見出し画像

耀き 〜盗まない怪盗と捕まえない警官〜

登場人物
怪盗ルージュ1号
   小泉朱理 コイズミアケサト(シュリ)
怪盗ルージュ2号
   真田緋芽 サナダヒメ
警部補
   結城安莉有 ユウキアリア
巡査部長
   木槍潤 キヤリジュン
探偵
   秋千幸助 アキチコウスケ

第一幕

怪盗ルージュ、下手より

緋芽 「だってさー、あれを作った人達は凄い頑張ったんだと思うよー。警備員さんも催眠ガスひと吸いでコテンって眠っちゃったし。相当疲れてたのよー。それをさー私なんかがヒョイってさー…出来ないよー」

朱理 「…ねぇ、緋芽知ってる?怪盗って怪しく盗むって書くのよ。回って答えるでも、開く頭でもないの。あ、や、し、く。ぬ、す、む」

緋芽 「朱理(シュリ)は一生懸命頑張って作ったものを、怪しく盗まれても良いのー?」

朱理 「いやよ!怪しくなくても嫌よ!でもだからこそ皆を驚かせることが出来るんじゃない!」

緋芽 「でもほらー、先日私達に感謝状出たってニュースあったよー」

朱理 「あれは私もびっくりしたわ。まさか盗みに入った先から感謝されるとは思ってもみなかったわ。まーそりゃ、何も盗られず侵入経路を書いたメモが置いてあったら感謝されるわよね。でもね、今夜の相手はちょっと違ったかもよ」

緋芽 「んー?」

朱理 「今夜狙ってたのは、最新の人工知能【ウィンターフレイム】。作ってるのはさっき入ったサイバーブリード社の研究所。ウィンターフレイムはローカルネットワークを形成し、全ての家事を自動化するって言うのがサイバーブリードの宣伝文句。 だけどこのウィンターフレイム、本当の目的は、世界中のAIを一つの集合体にするウィルスを生成して、この世界を支配するのが目的らしいの。そんなの阻止しないとヤバくない?そうなったらさ、もうターミネーターよ!深夜の公園にプラズマが発生してシュワちゃんが裸でしゃがんじゃうよ?」

緋芽 「シュワちゃん!アイルビーバックのシュワちゃん?」

緋芽、親指立てながら後ろ向きで上手にはける

朱理 「え?まさかのシュワルツェネッガー好き?いや、アーノルドシュワーッツネガー好き?ちょっとまって、私の話そこじゃない!世界が危ないのよ!」

朱理、上手にはける

警官組、上手より

木槍 「結城警部補!怪盗ルージュの次の標的は、サイバーブリード社の人工知能【ウインターフレイム】だっていうタレコミが入りました。開発研究所がインフラ点検整備するので、今日の21時迄に全員退社の指令が出てます。絵画【碧い月と少女】窃盗未遂事件が2ヶ月前、木像【ダイアモンドアイの少年】窃盗未遂事件が1ヶ月前、時期的にもそろそろだし、絶対今夜現れますよ!」

結城 「ふ~ん、で、その研究所は何処にあるんだ?」

木槍 「夢の島にあるサイバーブリード社の第二研究所ですね。これ捕まえたら大手柄ですよね♪」

結城 「おぉー新人らしいじゃないか、ハリボテの出世欲、そういうの嫌いじゃないよ。で潤君、どうやって捕まえるのかね?」

木槍 「捕まえるのは警部補ですよ♪大丈夫!僕が完璧な作戦でお膳立てしますから、警部補は頑張って捕まえてください♪」

結城 「ん?大手柄が欲しいんじゃないのか?準キャリア初任1年目、体張って実績作りたまえよ」

木槍 「警部補ってチームリーダーですよ。犯人逮捕へ先頭切って走るリーダーの背中を見て、部下は大きく育つんです。是非とも、走って跳んで逮捕する警部補の背中を見せてください♪」

結城 「散々してきたんだよ、そういうの。もうすぐ警部だから、今からそういう事しない練習してんだ」

木槍 「なるほど!その背中を追いかけて僕も、来年の昇任試験後は、犯人捕まえない警部補として3年過ごします♪」

結城 「じゃー試験受かる迄、まだ10年程あるから、しっかり走って跳んで犯人捕まえたまえ♪」

木槍 「あれ?なんか今チクって刺さりましたよ?試験受かるわけないじゃんっていう声が聞こえた気がしましたけれど。ま、とりあえず向かいましょ、夢の島♪」

警官組、下手へはける

探偵、上手より、電話

秋千 「太陽です、た、い、よ、う。太陽に吼えるんです。あ、勿論テレ玉映りますよね?再放送してるんですよ今、太陽にほえろ。でなんと!今夜、柴田純が殉職するんです。柴田です、し、ば、た、じゅ、ん。いや、それケイゾクです。中谷美紀じゃないです。松田優作ですよ、ジーパンです。なんじゃこりゃー!です。だからすぐにテレ玉録画予約してください。でそのデータを明日、私の事務所へ持って来てください。んでもってアルルカンの苺のショートケーキも一緒にもらえると、私飛び跳ねて喜びます。あ、アルルカンってほら、私の事務所の前にケーキ屋さんあるでしょ?(相手が怒鳴り、秋千、電話を耳から遠ざける)………だめ?そうですよねー。えーっと、今から尾行開始します。はい!しっかり尾行します!はい、失礼します!」

電話切る

秋千 「ちっ、使えねー依頼者。しっかし疲れたなーもう21時とっくに回ってんじゃん。お腹空いたなー。水しか飲んでないもんなー。ああーキメ細かくてやわらかいスポンジに、甘過ぎずさっぱりと軽やかな生クリームが乗った、美味しいイチゴのショートケーキが食べたい!。もう贅沢は言わないよ。アルルカンのじゃなくてもいい…あ、やべ!どこいった?」

探偵、下手へ走ってはける

2

警官組、上手より

木槍 「結城警部補は、どこまで行くおつもりですか?」

結城 「一応、君が行くって言った夢の島へ行くつもりだけど、嫌なら帰っていいぞ。報告書に職務怠慢、昇任不適格って書いてあげよう」

木槍 「いや、この会社での位置ですよ。まさか女性初の警視総監とかバカな事考えないだろうし。だとしたら女性警察官が何の為にどこまで行くつもりなのかなーって。でもまぁ、キャリア組と結婚して退職がベターですよね、女なんて」

結城 「それを言葉にしても良いと判断したのは君がバカなのか、そう思わせた私の甘さなのか…どちらもだろうな。ま、他の女は兎に角、私を舐めてると痛い目に合わせるから」

木槍 「あれーハラかなー?これパワハラっていうやつかなー?ちょっとぉー、怖いですよぉー結城警部補ぉー♪」

結城 「ほぉーマジで女をバカにしてるねぇ。まぁ、今はいいか。で潤君、君は何処まで行くつもりなんだ?」

木槍 「僕?僕は最短で最高まで登ります。て言っても、準キャリなんで勝手に上がって行くエレベーターに乗ってるだけですけれどね。25年後の警視正まで続く長いエレベーター。その頃にはもう、結城警部補は寿退社して居ないですよね♪」

