バーゲン品は買ってはいけない職業
「かほたんってテアトル新宿も行くの?」
仲良しの友達から急な話題の連絡が来て、一回だけ行ったことあるな〜というのが私の返事だった。
数年前の夏に、自分が受けたオーディションの作品がついに上映になったので、足を運んでみた。まあ、スクリーンに私の姿は無かったのだが。
脚本を読んだ時からすごく好きな内容で、「もし落ちても絶対観に行こ!」と思っていたのだ。ちょこっとMである。
すごくすごく面白くて、その分すごくすごく悔しかった。帰り道、雨が降る新宿のネオンが少しだけ滲んだし、水溜りの上でタップダンスを踊ってやろうかという気持ちになった。
で、話戻るけどテアトル新宿に行ったのは雨の降る新宿でタップダンス踊ろうとした時以来だよ、と思って返事をすると、なんでも今上映している「竜二」というヤクザ映画に、なんと彼女のお父さんが40年前制作に携わっていたらしい。
何そのすごい秘話。まずヤクザ映画なんて観たことないけど大丈夫かいな?なんて、まだ誘われてもないのに私はあらすじを調べ出した。
そして、調べれば調べるほど竜二は「伝説の映画感」があって、そういうのに目がない私は、友達のパパが制作に関わっていたとは良いノートのネタにできそうだとヨコシマな気持ちも含みつつ、「一緒に観に行こうよ」と、また軽いナンパ師のノリで友達を誘った。
当日、キャッキャしながら新宿の映画館まで向かったが、キャッキャしているのは我々だけだった。なんなら若い女子(?)も私たち二人しか見かけなかったような気がする。
ほぼ全員が、「昔好きだったんだよなァ〜」という雰囲気を醸し出しているダンディなオジサマたちだった。そしてこの映画の舞台も新宿。私はそういうのに目がないのだ(二回目)
エントランスに飾られているポスターの中に友達のお父様の名前を発見して大興奮した、私が。すごい、すごすぎる。写メをバシャバシャ撮るミーハー女とそれを静かに見つめる実の娘というよく分からない構図が完成した。
ポップコーンを買って端っこの席に着席する。
始まった瞬間、昭和の匂いがぷんぷんする映像が流れ込んでくる。昭和の匂いというのは、衣装とか髪型が昭和っぽい、というだけでなく、声色や話口調が今の人では真似できないものを感じることだと思う。
主役の竜二を務める金子正次さんは、この映画が公開された直後に33歳という若さで亡くなられてしまったそうだ。
ボヘミアンラプソディを見た時も、THIS IS ITを観た時もそうだったが、なぜ偉大な人は短命なのか、と本当に憂鬱な気持ちになることがある。
竜二は圧倒的な存在感で、主役以外を演じることが考えられないようなオーラがあった。今でもご存命だったら大スターだったんだろうな。
そしてなんと言っても個人的には竜二の奥さん、まり子役の永島暎子さんが死ぬほどよかった(ちょっとエロいのもよかった)。清楚なのにエロい女は最高だ…
きっとまり子はヤクザの竜二に惚れてたんだろうね。女は悪い男に惹かれる生き物だからね…とまり子と頭の中で会話しまくってしまった。
ラストの、竜二とまり子が見つめ合うシーン、なんでセリフがないのにこの後の展開がわかるの!?
しかも二人の心の中の会話まで浮かんでくる!!すごい初体験!!!!となった(興奮して早口でまくしたてて語彙力失くすオタク)
登場人物がみんな個性的で、セリフが多いわけじゃないのに、なんでこんなに人物の気持ちが手に取るように分かるんだろう?と不思議な気持ちになった。
あっという間の1時間半、すごいものを見た!伝説を目撃した感じがすごい(臭いキャッチコピーかよ)
友達のパパ関係なしにめちゃくちゃ良かったけど、友達のパパが携わってなかったら知ることもなかったかもしれない映画だから、人生とはご縁だなあと感じる。
上映後、パンフレット買わなくていいの?と友達に聞くと、パパが目を潤ませてグッズ買って帰ってきたから不必要とのことだった。
映画館を出るとさっきまでスクリーンで見ていた本物の新宿の街が広がっている。なんだか贅沢な気分だ。終わって数分後には聖地巡礼しているのだ。
せっかくだから新宿を一周しようということになり、話題のトー横のあたりを大回りして帰ってみた。
夜も深くないのに途中の路地裏でゲロゾンビみたいになってる人、顔を真っ赤にしてもつれあってるつがい、飛び出してくるメガマックスサイズのネズミ、まだ週も半ばだというのに新宿には本当にいろんな人や動物までもが息を潜めている。
だけど、いくら探しても、そこに竜二の姿はもうないのだ。
おしまい