忘れられない人
来る日も来る日も病院で過ごすような毎日を過ごしていた昔の話。
自分が診ている患者さんは、必ず自分が救ってみせる!って本気で思っていた。
Kさんは、入院を繰り返していた慢性の病気をもつ20代女性。入院が苦手で、入院中に精神的に落ち着かなくて錯乱状態になってしまうこともあった。外来で「データが悪化しているから入院したほうがいい」と話しても、「絶対に入院はしない。入院するくらいなら死んだほうがいい」という返事が返ってくるほどだった。
「少し血球が減ってきているから治療を追加しないといけないね」
「先生、私ね、結婚するの。今回も入院はしたくないの。」
結婚式の日程も決まっていた。科で話し合い、なるべく家で過ごしてもらうようにして、多めの薬を内服してもらいながらの外来通院とすることとなった。時々、患者さんの家に電話を入れて様子を聞き、様子によっては早めに外来に来てもらったり。
「式は延期しないで挙げたい」
医局からの派遣で勤務していた病院だから、勤務交代の日も近づいてきている。ともかく式を挙げられるように、医療のできることをして、あとはひたすら祈った。
「夢のような日だった。先生ありがとう」
その報告を聞いて安堵したことを覚えている。
でも本当は全然安心できなかったのだ。。。
ウェディングドレスで隠された足はむくみ、細かい紫斑がたくさん出てきていたのだ。
私が病院を異動して数日したある日の午後。Kさんの新しい主治医から連絡が入った。Kさんが危篤状態だから来られるならば来て、と。
駆けつけた先にいたのは、もう深い眠りについてしまったKさんだった。
「Kは幸せな日々を過ごしたと思う」「何より、先生がとてもよく細かく診てくれて本当に良かった」と話してくださり、夫もご両親もにこやかだった。
「結婚式、Kがとても綺麗で、僕、本当に式をあげることができて良かったと思っている」
いろんな感情が入り乱れる中、今の主治医に話しかけられた。
「Kさんを外来で粘るべきでなかったよ」
「そんなことは、、、わかっています。。。。。」
あの時の私はどうしたら良かったのだろう。
どんなに本人が嫌がっても暴れても鎮静効果のある薬を使いながら、入院加療すべきだったのか?そして結婚は延期させるべきだったのか。
自問自答を繰り返している。
Kさんの綺麗な瞳、可憐な佇まいがすぐ目に浮かぶ。
これからも私のアドレス帳からKさんが消えることはない。名前を見るたびに、思い出しながら彼女の生きたかったであろう人生を想うことにしている。
内科医。過去の自分、今の自分。言葉にしておかないといけないことがあるような気がしてきています。