結城 「この会社のエレベーター、事故や故障が多いから、くれぐれも気をつけてね。下手したら急降下して地下三階とかで扉開くから 」
木槍 「…えーっと、世田署って地下ありましたっけ?いや無いよ!埋まってますよ?土の中に埋まってますよ?あれーハラかなー?またこれパワハラっていうやつかなー?ちょっとぉー、怖いですってー結城警部補ぉー♪」

警官組、下手へはける。探偵、上手より、電話

秋千 「あーどもども、秋千です、実は夢の島に行くみたいなんですね、はい、でこりゃーいよいよだなと。何がってもう22時になりますからね。お腹空いたし、水ばっか飲んでるのでおしっこ漏れそうだし、いやーいよいよですよこりゃー。一応確認なんですけれど、柴田純の事なんですけれど…い…いえいえいえ!観なくても良いんです!全然、1秒も観る必要ないので、録画出来ませんかねーって…あれ?もしもし?もしもーし!…っんと使えねぇなー。はぁ…疲れた。糖分が足りない。帰っておしっこしてケーキ食べながらTV観てゴロゴロしたい。あ!この盗撮メガネ、TV見れるようにならないかなー…ワンチャン、チューナーのサイズが小さければ…。 あ、やべ!何処いった?」

探偵、下手へ走ってはける。

怪盗ルージュ、下手より

朱理 「え?置いてきたの?嘘でしょ?え、え、置いて、きたの?」

緋芽 「だってーひと吸いコテンだもの、すっごい疲れてたんだと思うよーあの人。起きた時に嬉しいかなって」

朱理 「いや、だからって泥棒に入って何も盗らずに手作りクッキー置いてくる?」

緋芽 「朝焼いたのがちょうど良い感じに余ってたからー」

朱理 「ちょうど良い感じって何よ?泥棒が置いてゆくのにちょうど良い感じのクッキーの余り方って何なのよ?」

緋芽 「それにね、警備室にダージリンの茶葉と保温ポットがあったのよー」

朱理 「あなたまさか、紅茶まで用意してきたとか言わないでしょうね?」

緋芽 「え?え?あ、す、するわけないじゃなーい。そんな、ま、まさかねー」

朱理 「…淹れたんだ…マジか…あ!今日途中でモニター落ちたのって…ヘッドセットの電源をわざと切ったのね!はぁ…手作りクッキー差し入れして、紅茶を保温ポットで用意して、侵入経路をメモで残してセキュリティーの弱点を教えてくれる人の事を、誰が怪盗と呼ぶのかしら…」

緋芽 「チョコレートクッキーねー」

朱理 「え?クッキー、言ったよね?」

緋芽 「クッキーじゃないのよー、チョコレートクッキーなのよー」

朱理 「そこどうでも良いのよ!」

緋芽 「あーチョコが決めてなのにー」

朱理 「そこじゃないの、この話聞いて誰もそこ食いつかないの。私達、怪盗ルージュって犯行カードまで残しながら、何も盗ってないの」

緋芽 「まーそんな怪盗さんも良いんじゃない?」

朱理 「そんなの怪盗じゃなくて、セキュリティー管理会社じゃない!おまけにクッキーも添えてある!」

緋芽 「いい会社さんだねー」

朱理 「私達さ、あの時橋の上で話したじゃない、皆を驚かせよう、最後にこの命輝かせようって。ずーっとくすんでた私達が、世界のニュースになるんだって」

緋芽 「うん、そうなんだけどさー、潜入するとね、皆頑張って生きてるんだなーって感じたの。最初のさー、【碧い月と少女】って絵を狙って入った大きなお家でさー、深夜なのに起きてきた女の子、覚えてるー?」

朱理 「あー寝ぼけてて緋芽のことクマのぬいぐるみだと思った子ね!くましゃん、はちみつはキッチンでしゅよって、トイレに連れて行かれたんだよね。トイレの芳香剤持った緋芽がさ、ちょっと一口食べたかったんだ、ありがとうクリストファーって言った時は、いやクリストファーは絶対違うだろ!って、外でモニターに突っ込んでたわ」

緋芽 「その時ねー、私思ったよー」

朱理 「え?クリストファーのくだり流すの?」

緋芽 「この子が朝起きて観るのは、綺麗な朝日と、涼しい風に凪ぐ草花と小鳥の囀りがいいなーって。高価な絵がなくなって大騒ぎしている大人達の喧騒なんかじゃなくって」

朱理 「…」

緋芽 「それ以来ね、次はどんな人がいるんだろうって気になってー【ダイアモンドアイの少年】っていう小さな木像を盗りに行ったお屋敷のさー」

朱理 「電波状況が悪くてモニター出来なかった時ね」

緋芽 「あ、うん。警備していたお爺さんがね、催眠ガスで眠る寸前に独り言を言ったの。腹減ったなー、うまい飯くいてぇなーって。で、私思わず何が食べたいの?って聞いちゃったのよー」

朱理 「何やってんのよ」

緋芽 「そしたら寝ぼけ眼で私の顔を見ながらー、誰だお前?あ、俺死ぬのか?お前は天使だな?いや、天使はもっと可愛いはずだなぁ、あー俺地獄に行くのか、そうだよな、俺なんかじご…って言いながら落ちたの」

朱理 「何そのしれっとぬるっとサクッとぶっ刺されたエピソード!え?それで盗むのやめたの?何で?逆にさ、目覚めた時に絶望しやがれ!って尚更盗みたくならない?」

緋芽 「やっぱさー、私あの頃のままなんだ。臭い、ブス、バカって皆からいじめられてた、あの頃のまんまなんだよー。輝けないんだよ…どうせ…私なんか…何やっても…。せっかくシュリが世界最高の完璧な計画を立てても…」

朱理 「…え、じゃあ私達、このまま暗闇の中で輝けずに死ぬの?」

緋芽 「…」

朱理 「…」

緋芽 「…だからさー、せめて、こんな私でも、人に喜ばれる事何か出来ないかなーって。で、チョコレートクッキー焼いてみたよー」

朱理 「…そっか…そういうことか…。ねぇ、見に行かない?顔!」

緋芽 「顔?」

朱理 「うん。クッキー食べてる警備員さんの顔!」

緋芽 「あー、どんな顔で食べるんだろうねー?美味しいって思ってくれるかなー?」

朱理 「ね、見たいでしょ?緋芽が焼いたクッキー食べた顔、私もすっごく観たい!戻ろうっ!」

緋芽 「…うん!」

怪盗ルージュの二人、踵を返し下手へはける

警官二人組、サイバーブリード研究所正面、上手より

木槍 「サイバーブリード社、夢の島研究所。ここですね。この建物、窓が一枚もない。中が全然わからないですね。正方形?箱ですねこれ完全に。あ、ロック解除しますね」

結城 「潤君?君、サイバーブリードに連絡入れてないのか?てかなんでロック解除出来んだ?」

木槍 「だってタレコミ受けた時21時まわってましたから。21時以降誰も居ないでしょココ。仕方ないから強制捜査です。こうしてる間にも怪盗ルージュが盗んでるかもしれないし。僕、子供の頃からプログラム作ってるんで、こんなの朝飯前です。さ、どうぞお入りください結城警部補!」

