それでも君がいい(Ⅲ)
「明日から夏休みになりますが、体調と課題の管理を怠らず、有意義な夏休みにしてください。」
夏休み前最後の集会が終わり、ついに夏休みに突入した。
陽:〇〇く〜ん
〇:河田さん、どーしたの?
放課の時間になり帰りの支度をしていたら、河田さんが声をかけて来た。
陽:文化祭準備のスケジュールってもうみんなに言ってあるよね?
〇:うん、昨日必要な人には伝えたよ
陽:そか!ありがと!
夏休みに入るとどのクラスも文化祭の準備が本格化する。
しかし、僕らはある程度の準備はもう済ましていたため、あとはリハーサルを何度かするのみだった。
〇:とりあえず毎週2日間は時間取れてるからその時間でリハーサルしてくって感じかな
陽:やっぱ、〇〇くんは頼りになる!
〇:そんなことないよ、僕だって河田さんが実行委員で助かってるよ
そんな話をしていると、、、
菜:楽しそ〜やな〜
陽:菜緒ちゃん!
菜:こんなところでイチャイチャして!
陽:ち、違うって〜!
小坂さんの誤解はまだ解けていない様子。
〇:まぁまぁ、小坂さんはセリフ覚えた?
菜:まぁまぁやあらへんわ!まぁ、ええけど、セリフはほぼ覚えたで
陽:さすが菜緒ちゃん!
菜:あとはリハして本番やろ?
〇:そうだね
陽:菜緒ちゃん頑張ってね!
菜:任しとき!ってか、2人は出ーへんの?
そう言って2人を交互に見る。
〇:ああ、僕らはクラス以外にも実行委員の仕事があるから出れないんだ
陽:ごめんね?菜緒ちゃん
菜:そーやったんや、じゃあお互いがんばろな!
お互いに喝を入れ合った。
初めてのリハーサルの日、、、
「ああ、ロミオ様、ロミオ様! なぜあなたは、ロミオ様でいらっしゃいますの?」
「今日からはもう、ロミオではなくなります!」
陽:すごい!
〇:想像以上だね
初リハーサルとは思えないほどの完成度に驚く。
それから幾度もリハーサルを繰り返し、磨きをかけていった。
ステージに関するセットはまだ未完成だったため、それだけを最後に作成していく。
〇:河田さん、ガムテープある?
陽:持ってくね〜
陽:〇〇くん、ハサミ貸して〜
〇:どーぞ
ほとんどを河田さんと2人で作業し、納得のいくものが出来上がった。
〇:ふぅ〜、完成!
陽:疲れた〜
〇:僕、飲み物買ってこようかな
陽:行ってらっしゃ〜い
1階の自販機に行き飲み物を2本買う。
一緒に帰ったりお話したりする中で河田さんの好みは大体把握していた。
〇:お待たせ
さりげなく一方のペットボトルを差し出す。
陽:えっ!いいの!?
〇:一緒に頑張ってくれたから
陽:やった!ありがと!
そう言って河田さんはペットボトルに口をつける。
陽:美味しい!
〇:よかった
今日はどの部活もオフで誰もいないグラウンドを2人で眺める。
陽:夏休み終わっちゃうね
〇:そうだね
陽:文化祭上手くいくといいね
〇:うん
小坂さんを含め他のクラスメイトはみんな帰って静まり返る教室で2人の話し声だけが響く。
〇:河田さん
陽:〇〇くん
2人の声が重なり同じタイミングで向かい合う。
〇:あっ、、、
陽:えっと、、、
まさか被ると思わず2人して口籠もってしまう。
するとそこに、、、
菜:あった!
小坂さんが入って来た。
その瞬間、2人は何事もなかったかのようにまた窓の外のグラウンドを見下ろした。
菜:よかった〜、スマホ無くしたかと思った、って陽菜と〇〇くん?なにしてん?
陽:と、特になにも、、、
〇:お、同じく
菜:ふーん
ぎこちない返答になってしまったが、小坂さんは納得してくれたみたいだ。
陽:菜緒ちゃんこそどーしたの?
菜:私はスマホ忘れて取りに来ただけやで、ってことで私は帰りま〜す
そう言って小坂さんは帰っていった。
〇:びっくりしたね笑
陽:うん笑
もう一度向かい合って笑い合う。
〇:僕たちも帰ろっか
陽:そうだね
お互い言いたかったことは分からぬまま片付けをして帰路に着く。
陽:なんか今年の夏休み短かったな〜
〇:そー?
陽:実行委員が忙しいからかな?
〇:そーじゃない?僕は去年もやったからあんまり分からないけど
陽:2年連続なんてすごいね!
