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逆にお酒を飲まない夜に私は何をするのか

暖かくなると窓を開けて、網戸だけで過ごすことが多くなる。
すると必然的にバイクや車のエンジン音が大きく聞こえる。その音を聞くと春を通り越して夏を感じる永瀬です。

仕事を終えクタクタになって家に帰ってきて、お風呂に入…れたらいいのだが、一度腰を降ろしてしまうと、お尻に根っこが生えて一生動けないことを知っている。知っているけどそこでスッと立ち上がれるほど人間できていない。
お風呂のあとはキンキンに冷えたハイボールが「早く飲んで!」と冷蔵庫の中からアプローチしていることも知っている。この熱烈なアプローチに背中を押されてわたしはお尻の根っこを引きちぎってお風呂に入るのだ。

考えてみると、数年前わたしは約1年間休肝していないyearがあった。
もはや検証してみたかった。「逆にお酒を飲まない夜、永瀬は何をして過ごすのか」という議題である。逆にってなんだ?
自分で決行を決めたくせにわたしは狼狽えた。お酒を飲まない夜は何をしたら良いのだ。初めて新宿駅に舞い降りた人のようにオロオロしてしまう。東口と中央東口ってなんだヨ…。という気持ちで一晩を過ごすこととなった。

まず、この1年間夜の21時~24時頃に体内にアルコールが入っていない日がほぼなかった。
お酒を飲まない日といえば、体調が悪い日くらいだ。いや、なんならちょっとくらい悪くても飲んでいた。
というわけで、お酒を飲ま(め)ない日だからこそできることをしてみた。

まず、途中で放棄されていた蟹工船の小説を読んでみた。
初めは方言のクセが強くて、何を言っているか何をしているのか分からなかったが、読み進めている内に登場人物たちが大体どんな言動をしているのか分かるようになってしまう不思議な小説だ。
それとこんなに「臭い」がすさまじい小説は初めてだった。ページに生臭さが刷り込んであるわけではないのに、読んでいて生臭さが本から伝わってくるような内容なのである。
そして、終盤の熱気がどんどん熱くなってくるところも面白い。ページをめくる指先も熱くなっているような気がした。
最後のページになるまで、脚注のページに指を入れて栞のようにして読んでいたけれど。

1年越しに読了!

検証結果① お酒を飲んでいるとなんだか眠くなってきて同じ列を30回読んでも集中できない読書を楽しむことができた。
よく闇金ウシジマくんで出てくる、お金を返せない人に対しての「漁船に乗せるぞ」のセリフの意味が分かり過ぎて怖かった。ウシジマくんが好きな人にはセットでおすすめしたい小説であった。

次に、前から観たかった映画の「サンセット大通り」を観てみることにした。
なんといっても、わたしは年末の誕生日、ファンの人からプロジェクターをいただいたのである。
「俺ンチ、プロジェクターあるから来る?」と言って可愛い女の子を口説く大学生にだってなれるのだ。
だが今夜はお酒と言う味方もいないので、道すがら女の子を口説くこともない。部屋の電気をすべて消して、プロジェクターをつけた。

お酒を飲んでいる時にはあまり気付かない、「ジー」という家の壁に映像を投影する音が映画館みたいで良い。
サンセット大通りは、1950年代の白黒映画で、まさにこんな夜にピッタリだった。
家の外は風が強く、洗濯竿が揺れてブォンブォンと音を鳴らしていて、映画の臨場感に良い演出を加えていた。
衝撃的な冒頭から、恐怖さえ覚えるラストシーンまで、あっという間に過ぎて行った。

検証結果➁ お酒を飲んでいないと、今まで感じなかった気温や音、映像から感じる匂いも敏感に感じ取ることができる(ような気がした)。

…というわけで、2つの芸術に触れて、なんだかとても充実した気持ちで目を閉じた。
これが(アルコール含)の永瀬だったら、2時間は前に瞼と瞼がキッスしていたに違いない。
お酒は夜のお楽しみだけど、飲まなければ飲まないで、他にお楽しみを見つけることもできるのだ。

検証結果の検証結果。
お酒を飲まない夜も、たまには良い。たまにはね。

おしまい

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