本当にお世話になった国重さん
メンズエステを始めて1年くらい経った頃、
Twitterで見ました、と言って
きてくれたのが国重さんだった。
国重さんは背が高くて、眼鏡をかけていて
いつも良い匂いがした。
「香水ですか?」と聞くと
「整髪料かな?」と疑問系で返して
少し笑うと八重歯が見えた。
国重さんは私が読書が好きというのを理由に
通い始めてくれた珍しい方で
初めて会話した時の第一声は
「いつの時代を専攻してましたか?」だった。
そんな聞き方してくるのは
自分も文学を学んでいた人だけだ。
「中古です」
と、答えたら満足げに頷くから
「国重さんもですか?」と聞いたら
「いや、僕は近代です」と答えた。
なんで満足そうだったのかは
未だにわからない。
梶井基次郎の話とか、夏目漱石の話とか、
高村光太郎の話が出来た国重さんとは
美術館の話や近代文化の話を
惜しみなくしてくれた国重さんは
間違いなく、私より圧倒的に視座が高くて
それでいて謙虚で、大人として尊敬していた。
そして私がメンズエステを辞めると話した日、
「じゃあ僕の仕事を手伝ってくれませんか」と
すんなり提案してくれた。
見た目や雰囲気からは
全く想像できなかったけれど
国重さんはメンズエステのオーナーだった。
「私、他店で働く気はなくて。」
「あ、いや、セラピストとしてじゃなくて。
カウンセラーとして働いてほしくて」
国重さんはメンズエステ以外にも
色んなお店を経営していて
(普通の飲食店も)
女子大生や20代前半の女の子を
雇用することが多く、
その子たちがなかなか続かない。
カウンセリングや外部の簡易相談的な仕事を
頼めないか、と持ちかけてくれた。
元々、自分がメンズエステで働いていた時から
女の子たちのメンタルへの関心の低さは
一般企業で働く私からすると目に余る部分で
なんとかできないかと思っていたので
そのお話を引き受けた。
国重さん、本当に、お世話になりました。
先日お食事した時に
ご結婚されたと聞いて、
お相手がいたことすら知らず、
ああ、国重さんにはいつも
私は私の話しかしていなかったな…と、
少し申し訳なくなった。
国重さんはもはや、
お客様を超えた存在になっているけど
これからも、森鴎外をこよなく尊敬する
変人であってほしい。
私は森鴎外、だいっきらいだよ。
本当、おめでとう。
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