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4 直感じゃなくて願望でしょ?

3 中途半端な罪 より続く

 時間が解決するってよく言うけど、そんな簡単に抜け出せるわけがなかった。部屋の小窓から月がみえるだけで彼の顔がよぎる。野良猫をみるだけであの目を思い出す。しまいには本を読む学生が目に止まることが増えて、無意識に彼を探しているわたしに気付く。久しぶりの感情に戸惑っているはずなのに、どこか嬉しくて温かい気持ちになる。
 甘酸っぱい展開を期待するつもりはない。だって、わたしは何も知らない。名前も、学年も、どうしてあの時間に図書館にいたのかも。それでも、一方的にみることくらいは許されると思うのだ。同じ高校の生徒という、ほんの少しの繋がりが途切れる前に。

 わたしにとって金曜日は、登校しなくていい日だった。金曜日は取っている授業がなくて、普段は家でごろごろしたり、友だちと遊んだりしている。大学生で言う全休、を早くももらっている日だった。高校生にしては時間が余りすぎているけど、そういう制度なんだから仕方ない。明日もいつものように、家で過ごすつもりだった。
 でもなんとなく、確かめてみたくなった。またあの時間に行けば、図書館にいるんじゃないか。月曜日じゃなくても午後になれば、彼はあの日と同じ席にいる気がした。何も知らないわたしの、単なる直感が当たるのかどうか、試してみたいと思った。

「明日、お昼くらいに学校行くね」
 夕飯を食べながら、お母さんに言う。たいして興味もないくせに、一応言っておかないと後々面倒になる。
「部活?」
「まぁそんなとこ」
 もう部活は引退したけど。委員会にも入ってないし、本当に用事はない。図書館に行くことだけだ。彼に会えるかどうかは運次第。
「気を付けてね」
「うん」
 定型通りの会話をして、食べ終わった皿をキッチンに運んだ。お母さんはまだご飯が半分くらい残っていたけど、ごちそうさま、と小さく言って自室に戻る。

 会えるなんて誰も言ってないのに、妙にそわそわして落ち着かない。全ての感覚が久しぶりだ。楽しいかも。いや、気持ち悪いって。
 そもそも三日月目の彼がいたとして、わたしはどうする気なんだろう。何か話しかけるのも変だし、遠くからみるのが精一杯じゃないか。一目みるために行くなんて、彼はアイドルか何かなの? もうよくわからない。
 変に浮ついた気分でリュックの中身を整理した。この前借りた世界文学全集は、まだ手付かずのまま、底に眠っていた。

(続く)

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連載小説『授業をサボる、図書館には君がいる』

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