かごしまスケッチ p5: 桜島の雪といぶたま 〜鹿児島中央駅
今朝、洗濯物を干しながら桜島を見たら、うっすら、北側の山頂あたり(北岳)に白いものが。桜島の煙はいつも、南側の山頂(こちらは南岳)から噴いているから、北側にだけ雪が残っているのか。
桜島は1000m以上あるそうだから、地元では当たり前の風景かもしれないが、新参者は鹿児島で雪を見たというだけで驚いてしまう。11月なかばまで半袖で過ごしていたから、冬もそんな調子だろうとのんびり構えていたら、年明けに一気に本州並みの寒さに襲われ、不意打ちをくらってしまった。
そんなわけで帰省以来1週間、寒さに負けて外に出ない日が続いている。常々、天文館のowl(日常雑貨と本の店)へ行かないと、帰ってきた気がしないと考えているほどなのに、今日までゴミ捨てとポストにしか行っていない。今は鹿児島と仲よくなることこそ第一命題なのに、どうしたものか。
帰省先から戻る途中、鹿児島中央駅で『指宿のたまて箱』を見た。一見、堅牢な昔ながらのディーゼル車。でも実のところは特別仕立ての特急列車のようで、クラシックな趣のベージュ色にエンジンの排気のためか、曇った窓に照明がぼわっと映って素敵だった。
今回の帰省では十数年ぶりに同窓会があり、そこで、私が人生で初めて出会った鉄男であるところの同級生に「春から鹿児島に住んでおり、最寄り駅は〇〇である」と話すと、ニヤッと笑った。まるで映画に出てきそうな趣の小さな駅を知っている人がいることに、故郷ではかえって遠く感じられて仕方なかった鹿児島との距離が少し縮まる気がした。
そんなこともあったせいか、中央駅のホームで“いぶたま”を見たらにわかに鉄心がわき、キャリーバッグから手を離して急いで写真を撮った。自分の乗る各駅停車がもうホームに来ていたから、2カットしか撮れなかったが、これを鉄男くんに送ろうと思うだけで励まされる気がした。
その夜、写真を見たらいまいち締まりがない。どうやら、電車を停車した状態で撮る場合には、図鑑などのように、前後どちらかの「顔」を入れなくては特徴が伝わらないことがよくわかった。そして「たまて箱」の由来を調べようとJR九州のホームページを見ると、なんと…! 正しいアングルから撮影した写真には、いぶたまの白黒の顔が載っていた。縦半分が白、もう半分が黒で、さらに車体も同様。海側から見れば白いが山側は黒、という具合に。なんでも、玉手箱を開けてあっという間におじいさんになってしまった浦島太郎の髪の色を表しているのだとか。
あのとき、中央駅で顔を撮ろうとしていればわかったはずなのにと惜しまれた。クラシカルなベージュと思ったのは、窓同様、ディーゼルの排気によるものだったのか。
楽しかった同窓会から今日でちょうど1週間、すっかり日常に紛れて、いぶたまの写真もそのままだけれど、今は鉄道会社に勤務という初志貫徹の男、鹿児島の市電の枕木が燻った理由もたちどころに説明してくれた彼に、この週末には写真を送ろうと思う。白黒カラーに驚いた話をしたら、ま、(一般人は)そうだろうねとまたニヤッとされそうだけれど。
※「指宿たまて箱」は鹿児島中央駅から枕崎駅まで、鹿児島枕崎線を走る特急列車。名前の由来は、指宿に残る浦島太郎伝説だそうです。指宿にはほかに、開門岳を臨む名湯たまて箱温泉もあります。