特に意味のない文章008
このくだらない文章群も記念すべき8回目となった。8という数字、日本では古来より8(八)は末広がりで縁起のいい数字とされている。その割に結婚式のご祝儀では、偶数は割り切れるからダメだとか言い出すのでよく分からない。というか、そもそも奇数万円でも割り切れてしまうではないか。ああ、そうか、30,011円とか、50,021円とかの素数にしろという事か。納得した。では割り切れない素数かつ、8が最も多い5ケタの数字、88,883円ならだれも文句言わないだろう!末末末末広がりサンだ!!縁起が良くても小銭が多くて嫌われそうだ。
さて、今回の写真は六甲オルゴールミュージアムの照明らしい。正式名称はROKKO森の音ミュージアムなのだが、誰も気にしない。
この施設はみんなも知っている金属製のオルゴールから、紙のオルゴール等、オルゴールの歴史をまとめた施設だ、筆者も行ったことがある。結構楽しめる。
さて、今回は何の話にしようか、何が良い、正直今日は特に何も考えてきていない。話のタネはあれどネタになる程固まっていないのだ。本当に何にしよう。そうだな、うーん、オルゴールがスタート地点だったので、今日は神隠しに遭った話でもしようか。オルゴール?ああ、BGMにでも使いなさい。久石譲さんの「あの夏へ」あたりをおススメしておこう。といっても、そんなメルヘンな話ではない。
──筆者は一度神隠しに遭っている。
といっても、どこかの作品の様に数日~数週間というスパンではなく、せいぜい30分~2時間程度なのだが……ともかく行方不明になりかかったのである。危うく異世界転生するところであった。あ、いや、死んで無いので転生ではないな。これはただのワープだな。
時は遡る事、20年以上前の事だ。古い話だ。まだ世間はゲームボーイカラーだの、ゲームボーイアドバンスがもうすぐ出るだの、64が全盛期だとか、そういった時代だった。本当に古い話だな。
当時の大型スーパーは、昨今のショッピングモールの様に、食料品の他にも、家電コーナーや、家具コーナーなんてものもあった。小型のショッピングモール全てがひとつの店舗という時代があったのだ。今では考えられない形態だ。
当時、筆者は小学校から帰って来るなり、そういった大型スーパーに足繁く通っていた。というのも、家のルールでゲームは1日1時間という、大変厄介な制約があった為だ。こういったスーパーの家電コーナーでは、試遊台というのが設置されており、交代制で遊ぶことが出来た。お目当てはこれである。
程々に遊ぶと門限が徐々に近づいてくる。ちょうどこの頃、自転車でいろんな道を走るようになり、活動範囲が大幅に広がっていた。門限まで余裕があまりないが、好奇心が強い子供であった筆者は普段通らない道を選んでいた。
何時も曲がる道のひとつ手前で右に曲がり、交差点についたら左に曲がれば、普段通っている道に合流するはず。その程度の気持であった。
自転車を漕いでものの20秒ほど。少し狭いこの道を抜けると、三叉路に辿り着いた。知らない場所だった。思っていたような十字路の交差点ではないが、当初の予定通り、その三叉路を左に曲がる。
曲がった先の道は緩やかに弧を描く、道を暫く走っていると、一周していた。おや、おかしいぞ。ああ、そうか、ここは袋小路になっているのか。
ふと状況を整理する、緩やかなカーブを続けていたので、ここは楕円の袋小路。円の中心は少し高台になっており、そこには滑り台、ブランコ、鉄棒、砂場といったありふれた公園がある。子供が5~7人ほど遊んでいるのが遠目から少し見えた。公園の入り口は三叉路側に階段、その反対側にも階段と、2か所ある。それ以外は薄緑色の少し錆びたフェンスが覆っている。アサガオが元気なさげに萎びていた。