結城 「いや、お前が入れよ」

木槍 「えーっ!なんで僕から入るんですか!こういう時は上司が颯爽とドアを蹴破って派手に銃撃戦を繰り広げるもんじゃないですか!」

結城 「ん?誰も居ないのに銃撃戦が始まるのか?まさか君あれか?太陽に吠えたいタイプか?何じゃこりゃ!って叫びたい奴か?同じ「じゅん」だからって古いぞ潤君!本当はいくつだ潤君!経験だよ経験。勝手に上がるエレベーターも各階でドアが開いてちゃーんとお仕事は用意されているのだよ。実績を積みたまえ。仕事の出来ない上司に部下はついてこないぞ」

木槍 「あーだから僕ついて行けないんですねー」

結城 「ヘッドショット派手にぶっ放そうか?何じゃこりゃとか叫ぶ暇なく綺麗に逝かせてあげるけど?今誰もいないし。あ、知ってるかね?こういう時って事故処理で済むんだそうだ」

木槍 「これはハラですよね⁉︎完全にハラですよね⁉︎わ、わかりましたよ!あーあ、これじゃあ僕が不法侵入した事になるじゃないですか!」

結城 「大丈夫だ、誰がどう見ても君は不法侵入している。帰ったら始末書の書き方も覚えられるぞ♪」

木槍、研究所のドアを開け入る。続いて結城も入る

木槍 「うわー研究所ってなんか不気味だな…」
ロックがかかる音が響く

結城 「ロックがかかったようだけど」

木槍 「あぁ、大丈夫ですよ、帰る時にロック解除しま…え?なんでセキュリティー端末が無いの?」

結城 「鍵穴があるぞ」

木槍 「え、この建物、出る時はアナログロックなんですか!え、今どき?何で?え?ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!鍵が無いと出れないじゃ無いですか!」

結城 「サイバーブリードの社員が来れば開くだろう」

木槍 「それだと僕がハッキングしたってバレちゃうじゃ無いですか!」

結城 「えー!君、クラッキングしたの⁈まーなんて事を!あらあらあらーもー大変!私全然知らなかったー」

木槍 「わざとらしいんですよ!ハッキングって言ったのにクラッキングって訂正してるし!結城警部補も共犯ですからね!」

結城 「だってー、潤君がルートクラックしてセキュリティー解除してー、潤君がドアを開けてー、潤君が部屋に入ってー、潤君が中から呼ぶから私しょうがなく入っただけだしー。私ー、潤君がそーんな悪い事してるなんて0.001ミリも思わなかったしー。てことで早く先行って」

木槍 「くそ!全部わかってたな、この女狐め!」

探偵、サイバーブリード研究所裏、下手より

秋千 「あ、秋千ですー。なんか箱みたいな建物に入っちゃって。研究所…みたいですね。生体認証のセキュリティーロックなので中に入れないです。窓も無いので中の様子が全く判んないんですよねー。はい。それに「チャッチャッチャーララーン♪」が鳴り始める頃なので、今日はここ迄で終了報告…を…と…いや、流石にそれは…はぁ…え?中の様子を記録したら報酬2倍⁉︎中入れます!はい、任せてください!報酬2倍、忘れないでくださいね!では行ってまいります!」

電話切る

秋千 「2倍♪2倍♪報酬2倍♪…さて、そうは言ったものの、どうやって箱の中に入るよ…うーむ…どうする秋千幸助。ん?誰か来た!」

秋千、下手にはける。怪盗ルージュ上手より

朱理、携帯を台に置いて操作する
セキュリティー解除
携帯をそのまま置いてドアへ向かう
ゆっくりとドアを開ける緋芽

朱理 (囁き)「暗いわね。…あれ?ちょっと待って携帯がない!え?落とした?」

緋芽 (囁き)「あー、さっき階段で躓いた時落としたのかなー?」

ドアを開けたまま二人で携帯を探しに上手へはける。その隙に中に入る秋千

秋千 「本当に入れちゃったよ。さーてと。ここは非常口っぽい。で、あの二人が入って行ったのは反対側の正面エントランス。このまま進んだら鉢合わせになりそうだな…取り敢えずトイレ探そ!」

秋千、盗撮メガネをオンにしながら上手へはける

下手より戻ってくる怪盗ルージュ。

朱理 「…で、ここを通って、セキュリティー解除し…あ!あった!」

緋芽 「よかったねー♪」

二人、研究所へ入る

朱理 「なんだか不気味な建物ねー。さすが裸のシュワちゃんがしゃがむ研究所よねー」

緋芽 「シュワちゃんしゃがんでるの?何処ー?ねぇ、やっぱり筋肉すごい?」

朱理 「居ないわよ!アーノルドが居るわけないでしょ!居たら速攻で写真撮ってるわよ!親指立ててツーショットよ!」

緋芽 「なーんだ居ないのか」

朱理 「え、アイルビーバックも流すの?てか、あなたはなんて純真なの。少しは疑うって事を覚えた方がいいと思うのよ、私」

緋芽 「朱理はいつも外でモニターしてくれてるからさー、二人で一緒に入るのなんだか楽しいねー♪」

ロックがかかる音

朱理 「あ!そうだった!オートロックだった!この建物、中からは鍵で開けるから、セキュリティー端末ないんだった!警備員さんの顔見る事ばかり考えてたら一緒に入っちゃったよ!」

緋芽 「そっかー。じゃー出る方法は後で考える事にしてー、とりあえず警備室に行こっか♪」

緋芽、上手にはける

朱理 「緋芽にそう言われると、簡単に出れる気になるから不思議なのよ」

朱理、上手にはける。

結城がエントランスに居る、木槍が下手より

結城 「遅いぞ潤君!誰かとお茶してたのか?」

木槍 「何言ってんですか警部補。暗いし広いしで、何処まで確認しようかと。取り敢えずサラっと見た感じでは誰も居ませんね」

結城 「本当に?警備員も居ないのか?」

木槍 「近場しか見てないので、奥に居るかもですけれど」

結城 「ふむ。受付にここの見取り図的なものないかね?」

木槍 「誰もいない受付ってなんか怖くないですか?居るはずの人間が居ない怖さっていうんですかね」

結城 「潤君、受付カウンターの中入って見取り図的な物探して」

木槍 「警部補?聞いてました?僕の話」

結城 「そんなことより潤君、後ろの人誰?」

そーっと振り返る木槍

木槍 「…びっくりしたー誰も居ないじゃないですか!」

結城 「要るはずの人間が居ないより、居ないはずの人間がいる方が怖いだろ?早く見取り図を探してくれたまえ」

木槍 「…確かに…わ、わかりましたよ。えーっと…あ、ありました。このエントランス抜けると食堂があって、右に進むと医務室、その先を左に曲がって行くと警備室がありますね。その奥で右に曲がって研究室、その横にトイレ、その先が裏の非常口です」

