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「ヒクソン・グレイシー自伝」

2月に刊行された「ヒクソン・グレイシー自伝」(構成・ピーター・マグワイア、翻訳・棚橋志行、亜紀書房)を読み終えました。

400戦無敗のまま一線を退いたブラジルの柔術家、総合格闘家。その強さはかつてPRIDEのリングで高田延彦や船木誠勝ら日本のプロレスラー、格闘家の挑戦を失神に追い込んで退けた試合で知られるようになりました。現在の総合格闘技の技術は、グレイシー柔術なしでは語れないでしょう。

強靭な精神と肉体が一如となったヒクソンは、どのようにしてあそこまで強くなったのか。血肉となる食べ物には徹底したこだわりを持ち、心身はヨーガをベースとしたエクササイズで鍛え抜いた。自らの肉体をコントロールするバランス感覚は幼少の頃から親しんだサーフィンで鍛えたものでしょう。試合前に山ごもりするというのは、決してパフォーマンスなどではない。私も自然の中に身を置くことでエネルギーが得られるのではないか、と感じることがありますが、ヒクソンはそれを実践して来たのです。

本人が生い立ちから語った数々のエピソードは期待していた以上に面白く、また決して美談だけに終始しない人間臭さを感じるものでした。グレイシー一族も皆が仲が良いというわけではなく、それぞれが複雑な感情を持っている。妻とはうまくいかず仲違いしてしまう。そして兄や息子との死別…。最強だったとはいえ、ヒクソンもやはり人間だったんだなあ。

高田戦や船木戦の裏話もほとんど本書で初めて語られたものでしょう。読んで嬉しくなったのは、1995年のVTJトーナメントで、右目を失明させられた状態で3戦目のヒクソン戦に挑んだ中井祐樹の勇気を心から讃え、リスペクトしていたということ。これだけ完成された格闘家が、今いるでしょうか。

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