周囲は住宅地、キレイに立ち並んでいた。歩行者はちらほら見受けられる。車が所々、家の前に路駐されており、よくある住宅街だ。電柱が所々、等間隔に並んでいる。しかし……
その時、奇妙な事実に気が付く。
三叉路が無くなっていた。
おかしい、確かに、つい先ほど来たばかりの場所だ。この道は三叉路になっていた筈だ。合流地点に置かれたカーブミラーにも見覚えが有る。どういうことだ……?一体、ここは……?ここが交差点だったことは、このミラーが証明している。交差点でもない場所にカーブミラーは置かない。つまり、この場所はまさしく、先ほどまで三叉路だった場所なのだ。
刻一刻と迫る門限に、不可解な状況、この場から脱出できない恐怖。
筆者は
半狂乱状態で
只管に走り出した。
それはもう鬼気迫る勢いだったに違いない。門限に遅れたならひどくドヤされる。それはもう、本当にヤバい。出口を、他の出口を探すしかない。全力疾走であった。見知らぬ住宅街を、ママチャリで大爆走。
しかし、当たり前のことだが、袋小路の道なのだから、一周すると元の場所に戻ってくる。当時の私はさらに混乱する。そうか、逆回りに走れば等と意味不明な行動をとり、今度は逆方向で袋小路を走り出す。まるで回遊魚のようだ。まあ、なんというか、当たり前で至極当然なのだが、何周しても元の場所に戻ってくるだけで、出口なんてものは見当たらない。当たり前だ。
いよいよもって泣きだす。出れない恐怖と、帰ったら怒られる恐怖が合わさり、恐怖のアイス2段盛り。ええい、私が何をしたというのだ。どうしてこのような、ひどい目に遭わなくてはならないのか。
混乱と錯乱はピークに達し、自転車を担ぎ、階段を上り、公園を突っ切る作戦に出る。もちろん。いや、当たり前だが。入ってきた三叉路は見当たらない。対角まで走り、公園を突っ切り、逆向きに走り、最初走った方向に進み、また公園を突っ切り……
疲れも溜まり、途方に暮れ始める。空は橙色から、徐々に紫、紺と色を変えて、こっちも暮れ始める。あんまりだ、どこにも出口が無い。こんな不可解な住宅街で、行方不明となるのか。既に自転車を漕ぐ気力もなく、項垂れたまま自転車を押して歩き始めた頃。ふと顔を上げると。
え?
あるじゃん
いや、あるじゃん
出 口
あ る じ ゃ ん ? !
お 家 に 帰 れ る っ て コ ト ッ ? !
そこからは文字通り脱兎の如く逃げ帰った。早かった。すごく早かった。ものすごく早くお家についた。恐らく過去最速だった。門限は、もちろん、遅れていた。滅茶苦茶怒られた。説明しても信じてもらえなかった。当然である、内容があまりにも突拍子が無さ過ぎる。
──神隠しから約10年後、筆者はある時、そういったことがあったのをふと思い出した。衛星写真で街並みを、いつでも高精度に確認できる時代になっていた。そうだ、あの場所は、あの道は結局どこにあったのだろう。
少し確認してみるか……
……そう、ここだ、この道の一本手前を
……ん?
……そんな道、無いな。
なんなら、周囲に楕円の袋小路なんてものも見当たらない。
そんなに特徴的な道なら、すぐに気が付くはずだ。だが、見当たらない。
後に知ったのだが、三叉路は呪術的に用いられたり、幽霊を留めたり、鬼や邪が集まるだの、そういった話が多いそうだ。
……そういえば、迷い込んだとき、周囲に居た公園で遊ぶ子供たちや、歩行者の顔とか、どうだったのかよく思い出してみる。どうだった、どんな姿をしていた?顔は……そういえば、無かった……気がする。帰るのに必死で、周囲の人間が異様な姿をしていた事をすっかり忘れていた。
もしあの場所から出られないままだったら、今頃私は……
いや、もしかして、今いる、この場所は……
私が元居た場所とは違う……可能性が……
その辺りで、私は考えるのを止めた。