結城 「あるじゃん警備室。じゃ、早く行きたまえ」

木槍 「なんで僕が先なんですか!めっちゃ薄暗いんですよ!居るはずのない人間が居たらどうするんですか!」

結城 「さっきその人とお茶飲んでたんだろう?」

木槍 「そんな怖いお茶会なんかしませんよ!この研究所、なんか不気味じゃないですか?、ちょっと怖かったんで…恐る恐るだったんで…まー多少遅かったかもしれないですけれど…」

結城 「よ!準キャリア!一番乗りで大手柄!出世エレベーター急上昇!ノー何じゃこりゃ!ノーヘッドショット!」

木槍 「…わかりましたよ。ちゃ、ちゃんとついてきてくださいよ!」

怪盗ルージュ組、警備室前、上手より身を屈めながら

朱理 「そこ?警備室」

緋芽 「そうそう、まだ寝てるなら床にいるはずー」
床に警備員が寝ていて、上から布が被せてある

朱理 「これ?警備員さん?」

緋芽 「うん、風邪ひくと大変だから布かけといたー」

布をめくって確認する朱理

朱理 「死んで…ないわよね?…良かった。しかし気持ちよさそうに眠ってるわね」

緋芽 「あー、催眠ガスにアロマオイル入れてるのよー♪今日はサンダルウッドー」

朱理 「催眠ガスにアロマ効果のサービス!要るかねそれ?ドロボーが用意するサービスかねそれ?どうりで穏やかな寝顔だこと。なんなら少し笑ってるよねこれ」

緋芽 「ねー、気持ちよさそうで良かったよー♪」

朱理 「…で、どうしよう?流石に私達がボーっと立ってたら、この人起きた時大騒動よね。あそこに隠れて待つ?」

朱理、物陰を指さす

緋芽 「そうだねー。本当は一緒にお茶しながら感想を聞きたいけれど、一旦隠れましょう」

朱理 「一旦?…え?」

探偵、メガネを触りながら上手より警備室へ

秋千 「一番小さいチューナーってどれくらいのサイズなんだろなー。あぁ、下はスッキリしたけれど頭はボーッとするわ。糖分が足らぬなー。神様、我に糖分の雨を降らせたまえ~。(シャーマンのように儀式的に踊る)

朱理 「なんかアホそうなのが入ってきた!」

緋芽 「社員さんかなー?」

秋千 「さて、何処行っちゃったんだー?ここは警備室って感じだな。あ、やべ!」

探偵、身を隠す

警官組、警備室、上手より

木槍 「ここですね、警備室。居ませんね。やはり今日は、21時で皆退所してるみたいですね」

結城 「いや、居るね」

木槍 「え⁉︎あーもう引っかからないですよ!居ないはずの人が居るドッキリ♪」

結城、床の布を捲り確認

結城 「うん、警備員」

木槍 「マジで居るんかーい!いや、え、居たの?」

結城 「幸せな顔で寝てるねー。いい夢見てるんだろうなー。起こしたら可哀想だからこのままにしておこう。で、潤君、テーブルの上見て」

木槍 「テーブル…あーはい、えーっと、ファイルノート、ポット、制服帽、クッキー、筆記用…」
結城 「チョコレートクッキーねそれ、その下の紙」

朱理と緋芽、顔を見合わせる

木槍 「クッキーの下の紙…あっ!怪盗ルージュの犯行カード!【拝啓、サイバーブリード社の皆様、今宵は御社のウィンターフレイムを戴きに参りました。が、やめる事にしました。侵入経路を書いておきます。次は盗っちゃうぞ♡ かしこ 追伸、チョコレートクッキーとお茶を用意しました。毒は入ってないので是非召し上がってお疲れを癒してください】って、もう来てたのか!クッキー食べてとかふざけやがって!」

結城 「だからチョコレートクッキーね」

木槍 「え?あぁ、そうですね」

結城 「どうでもいいことグチグチ言いやがって、めんどくせぇなコイツって顔だね。これはね潤君、全粒粉の生地に柑橘系のピールを練り込み丁寧に焼き上げたクッキーに、クーベルチュールをテンパリングして最適な温度にキープしたチョコレートをかけている、心のこもったチョコが決め手のチョコレートクッキーなのだよ」

緋芽が嬉しくて飛び出しそうになり、それを抱き止める朱理。その様子に気づく結城。

木槍 「…あ…(めっちゃ詳しいじゃん!てかなんで見ただけでそこまで断定出来るんだよ!パティシエか!パティシエ警部補の事件簿か!)…はい…」

結城 「全部聞こえてんだよ!心の声大き過ぎんだよ!。パティシエ警部補の事件簿ってなんだよ!生地練りながら推理纏めて、焼き上がったら謎が解けたってか!やかましいわ♪ビタースイートなドラマで面白そうじゃないかよ!」

木槍 「いや警部補の心の声もダダ漏れだし!何ならパティシエ警部補気に入ってるし!」

結城 「それにしても…やっぱり、今回もか」

木槍 「戻った!急!急に戻った!え、何がですか?」

結城 「最初も、前回も、そして今回も、怪盗ルージュは何も盗らず、侵入経路を知らせてセキュリティーの弱点を教えている。おまけに今回は、疲れた警備員を怪盗に襲われたっていう大義名分の元にグッスリ眠らせてあげて、目覚めのティータイムまで用意している。一体なんなんだ、怪盗ルージュって」

途中から物陰の二人に向かっていう結城

木槍 「怪盗ですよ、大悪党の怪盗。それに本当に盗ってないのかまだ確認できてませんよ」

結城 「確かに、研究室はこの先だったね、さぁ、早く行きたまえ」

木槍 「はいはい、行けばいいんでしょ行けば」

木槍が出た後、物陰を一度振り返ってからドアを開けたまま出てゆく結城

探偵、物陰から出てくる

秋千 「あぁ、神様!糖分の雨を降らせてくれてありがとう!まさか不気味な箱の中でこんな奇跡が起きるなんて♪本当はケーキが食べたかったけれど、この際クッキーでも良いっす!グッジョブ神!大好き神!おぉー糖分の神ー!」

朱理、物陰から叫ぶ

朱理 「ちょーっと待ったー!」

秋千 「え!え!え!神?この声は神?マジやべー!糖分の神降臨♪」

朱理 「誰が糖分の神よ!そんな都合の良い神様が居るのなら、神棚作って毎日お供物するわ!…え?そうすれば毎日お菓子がある状態じゃない?確かに糖分の神じゃん!って違うのよ!それはチョコレートクッキーなのよ!心を込めて作ったチョコレートクッキーなのよ!ケーキ食べたいけれど、クッキーでもいいっす、とか言ってるアホな奴に、そのチョコレートクッキーを食べる資格はない!」

