助手席の異世界転生(ショートショート)
二日前、私は死んだ。
霊柩車の助手席に抱えられた遺影。
走り去る風景を眺める。
進学、就職、お見合い、介護。
いつも誰かの指示通り。
今度生まれ変わったら、自分の人生を生きよう。
ふと見れば白いタクシー。
手を上げればドアが開く。
「どちらまで?」
「自分が主役になれる世界へ」
「かしこまりました」
時空を超えたタクシーは、中世ヨーロッパ風のお城へ。
王妃様の出産現場へ吸い込まれていった。
四十年後、剣を背にした女性がお城の前で白いタクシーを止める。
「どちらまで?」
「元の世界へ。魔王を倒したから異世界はもういいわ」
タクシーが時空を超えると、ロボットが闊歩する世界が現れる。
「ここは?」
「四十年後の日本です」
「子供達は?」
「…………」
「敵を討つわ!」
タクシーは巨大な人工知能の前へ。
大剣を振るい全てが終わるも立ち尽くす女性。
「もう一度だけ子供達に会えたら後は何もいらない」
「全てを失っても?」
女性が頷くとタクシーは走る。四十年前、あの霊柩車の助手席へと。
(416文字)
たらはかにさんの企画に参加です。
お読みいただきどうもありがとうございました💖