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かごしまスケッチ p4: 見たことない南国フルーツ 〜鹿児島大学 農学部附属農場 

「ジャボチカバ、ってなんだろう?」
 濃い紫色の実が20粒くらい入って100円。小さな袋が販売所の長机の上に1つだけ残っている。
 今日は鹿児島大学農学部附属農場の販売会。大学構内の畑や附属の農場、果樹園で学生たちが生産した農産物が販売される。隣にはメロンやスターフルーツがいくつも並んでいるのを見ると、ジャボチカバはそもそも収穫が少なかったのかもしれないけれど、なかなか人気みたいだ。

「これは梅桃(ゆすらうめ)のようなものですか?」
 子どもの頃にお向かいの家の庭で食べた実を思い出して聞いてみると「ブドウみたいに食べます」という想定外の答え。梅桃はたしか濃いだいだいに紅が差したような色で、それを除けば形も大きさもジャボチカバにそっくりだと思ったけれど。
「どういう状態でなるんですか?」「木の幹になります」
ますます想定外。太い幹に紫色の実がつぶつぶとくっついている様子が浮かぶ。最初に思ったのとどんどんずれていく。
 パッケージをよく見ると、

農学部の学生と指宿植物試験場の職員が実習で育てた農産物です。
ぜひ一度お召し上がりください。  鹿児島大学 指宿植物試験場 

 とあった。
 指宿といえば砂風呂が有名。鹿児島県の2つの半島のうち、地図で見ると向かって左側の薩摩半島にあって、開門岳が優美に裾野を広げる眺めも麗しい。加えて相当、南国なんだとジャボチカバを見て思った。こんな謎なフルーツがなるなんて、きっと想像以上に南国なのだ。

 その最後の一つを、つぶさないようにカゴに入れた。かくなる上は食べてみるしかないでしょう。そのほかには今季の目玉、新米「ヒノヒカリ」、柑橘を3種類。あとは紅はるか、あやめかぶ。(なぜか紫色の野菜ばかり買っていた)

 販売所の建物を出ると、秋晴れの空の下、田んぼの前にオレンジ色のトラクターがずらり。市内中心部ではお目にかかることのない風景が広がっている。お昼だしお腹も空いたしと、学食の方へ歩き出すと、私たちの姿(一人はお米の袋を抱え、一人はかぶの葉っぱが飛び出したバッグを背負っている)を見て、「あ!」という顔をした4人連れの学生と目が合った。どうやら、販売所を探していた模様。この先の角を曲がったところですよ、と指さすと「ありがとうございます!」と笑顔で去っていった。

 果たして彼らは期待していたものを買えただろうか。年に数回催される販売会は、新米シーズンがもっとも盛り上がることは想像に難くない。その証に大人による長い行列ができていた(我々もその一員だったけれど…)
 同じキャンパスの中でこんなイベントでにぎわっていることに気がつかない学生もきっと多いかもしれない。でも、自分たちが通うキャンパスにこんな恵みがあると知ったら、秘密クラブの活動を知ったような驚きがないだろうか。あの4人に農学部が収穫したお米や野菜、果物をお腹いっぱい食べてもらいたいと願った。

鹿児島大学キャンパス内の田んぼの前にトラクターがずらり。


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