秋千 「え?糖分なのに?同じ糖分なのに?」

緋芽、物陰から叫ぶ

緋芽 「私は良いよー、誰が食べてくれてもー」

秋千 「でた!神2号!」

朱理 「だって、コイツはクッキーって言ってるし、本当はケーキが食べたいとかほざいてるんだよ?さっきのカッコいい人みたいに心がわかる人に食べてもらわなきゃ!」

秋千 「あー確かに、あの観察眼は凄かったねー。オレ、そこに警備員寝てるの気づかなかったもん」

朱理、物陰から出る

朱理 「そうだった!あの人凄いのよ!」

秋千 「おぉー出たな神1号!」

朱理 「カッコいいだけじゃないの!私たちがここにいる事も気づいてるの!私、部屋を出てゆく時あの人と目が合っちゃったのよ。とろけるかと思ったわよ!そして多分、わざとドアを開けて出て行ったの」

緋芽、出てくる

緋芽 「どういうことー?逃げろってことー?」

秋千 「きたー!神2号!私に糖分をありがとう!」

朱理 「だから、あんたはダメだって言ってるでしょ!」

緋芽 「良いよー私はー」

秋千 「ほら!神2号もこう言っている!」

上手より結城、手を叩きながら

結城 「はいそこまで」

固まる3人、結城、警察手帳を見せながら秋千に問う

結城 「私は警視庁の結城です。まずあなた、ここで何してます?」

秋千 「あーえーっと、僕、ユーチューバーでして、不気味な箱の中はどうなってるの?っていう動画を撮ろうと思って…」

結城 「4秒…咄嗟に作ったにしては早い。ところで、私、最近メガネを変えたんですけれど、しっくり来てなくて、そのメガネ気になります。どちらで購入されました?」

秋千 「え?あ、これですか?安物ですよ、下北沢のゾフで適当に選んだものです。ただ潔癖症なのでフレームを抗菌の特殊な物に交換してます」

結城 「ブラボー。潔癖と言われたら、私触れませんからね。まー触ったところでピクセルやフレームレートまでは判りませんけど。では、そちらのお二人、何故戻ってきたんですか?」

朱理 「え⁉︎戻って来た事もお見通しなの?」

緋芽 「あのっ!、お茶にしませんかー?その方がゆっくり話せますしー!」

結城 「そうですね。今、部下が食堂にカップを取りに行ってるのですが、先に始めますか」

第二幕

4人が囲む警備室のテーブルにカップ2つとチョコクッキー

緋芽、結城と秋千にお茶を注ぎながら

緋芽 「さぁどうぞ召し上がってくださいー♪」

秋千、素早くチョコクッキーに手を伸ばす

秋千 「言っただっきまーす♪」

朱理 「あんたじゃないのよ!どうぞ結城さん♪」

結城 「では、戴きます」

結城、チョコクッキーを食べる

秋千 「うんま!なにこれめっちゃ美味しいじゃん!コンビニスイーツで我慢しろって悪魔が囁いてたけど、誘惑に負けないでよかったわ♪」

朱理 「私には誘惑に負けて糖分を貪る男にしか見えんのだが」

結城 「うん!とっても美味しいです♪しなやかな食感のクッキー。程よい苦味はオレンジピールとカカオニブが合わさって生み出している。そして、それらを甘いチョコレートが慈しむように包み込んでいる。これは食べる人の事を大切に想って作られたチョコレートクッキーだ」

秋千 「出たな!パティシエ警部補の推理」

緋芽、とても嬉しそうにしている。

緋芽 「良かったー!笑顔で食べてもらえた♪」

朱理 「うん、良かった!てか、結城さんの食レポ聞いてると美味しそうで私も食べたくなっちゃう!」

朱理、チョコクッキーを食べる

朱理 「やば!うま!何これめっちゃ美味しいじゃん!」

緋芽 「朱理も有り難う。結城さん、私達この顔を見に戻って来たんです」

結城 「顔、ですか?」

朱理 「はい。緋芽は頑張ってる人の為にチョコレートクッキーを作って、ココに置いて出て来ました。私、帰り道でその経緯を聞いて、警備員が美味しそうに食べてる時の顔を緋芽に見せたいと思ったのです。だって、こんなに人の事を思って尽しているのに、緋芽には何も返ってこないなんてヤダ!ついでに一生懸命計画を練った私にも何もないなんて悔しい!やった分の見返りとして笑顔だけでも貰おうと」

緋芽 「頑張ってる人を応援したいですー。こんな私でも出來る事って、これくらいしかないのでー」

結城 「…なるほど…やはり今回も何も手にせず…。ですが、そうなると尚更解せないのです、何故怪盗ルージュをなさっているのか」

秋千 「怪盗ルージュ?今巷で話題のあの怪盗ルージュ?盗まない怪盗でお馴染みのあの怪盗ルージュ?セキュリティー管理会社じゃない?って噂のあの怪盗ルージュ?」

朱理&緋芽 「その怪盗ルージュ」

秋千、朱理の肩に手を置く

秋千 「どおりで、神にしては化粧が濃いと思っていた」

朱理 「そこかーい!」

秋千、チョコクッキーを頬張る

カップを3個持って木槍が警備室に入ってくる

木槍 「持って来ましたよカップ3個。警備員起きました?…あれ、そんなに寝てたんですか警備員?カップ足りませんね」

結城 「有り難う。彼は木槍巡査部長、潤君って呼んであげて下さい」

木槍 「世田署の木槍です。いや何で下の名前で呼ばせるんですか!」

結城 「君に友達が居ないからだよ。気軽に下の名前で呼んで貰えば、もしかしたらお友達になってくださるかもしれないだろう」

木槍 「友達居ないのなんで知ってるんですか!あ、いや、い、居ますよ…友達くらい」

4人とも疑いの眼差し

木槍 「なんですかその目は!警備員さん達まで!」

結城 「いや、警備員はまだそこで寝ている。此方の方々はココの社員さんで残業していたら閉じ込められたそうだ。潤君のお友達候補の皆様、お名前を潤君にお聞かせください」

結城が秋千に手を差し向ける

秋千 「あーえーっと、サイバー…ブリード社で清掃をしております秋千幸助です」

朱理 「えっと、私、システムエンジニアの小泉朱理です」

緋芽 「真田緋芽と申しますー。私はーお茶入れたりーお菓」

朱理 「彼女は営業庶務です!」

木槍 「はぁ、どうも、よろしくお願い致します」

緋芽 「お茶お注ぎしますねー潤君」

朱理 「チョコレートクッキー食べてねー潤君」

秋千 「潤君♪」

木槍 「早速下の名前で呼ばれてるし!秋千さんに至っては意味も無く無理やり名前呼んでるし!てかこれ、怪盗ルージュがダミーカードと一緒に残していったクッキーですよね?毒が入ってるかもしれないですよ?」

