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いのちの削ぎ落とし

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短編、掌編小説など。
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#掌編小説

小説「細い光」

小説「細い光」

 土曜の朝、私は体の痛みに目をさました。

 左半身が布団に沈みこみ、頬にふれると枕の縫い目がついていた。昨夜床についた時も同じ姿勢だった。どうやら一晩中寝返りも打たずに眠っていたようだ。ここ数日、同じような寝覚めをむかえていた。こちらを向いていなければならないと、無意識に思っているのだろうか。

 目の前には、美晴の寝顔があった。

 あおむけになり、軽くこちらに首を曲げて眠っていた。額に汗がう

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掌編「しんしんと雪が降る」

掌編「しんしんと雪が降る」

 九州からはるばる、私の住む南東北の街で暮らしはじめた友人の女性から聞いた話をもとに書いてみました。
 季節はずれですが、急に暑くなったこの時期に少しでも涼を感じられたら幸いです。

 ―――――――

 雪って、しんしんと降るんだって。

 はじめてそのことを聞いたのは、彼女が幼稚園の時。大好きだったちづるせんせいからだった。

 しんしんと降る雪って、どんななんだろう。

 彼女はそれから、し

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