〇:去年が楽しかったからまたやってもいいかなって
陽:〇〇くんがパートナーで良かった
〇:こちらこそ
今日はいつもの唐揚げではなく、2つに割って食べるタイプのアイスを買って2人で食べた。
僕にとって河田さんと帰るこの時間は、河田さんの夏休みと同じように短く感じていた。
「今日から2学期が始まります。来週には文化祭も控えているので暑さを吹き飛ばすくらいみんなで盛り上げていきましょう!」
今年の夏休みは去年より充実したものだった。
学年が上がったことにより実行委員の仕事が増え、大変だったが楽しかった。
それになにより、河田さんと距離が縮まった気がするからだ。
陽:おはよ、〇〇くん
〇:おはよ、河田さん
陽:文化祭もうすぐだね
〇:うん、準備はほぼ完璧だし、心配ないよ
陽:だね
そこから、特に変わりはなく文化祭の準備日となった。
文化祭は2日間行われ、1日目に準備日および前夜祭、2日目は一般公開および後夜祭という日程だ。
〇:河田さん、実行委員長が呼んでるから行こ
陽:は〜い
実行委員ミーティングのため、教室を移動する。
「一般公開の日、チケチェは1年生に任せるから、2年生は巡回お願いしてもいいかな?」
陽:わかりました〜
〇:1人ずつ分かれてって感じですか?
「基本2人組で動いて欲しい、それで足りないくらいのことがあったら3年が行くからどっちかが呼びに来て」
〇:了解です
委員長から当日の動きが説明され、自分たちの教室に戻る。
陽:結構大変そうだね
〇:まぁ、仕事は多いけど巡回は割と楽だよ、ほぼお散歩してるみたいな感じだし笑
陽:そうなの!?なーんだ笑、そいえば巡回2人組って言ってたね
〇:うん、誰と組もうかな
他クラスの男子に仲良い奴がいたからそいつでいいかと思っていた。
陽:、、、私じゃだめ、、かな?
〇:えっ、、河田さんがいいならいいけど、、、
陽:じゃあ決まりね!
正直、河田さんと2人で巡回ということに内心ワクワクしていた。
なぜなら、もうそれはほぼ河田さんと文化祭デートしているようなものだから。
仕事だから誰にも取られる心配は無いし、口実にもなる。
クラスの出し物の準備や実行委員の仕事をしているうちにあっという間に前夜祭の時間になった。
いつもなら放課の時間なので参加自体は自由だが、ほとんどの生徒がクラスTシャツを着て体育館に集まっていた。
もちろん僕も参加している。
しかも、今回は1人では無い。
美:菜緒たちのクラTかわいいよね〜
菜:そら、菜緒が考えたんやから当たり前や!
陽:さすが菜緒ちゃんだね〜
なんと、河田さんの誘いで学校のWマドンナである小坂さんと金村さんも一緒だ。
陽:〇〇くんも楽しもうね!
〇:う、うん!
もはや学校一、いや、世界一ラッキーなのでは?と思ってしまう。
「明日は文化祭本番です!今日は有志の出し物で盛り上げてもらいましょう!」
生徒会長が前夜祭の開催の宣言をし、ステージが始まった。
「全校集会でスピーチをする前の佐藤先生」
「どーもー!ベーターズでーす!」
ピンであるあるネタをする生徒やコンビを組んでネタを披露する生徒が会場を笑いの渦へ巻き込む。
菜:あはははは!あれ佐藤先生この前やってたわ!笑
美:んふふふ、私も見た笑
小坂さんたちが思い出して笑い合う。
陽:あはは、おもしろ〜い笑
僕の隣では河田さんが笑っている。
続いて、ダンスを披露する生徒やマジックを披露する先生が会場を沸かせた。
陽:あれすごいね!どーやってやってるんだろ?
〇:ね、全然わかんなかった
僕らは夢中で発表を楽しんだ。
「前夜祭は以上で終了となります。時間も遅いので気をつけて帰るようにしてください。」
陽:楽しかったね!
〇:うん!
無事前夜祭が終わり放課となる。
陽:あれ?菜緒ちゃんたちは?
〇:確かに、途中から全然気づかなかった。
人混みの中を探すが見当たらない。
〇:探すの大変だな、、、
陽:まぁ、連絡すればいいでしょ、とりあえず帰ろっか
〇:そだね
この中から見つけるのは困難だと判断し足早に帰路に着く。
時間が遅いため、駅にはいつもと違う雰囲気が漂う。
〇:人少ないね
陽:時間遅いし、田舎だからね笑
電車を降りて少しおしゃべりをするこの時間がたまらなく好きだ。
陽:私、今日お迎え来てもらってるんだ〜
〇:そーなんだ、なら安心だね
陽:うん!もしかして、心配してくれてたの?
〇:まぁ、一応暗いし、危ないかなとは思ってたけど
陽:えへへ、嬉しい
顔を綻ばせる河田さんにこちらが嬉しくなる。
〇:、、、じゃあ、お疲れ様、明日から楽しもうね
陽:うん!楽しみ!じゃあ、バイバイ!
そう言って河田さんは車に乗り込み帰っていった。
〇:ただいま〜
家に帰って、ご飯とお風呂を済ませ、布団に潜り込む。
車が発進する直前、河田さんが手を振ってくれたのを思い出して鼓動が高鳴りなかなか眠りにつけないのだった、、、
つづく。