秋千 「ダミーカード?毒?入ってないよ毒。めちゃうまだから食ってみ潤君♪」

秋千、食べながら言う。結城、頷く。

木槍 「いや、証拠品なんで僕は食べないです」

緋芽、寂しそうな顔になる

結城 「まー紅茶飲んで一休みとしよう」

木槍 「結城警部補、研究室でも言いましたけれど、お茶飲んでる場合ですか?ウィンターフレイムが怪盗ルージュに盗まれたんですよ?」

朱理と緋芽、目を合わせ頭を傾げる

結城 「だから一休みするんだよ潤君」

木槍 「どう言う事ですか?急がないと逃げられますよ」

結城 「この建物にいないならもうとっくに逃げおおせてるよ。まーちょっと落ち着きたまえ」

木槍、渋々座りお茶を飲む

警備室でお茶を飲みながら談笑する4人。秋千は携帯で撮影している。

結城の隣に朱理

朱理 「結城さんは、お休みの日は何をしてるんですか?」

結城 「休みの日ですか…何もしないですね。あ、秋千さん」

結城、秋千を手招きで呼ぶ

結城 「私なんかじゃなく、潤君の友達作りの思い出を撮ってあげて下さい」

秋千 「あ、はいはい、お友達の居ない潤君の思い出映像ねー了解ー♪」

結城 「あ、携帯じゃなく、そちらで、そうですね…あの辺りから」

結城、秋千のメガネを差した指を木槍の後ろの棚に動かす

秋千 「え!あぁ…了解♪」

秋千、メガネを置きに行く

朱理の隣に木槍、その隣に緋芽

木槍 「…で、めっちゃ勉強したんです。その甲斐あって見事合格しました!」

木槍、カップのお茶を飲み干す

緋芽 「凄いですー、とっても頑張ったんですねー!」

木槍 「はい!頑張りました!出世エレベーターの切符を手に入れました!」

緋芽 「でも警察官って大変なのでしょー?事件があると帰れないとかー?」

木槍 「まー上に行けば現場に出なくても済むので…真田さんも今日残業してたんですよね?、なぜ残業になったのですか?」

聞こえた朱理、緋芽の代わりに慌てて答える

朱理 「あー、えーっと、緋芽は資料室に書類取りに行ったら閉じ込められちゃったんです。そう、閉じ込められちゃった。で、私が帰る時にドアがドンドン鳴ってるから気づいたんですけれど、資料室の鍵を探すのに手間取っちゃって、21時回っちゃったんです」

緋芽 「そうなんですー回っちゃたんですー」

木槍 「それは気の毒に!長時間一人で寂しかったでしょう?」

緋芽 「まー一人は慣れているのでー」

木槍 「あーでは、もし次に何かあれば、僕に連絡ください!すぐに駆けつけます!あ、携帯お借りできますか?僕の連絡先入れちゃいます♪」

緋芽「えっ、ほん…いいんですか…?」

緋芽、木槍に携帯を渡す。
木槍自分の携帯をポケットから出す

木槍 「えーっと、僕の連絡先を…あ、真田さん、御免なさい、慣れないことをすると緊張して喉が渇いちゃって。紅茶をもう一杯いただけますか?」

緋芽 「あ、お茶が無くなったので淹れてきますね」

緋芽、ポットを持って上手へ

朱理 「じゃぁ、デートとかはどうなさって?」

結城 「デートは、したことがないですね」

朱理 「え?こんなにカッコいいのに?」

結城 「…私、カッコいいですか?」

朱理 「ええ、とっても。男前だなーと」

結城 「男…前…ですか?お綺麗な方にそう言われると嬉しいですね」

朱理 「き…私、綺麗ですか!本当にそう思いますか⁈」

結城 「ええ、とっても。美しいと思います。それと…、私も、あなたと同じです」

朱理 「え…同じ…」

緋芽、ポットを持って帰ってくる。木槍、緋芽の携帯を見ている

緋芽 「お待たせしましたー。皆さーん、お茶のおかわり出来ますよー♪」

木槍 「これは!ウィンターフレイム!なぜ真田さんの携帯にウィンターフレイムが入ってるんですか⁈真田さん!あなた、怪盗ルージュだったのですね!」

緋芽、呆然と立ち尽くす。

10

朱理、立ち上がり緋芽の方へ

朱理 「え?ちょっと待って、どういうこと?」

緋芽 「…」

朱理 「そんな…そんなわけない!緋芽は何も盗ってない!でしょ、緋芽?」

緋芽 「…そうだよね…私なんかの為にさー、私なんかの為に…駆けつけてくれる人なんているはずないよねー。なのに私さー、ブスが何勘違いしちゃったんだろう…バカだよねやっぱり私」

朱理 「違う!緋芽はとっても綺麗なの!とっても賢くて優しいの!」

緋芽 「潤君、そうです、私、怪盗ルージュです」

木槍 「怪盗ルージュ!強盗傷害容疑で現行犯逮捕する!」

朱理 「待って!怪盗ルージュは私!緋芽は違う!全部私が計画して実行したの!」

緋芽 「ここに潜入する際に通ったダクトに、作業員の落書きがあったのよー。朱理は怪盗ルージュじゃないから知らないでしょー」

朱理 「そんなの…そんなのズルいよ…緋芽。結城さん、判ってるんでしょ?怪盗ルージュは二人なの!主犯の私を捕まえて!私が盗みをしようって緋芽を誘って、私が計画を企てて、私が欲しい物を緋芽にお願いしていたの!だから!私を捕まえて!」

結城、朱理とは目を合わせず考えている

11

緋芽 「ごめんねー朱理ー。私がチョコレートクッキーなんか置いて来ちゃったからこんな事になったよー」

朱理 「違うでしょ、1年前に橋の上から飛んで死のうとした私を助けてくれたあなたに、最後にこの命輝かせよう、世界のニュースになろうって、私が泥棒なんかに誘ったからこうなったのよ」

緋芽 「やっぱり…私なんかが…輝けるわけないよね」

朱理 「ここで終わりかー。あとは薄暗い牢屋で時間が過ぎるのを待つだけ…」

緋芽 「でもさー最後に楽しかったよー。知らない場所に忍び込んで、知らない人の頑張りを見れたよー」

朱理 「そうね、私もセキュリティーの弱点を探して突くのすごく面白かった。人生をかけたパズル。緋芽の潜入が成功するか、ドキドキしながらモニターで確認するのも最高に楽しかった」

12

緋芽 「私さー、ずーっといじめられてきた。愛情って聞いた事あるけれど、それ何?感じた事ないからわからないのよー。だからさー、私でも出來ることを一生懸命してれば、誰かが私のこと愛してくれるかなーって。微かな希望。小さな小さな僅かな未来。それに向かって毎日を過ごしてたんだけど、ある日突然、『私の人生は真っ暗闇だ、もういいや』ってなって橋に向かったの。鳥みたいに飛んで川に流されて海に出れたら最高だなーってさー」

