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憂鬱とバイブレーション

 三寒四温の寒、に耐えきれず、カーテンを閉めた。断熱素材と謳っているくらいだから多少の効果はあるだろう。
 寒がりなわたしにとって、いまは一年で最も風邪を引きやすい季節だ。毎日天気予報を確認しないと、すぐにくしゃみ鼻水が止まらなくなる。そうならないためにはなるべく体感温度を一定に保つことが大事、たぶん。
 しかし花粉が飛び始めているからもっと最悪だ。マスクと伊達メガネが手放せないけれど、メガネに曇り止めをするのも面倒で外出したくなくなってしまう。基本性質が面倒くさがりで、引きこもりなんだと思う。

 物が少なく寒々しいワンルームでわたしを悩ませているのは、気温や花粉だけではなかった。
 コタツの天板をスピーカー代わりに、存在を主張しているバイブレーション。画面を下にしているから誰からの着信なのかわからないけれど、十中八九あのひとだろう。

 電源切っておけばよかったかな。でも電源切ってるって向こうに伝わっちゃうんだっけ。
 ひっきりなしにかけてくるせいで、迂闊にスマホを触れなくなってしまった。LINEの通知を間違って踏んじゃうみたいに、電話も間違えて出てしまいそうなのだ。こういうのは無視がいちばんだと思っているから、とりあえず飽きるのを待つことにしていた。

 どこからどうみても、立派なストーカーだよなぁ。

 バイト先の社員さん。ずっと年上で、敵わない相手だった。
 用事もないのにいつの間にか追加されていたLINEは、一方的に連絡を寄越す場に成り果てた。最初は返信しないとまずいと思って返していたけれど、どうやら逆効果だったらしい。あれよあれよと進んでいって、スマホは震えるようになった。それを許した記憶はないのだけど、わたしの気持ちなんてどうでもいいのだろう。本末転倒だと思えるのはわたしが正常だからであってほしい。

 髪色は自由だし、時給も悪くないし、店長は優しいし、アクセスもいい。バイト先にしては恵まれているほうだ。仕事にもすっかり慣れて、後輩ができ始めている。
 でも、これが続くようなら辞めるしかないか。辞めて、ブロックして、すっぱりさよなら。上手くいくかどうかは賭けだ。

 あーあ、なんでこんなことであんなひとに振り回されなくちゃいけないんだろう。
 考えたって仕方ないことをぐるぐる考えてしまうから、音のないひとり暮らしは向いていないかもしれない。

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