ったのだろう。
自分自身を認めたがために、飲みの席でお恥ずかしい姿を見せてしまった。
全く、「しんこきゅう展」を経るたびに、涙腺が脆くなっていく。
いずれにしてもまた、ぼくの心が開いたようだ。
例に埋もれず、次の福岡個展も手伝うことになった。
もう「しんこきゅう展」で得るものなんてないだろう、と思いつつ、縁が切れないことを思うと、きっとまだ何か、得るものがあるのだろう。
次はどんな感情を味わうのだろうか。
ぼくの心の中には今、五つ葉のクローバーが、あたたかく灯っている。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
点描画家hiromiの静岡個展で感じたことを綴りました。
つくづく、世で経験する全ての出来事は自分との対話だと感じます。
次の福岡個展ではどんなことを経験するやら、楽しみです。
前回の、大阪個展で感じたことはこちらに綴ってます。興味あればご一読ください。
4度目となる福岡個展は、12月15日から12月17日まで、福岡県福岡市にある「KUSUNOKI」というギャラリーで開催されます。
お時間あればぜひご来場ください。
KUSUNOKIさんのホームページはこちらです▼
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