朱理 「私はね、生まれてからずーっと女だった。だけど身体が女じゃないの。悩んだよ、子供の頃からずーっと悩んでた。小学5年くらいからオカマって呼ばれた。高2の夏、好きな男の子に告白したの。フラれるのは覚悟してた。でもその男の子、テメェ俺に告白とか何してくれんだよ、何様のつもりだ、キモすぎんだよ、なんで俺がこんな目にあわなきゃなんねぇんだよって言いながら、私を殴り続けたの。殴られてる時、私目を瞑ってた。真っ暗闇の中で『絶対綺麗になってやる』って、それだけを考えてた。高校卒業したらお化粧をして、メイクを勉強して、私なりに綺麗になる努力を沢山したつもり。でもね、やっぱり好きな人には愛されなかった。もうこんな身体どうでもいいやって思った時には、橋の上で柵を乗り越えようとしてた。でもその身体を緋芽は抱き止めてくれた」

緋芽 「あなたは死んじゃいけないの。私なんかは誰にも愛されないけれど、朱理、あなたは素晴らしい人よ、死んじゃいけない」

朱理 「緋芽、あなたこそよ!あなたこそ素晴らしい人。頑張ってる人を見ると応援して惜しみなく尽くす。私だけじゃない!あなたに救われた人が沢山いるのよ!」

第三幕

13

木槍、俯いて動けない

結城 「必死に生きているんだよ。誰もが皆、悩み、苦しみ、もがきながら必死に生きているんだ、潤君」

木槍、動けない。秋千、木槍の肩に触れる

秋千 「…なるほど、偽ルージュか」

木槍ビクッとする。結城、秋千を眺める

秋千 「あぁ、身体に触れるとね、その人の記憶が映像となって視えるんだよ。何故だかわからないけれどね。そんで、糖分が不足すると映像が不鮮明になる。これも何故だかわからない。今はくっきりはっきりバッチリ視えた♪」

秋千、手に持つチョコクッキーを振る

結城 「随分便利な能力だな」

秋千 「それがそうでもないんだよなー。気を抜くと知りたくも無い事を知る羽目になる。ふとした瞬間に他人の嫌な記憶が頭を過ぎる。うん、嫌だねーほんと。だから滅多に人に触れない」

木槍 「そんなの、嘘に決まってる!。信じられない!」

秋千 「そうだよねー信じられないよねー。研究室のドアが開く。サイバーブリードのロゴが光るコンピューター。偽の怪盗ルージュの犯行カード。潤君の携帯にダウンロードされるウィンターフレイム。潤君の携帯から緋芽ちゃんの携帯にダウンロードされるウィンターフレイム。そんな映像が視えたなんて、信じられないよねー」

木槍 「う…嘘だ!き…き、記憶がみ、見えるはずがない!」

結城 「潤君、この研究所に入った時、君は社員が残って居ないか見に行くからエントランスで待っててくれと私に言った。あの時戻りが遅かったのは、お茶を飲んでた訳でも、暗がりが怖かった訳でもなく、研究室へ向かったからだ。警備室の前を通る時、中を覗いた君は、誰もいないと思い部屋には入らなかった。研究室ドアのセキュリティーを解除し、サイバーブリード社のコンピューターから自分の携帯にウィンターフレイムを移し、偽の犯行カードを置いて怪盗ルージュの犯行に見せかけた。その後、私の待つエントランスへ戻り、私と共に警備室に向った。本物の怪盗ルージュの犯行カードがテーブルの上にあるのを見て慌てたはずだ。君はまだ来ていないと思っていたからね。その後、私と共に研究室へ入り、偽の犯行カードを見せながらウィンターフレイムが盗まれたと言った。その時私は違和感を感じた。果たしてあの二人は盗むだろうかと。そして盗んだなら何故戻ってきたのかと」

木槍 「あの二人?知っていたんですか?彼女達を」

結城 「警備室で三人物陰に隠れているのがわかった。一人は携帯でこちらを撮影していた。残り二人は怪盗ルージュという言葉に関心を示していた」

秋千 「いや凄いね、その観察眼」

結城 「彼にカップを取りに行かせ、警備室に戻るとまだ君達がいた。そこで二人の話を聞くとやはり今回も何も盗っていない事が判った。となると、怪しいのは潤君か、この男だ」

結城、秋千を指す

結城 「しかし、この男はずーっと私を撮っていた。携帯、メガネ、そして胸のペンで」

秋千 「あらら、これもバレてたの?言ってー早く言ってー、バレてないと思ってたからこんなこと(白々しく胸を張ったりする)してたじゃんかー恥ずかしいからー」

結城 「粗方、母が雇った探偵あたりだろう。となると潤君、君が残る。君がウィンターフレイムを持っているなら、どこかに捨てるはずだ。持っていれば君が怪盗ルージュになるからね。そこでこの中の誰かのデバイスに移すと考えた。探偵さんは盗撮が得意みたいだから君を撮影してもらっていたんだ」

秋千 「多分撮れてるよ、潤君が緋芽ちゃんの携帯にウィンターフレイムを移してる所。あのメガネで」

秋千、棚のメガネを指す。木槍、下を向き少し震えている
結城 「いいのか?ちっぽけな出世欲の為に、必死で生きている人を踏み台にして」

木槍 「あんたに…あんたに何が解るんだよ!キャリア組で順風満帆なあんたに!優秀な兄に低脳、出来損ない、なんでお前みたいなのが弟なんだと罵られる気持ちが、あんたに解るのか!」

結城 「解らんよ。私は男にかけられる期待やプレッシャーなど全く感じたことがない。なぜなら私は女として産まれたからだ。その環境の中で誰よりも優秀になるべく誰よりも努力した。しかし、私の評価にいつも付いてくる言葉は、女のくせに、と、女にしては、だ。兎角この世は女をバカにする」

木槍 「何だそれ…なら何故…女が不利な警察組織なんかに来たんですか!」

結城 「認めさせたいのだよ、女を。能力の評価に性別は関係ない事を。私は女の身体で生まれて来た男だ。そう、朱理さん、私はあなたと同じ、性同一性障害なのです。」

朱理、息を呑む。 木槍、驚いて眼を見張る。

結城 「私は、10代の頃より純粋に能力が評価される事を望んだ。しかし、この社会はまだそれが出来ない。女だからしなくていい、女ならこうしろ、女のくせに、女にしては。そう言われるたびに、私はなぜ男の身体で産まれなかったのかと、心の奥底で強く泣き叫んだ。しかし、どう足掻いても私の身体は女なのだ。ならば私が先陣切ってやろう。誰にも文句を言わせない最高の結果を出し、女のくせに、と、女にしては、を消し去ってやろう。そう決めた。警察官には正しい行動が要求される。木槍巡査部長、ここにくる途中君は、女性警官が何の為に何処に行くのかと、私に言ったね。君は人を見ていない。目の前にいる人の本当の想いを、痛みを。正しさの精度を上げる為にしっかり相手を見るべきだ。君の考える正しい行動とは?悪を作り上げそれを罰し、自らの階級を上げる事か?今君がしようとしてる事は、本当に君がしたい事なのか?」

