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大きくなった私のクリスマス

今日、鏡に映ったのは見たことのあるようで、あったことのない白髭のおじいさんだった。

クリスマスイブの日、目が覚めたらすでに日が沈みかけていて驚いた。こんなに眠っていたなんて、と思いつつ洗面所へ向かう。何かいつもと違う感じがしている。でも、触るのが怖い。そんな気持ち。

「あれ、これ、わたし?」
夢を見ているのだろうか、女の私の顔に立派な白髭が生えている。昨日はなかったはずなのに。鏡の前でオロオロしていると、玄関の方で物音がする。ただでさえ、突然生えてきた白髭にびっくりしているのに、なんと私の他には誰もいないはずの家の中にだれかいるなんて。

「あー、たった1年前のことだけど、懐かしい。僕もそうだった」
勝手に玄関から入って来たのは、会ったことのない若い男の人だった。何が起きているのかわからないし、どうしていいかわからない。そんな私に気づいたのか気づいてないのか、その人は「さ、準備して、そろそろ行かないと。太陽が沈む前に工場へ行かないといけないんだから」と言う。

「僕は去年のサンタクロース。そして、今年のサンタクロースは君だよ。だから、白髭が生えて、ほら、だんだんお腹もふっくらしてきただろう?でも、大丈夫、すぐになれるし、サンタクロースのお腹はマシュマロのように軽いんだ。今から行くのはこの国のサンタクロース工場、今日のために一年かけて妖精たちがよい子たちに配る贈り物を用意して待ってるよ。ここは地球の一番東に位置する国だから、ラッキーだ。ここから順番に西に向かって地球を一周して家に帰れる。僕は、西の国に住んでいるからちょっと大変だったんだよ」。工場に向かう途中、彼が私に話したことは大体こんな話だ。

なぜ、私が「今年のサンタクロース」選ばれたのか聞いてみた。彼はこう答えた。「世界に約77億人の人がいる。その3分の1くらいが子ども。子どもの中でサンタクロースを信じているのはほとんど全員なんだけれど、誕生日を迎える度にそれも減っていってしまう。今はインターネットがあるし、子どもたちもね。間違ったことも本当のように見えるだろう?それで、大人でサンタクロースを信じている人って、本当に少ないんだ。世界中探しても、両手で数えるくらいしかいない。僕も君も、その数少ないサンタクロースを信じる一人ってことさ。だから選ばれた」。

そういえば、小学4年生くらいから、クラスの友達が「サンタさんはパパとママだった」とか、「サンタさんはいない」なんて話しているのをよく見かけた。けれど私は、その会ったことのない、白髭のおじさんをまだ心の中では信じて、自分の誕生日でもある12月25日を、今の今まで楽しみにしていた。世界中すべての国にあるというサンタクロースの工場。到着すると、彼が言った通り、私の腰くらいの身長の妖精たちが待っていた。プレゼントとソリと、5頭のトナカイはいつでも出発できるように準備もばっちりだ。

最初の国だけ去年のサンタクロースが一緒に回る決まりだそうで、彼は妖精たちに1年ぶりのあいさつをすると、すぐにソリに乗り込む。私は真っ赤な洋服とぼうし、そして手袋にブーツを受け取り、工場の中の部屋で着替えをすませる。鏡の中の私は完璧なサンタクロースだ。

外に出て行くと、妖精たちが拍手で迎えてくれる。「サンタクロース、今年のよい子リストです。月の光に合わせて進んでください。そうすれば、太陽に追いつかれない。道はトナカイたちが覚えています。いってらっしゃい」と、一人の妖精が長い紙を渡してくれた。私もいよいよその気になって「うん、ありがとう。行ってきます」とソリに乗り込む。私がトナカイたちに「よろしくね」と声をかけると、振り向いて頷いてくれた。隣には去年のサンタクロースが座っている。「よし、出発!」と私が声を上げるとトナカイたちはゆっくりと走り出し、ソリは地面をはなれて中に浮く。「こんなことが起きるなんて夢みたい」とつぶやく私に、となりの彼は「信じ続けてよかったでしょ?」と言った。なんだかとっても愉快な気持ちになる。一番星がまたたく夜空に「これぞサンタクロース」な私の笑い声が響いた。


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