ウィーンフィル2024への道(完)
シェンゲンビザ
タイ人がウィーンに渡航するためにはシェンゲンビザを取得しなければならない事は前回の記事で説明したとおりだが、申請先のオーストリア大使館からは良い返事が来ない。
12月下旬になっても追加の資料を求められる始末であり、もはや時間切れだなと諦めムードで仕方なく最終審査に回して貰った。
そもそも、あんたの国のコンサートを見るために高いチケットを買って、旅費もすべて払い込みであるのに入国させないなんてあるのか?と怒り心頭に発するところだが、29日に届いたパスポートにはビザシールが貼られていた。理由は不明である。追加資料がなければダメだとされた理由もまた不明である。
すぐさま先に渡航している友人に連絡して、チケットの転売を止めて貰い、それからバタバタと準備をした。もう少しで航空券まで売り飛ばすところだった。マジで諦めていたのだ。
チケットオフィス
カールスプラッツ駅で地下鉄を降りると目の前はでっかいオペラ座が見える。楽友協会はすぐ近くだ。チケットを受け取るために少し早くホテルを出たのだが、すでに会場の周りはパトカーと警官だらけになっていた。
楽友協会のある一帯をバリケードで囲い、チケットを持っていない人はエリア内に入れないのだ。チケットオフィスもバリケードの外にある。
チケットオフィスには長い行列が出来ていて、なかには当日券を期待して早朝から並んでいる人もいるようだった。僕の前に並んでいた日本人もそうだった。行列の周りにはダフ屋らしき人が何人もウロウロしている。チケットを売ってくれないか?と僕にも声をかけてきた。現地の相場は分からないけど、渡航直前に某旅行会社がツアーのオプションとして提示していた金額は120万円だ。
やがてチケットオフィスが開くと、売り場の女性が立ち上がり、『今年はオールコンプリートだ』と叫んだ。本格的なコロナ明けとなった今回は立ち見席のキャンセルもないらしい。
至福の時間
華やかな雰囲気に包まれた会場に足を踏み入れ、クロークに荷物を預けたら、いよいよ自分の座席を確認する。
ニューイヤーコンサートが行われる大ホールはその名の通り黄金の間だ。豪華絢爛な造りに見入っていると、まわりに日本人がけっこういる事に気づく。いつもNHKで見ていた景色だ。
記念撮影をしたり、仲間と談笑したり、プログラムに目を通したり…それぞれがその時を待っている。僕はトイレを済ませてから座席につき、じっと待った。
やがて楽員が音合わせを始め、準備が終わるとティーレマンが舞台右から颯爽と入ってきた。ホール左手の観客がいち早く気づくため、歓迎の拍手は左手から湧き起こる。僕の席は右側にある。
そして力強いマーチで2024年ニューイヤーコンサートの幕が開けたのでした。
二度とないであろう幸運を噛みしめつつも、至福の時間はあっという間に過ぎてしまう。
ラデツキー行進曲に手拍子する夢が叶った瞬間でした。