木槍 「…結城警部補…初めて僕の事を、木槍と呼んでくれましたね。…僕の夢は、5歳の時から警察官でした。警官やパトカーを見ると必ず敬礼していました。木槍家は代々警官と医者の家系で、どちらかに入れないなら木槍家の人間ではないと言われて育ちました。僕も早く街で暮らす人々を守りたいと思っていました。子供の頃は兄より優秀だったんです。常に学年1位だった。それが高校に入ったら2番になり、3番になり、気がつくと10位以内に入れなくなっていた。その頃から兄は僕に冷たくなっていった。父とも目を合わせられない。僕は一族の出来損ないなんです。何とか準キャリアとして入れたけれど、いつ落ちるか、何人が僕を追い抜いてゆくのか、そう思うと毎日不安なんです」

緋芽 「潤君、凄いよー。いっぱい勉強して沢山努力して、難しい試験に合格したんだもん!私なんかには到底出来ないよー。頑張り過ぎたから少し疲れちゃったんじゃないかなー。これ食べたら元気出るかもよー」

緋芽、チョコクッキーを渡す。木槍受け取るも躊躇する

朱理 「ほら!早く食べなよ!毒味は探偵がいっぱいしてくれたから!」

秋千 「食べないなら戴くぞ♪」

朱理 「あんたはもういいのよ!」

木槍、チョコクッキーを食べる

木槍 「…お、美味しい。何これ、めっちゃ美味しい!」

朱理 「でしょー!緋芽の愛情たっぷり入ってるからね♪」

緋芽 「良かったよー潤君の笑顔、頂きましたー。私は牢屋から潤君の事応援してるからねー!」

木槍 「…いや…御免なさい。逮捕はしません。怪盗ルージュは何も盗んでませんから」

結城 「そう、怪盗ルージュはセキュリティーチェックをして、美味しいチョコレートクッキーをお土産に置いて帰っていった」

朱理&緋芽 「私達、ドロボーなのに捕まらないの?」

結城&木槍 「私達、捕まえない警官なんで」

14

社員が出社して研究所の照明が点く

秋千 「お、電気が点いた!」

朱理 「おぉー外に出れるね」

結城 「その前に、潤君戻してきなさい、その携帯に移したもの」

緋芽の携帯を指す

木槍 「あー!そうだった!」

緋芽 「あ、一緒に行きますー」

木槍、緋芽、上手へはける

朱理 「結城さん、あのー次のお休みも…予定通り何もしてないですか?」

結城 「いえ予定入ると思います」

朱理 「そ、そうですか…」

結城 「朱理さんフレンチとお寿司、どちらが良いですか?」

朱理 「…え?あ、私と過ごしてくださるんですか⁈」

結城 「…ダメ…ですか?」

朱理 「お寿司でお願いします!」

木槍、緋芽、上手より

緋芽 「でさー、私言ったよー、【しかも青い猫は、ああ見えて常に浮いてるからね!】って」

木槍 「あーでも確かに、あの白い猫は、ミカン半分持ち上げてお尻振ってるよね♪」

秋千 「いや何の話⁉︎え?野比家の居候?磯野家のペット?あ、鈴?鈴の話?あの鈴鳴ってるの聞いた事ないって話?」

4人下手へ話しながらはける。秋千一番後ろで電話

秋千 「あーもしもし、秋千です。録ってくれました?なんじゃこりゃ。あ、撮るわけない。ですよねー!今終わりました、はい。いやーマジで疲れましたよー今回は。おしっこ漏れそうだったし。あ、報酬2倍の件、絶対忘れないでくださいよ!あー本題ですね、娘さんは大丈夫です、はい。そうだなー1、2年もすれば元気な跡取りの顔が見れると思います。はい♪」

秋千、下手へはける

15

1年後、カフェでお茶している4人

緋芽 「今3ヶ月?」

朱理 「そう3ヶ月」

木槍 「て事は…夏生まれですね、結城警部」

朱理 「潤君も昇任試験合格おめでとう!木槍警部補だね♪」

木槍 「ありがとうございます。緋芽ちゃんが居るので、試験なんかに負ける気しません♪」

緋芽 「私何にも手伝えないからさー、美味しいご飯作って応援する事くらいしか」

結城 「それが一番の支えになりますから。二人の会社も順調の様で安心」

木槍 「でもまさか会社の名前も怪盗ルージュにするとは思わなかった」

朱理 「違うよ、会社名はルージュ!キャッチコピーが、『盗まない怪盗、セキュリティー強化のルージュ』だよ」

木槍 「まーあの怪盗ルージュの様に、セキュリティーの弱点を発見してくれる会社なら、頼んでみようってなるよね」

緋芽 「してる事は怪盗ルージュと同じだから、とっても楽しいよー♪」

朱理 「そ♪依頼された会社への潜入計画を私が企てて、緋芽が潜入し、侵入経路とハッキングログを貼った報告カードを現場に残しておく。手作りお菓子を添えて♪」

結城 「依頼した方も、犯行カードの様な報告書を喜んでるらしい」

木槍 「楽しいですよねそういうの♪お菓子めっちゃ美味しいし」

朱理 「あれ?あいつ、探偵じゃない?ほら、あそこのアホそうなの」

朱理、上手を指差す。秋千、上手より電話。4人、じっと目で追う

秋千 「いやだからー、大丈夫ですはい、白です。真っ白。第一あの顔ですよ?ないですよ!ないない!あの顔で浮気って…あ、いや、そこまで怒らなくても。浮気してない証拠?…それ、悪魔の証明ってやつです…。あ、それより!知ってます?私の事務所の向かいにあるアルルカンってケーキ屋さんのタルトタタン、めっちゃ美味しんですよ!手土産にそれ頂いたら、私大変喜びます。あ、ちゃんと一切れ分けてあげますよ♪心配なさらず…もし?もしもし?もしもーし!…ったく使えない依頼者だなーどいつもこいつも。糖分よ、糖分が足りないのよ。神よ!糖分の神よ!我に糖分の雨を…」

秋千、下手へはける。

朱理 「あいつは相変わらずアホだな」

木槍 「彼で思い出したけど、先日ウインターフレイム発表されましたね」

朱理 「されたねー。(結城のお腹を触りながら)さて、この子が産まれてくる世界は、どうなりますことやら。そういえば緋芽、サイバーブリード研究所のダクトに、作業員の落書きあったって言ってたじゃない?あれ、なんて書いてあったの?」

緋芽、その時の様子を身体で表す。三人、緋芽を見つめる

緋芽 「あーあれねー、暗くて狭いダクトを暫く這って進んでたらねー、灯りが点いた広い場所に出たのよー。眩しくて目を細めながら見上げた所に落書きがあったのー」

緋芽 「その耀きを胸に、暗闇を征け」

いいなと思ったら応援しよう!