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それでも君がいい(Ⅳ)


ついに文化祭が始まった。

陽:人いっぱいだね〜!
〇:うん、街の人たちも割と来てるみたいだし

僕らは言われた通り2人で校内を巡回をしていた。

陽:あ!このクラスたこ焼きやってるんだ〜

陽:焼きそば美味しそ!食べたいな〜

河田さんは巡回中だということを忘れているかのように各クラスの出店に興味津々の様子。

〇:あとで食べれば?笑
陽:うん!一緒に食べよ!
〇:う、うん

もはや文化祭デートなのでは?と感じてしまうほどに河田さんはこの時間を楽しんでいた。



「孫が3年2組なんだけど、3年2組はどこかしら?」

〇:3階に上がっていただいて左側になります

「鈴木先生に会いたいんですけど、職員室ってどこですか?」

〇:職員室は本日終日立ち入り禁止になるのでご自身でお探しください、申し訳ございません

お昼時になり、人も増えてきて声をかけられることも多くなってくる。

〇:忙しくなってきたね〜
陽:そ〜だね〜、てか、〇〇くん接客上手だね!
〇:まぁ、たまにおばあちゃんのお店の手伝いとかしてたから、それなりに?笑
陽:そーなんだ!行ってみたい!
〇:いつかおいで笑

廊下を巡回しながらおしゃべりをして歩く。

陽:陽菜、お腹空いた、、、
〇:もう少しで休憩だからがんばろ?
陽:うん、、、



それから30分ほど巡回を続け、舞台公演が始まるにつれて校内の人数も減ってきた。

そのタイミングで休憩を取るために控え室に戻った。

陽:ふぅ〜〜、疲れた〜
〇:お疲れ様

そう言って、僕は河田さんかさっき食べたがっていた焼きそばとたこ焼き、そしていつものジュースを手渡した。

陽:えっ!これ陽菜にくれるの!
〇:もちろん、さっき食べたいって言ってたから
陽:やった!ありがと!〇〇くん大好き!

『大好き』、その言葉に僕は何も返せなかったが、焼きそばを頬張る河田さんを見たら自然と頰が緩んだ。

陽:美味しい〜、〇〇くんも食べる?
〇:ん、いいよ、河田さん食べな笑
陽:そんな、悪いよ〜、ほら!美味しいよ?

そう言いながら河田さんは焼きそばをお箸で掴んでこちらに向けた。

陽:ほら!あーん

あの時はしてくれなかった『あーん』をしてくれようとしている。

それだけで十分嬉しかったが、このチャンスを無碍にすることはしたくなかったので素直に受け取ることにした。

〇:うん!美味しい!
陽:ね!出店のご飯ってなんか美味しく感じるよね〜
〇:それはある

それから2人で雑談しながら休憩を取った。



〇:そろそろ僕らのクラスの公演じゃない?
陽:ほんとだ!行こっ!

すっかり休み過ぎてしまい控え室を後にする。

自分のクラスの公演のときは観覧が許可されていたので体育館へ向かう。

〇:席いっぱいだね
陽:やっぱ人多いもんね〜

公演開始ギリギリに滑り込んだので席は満席。

仕方なく後ろの方に立って観ることに。

陽:全然見えない、、、

背が低い河田さんは他の観覧者に揉まれて見づらそうにしている。

〇:上行く?
陽:行けるの?
〇:実行委員の特権笑

2人は2階の体育館が見える廊下に移動した。

普段は美術部の備品が置いてあるため今日は終日立ち入り禁止だが、この時間は誰もいないので見つからない。

陽:よく見える!しかも静か!
〇:でしょ

河田さんと隣り合わせで体育館を見下ろす。

陽:なんか落ち着くな〜
〇:そー?
陽:〇〇くんといると落ち着く、、、笑

そう言って微笑む河田さん。

『安心すると陽菜って言っちゃうんだよね〜』

前に言っていたそんな言葉を思い出す。

〇:、、、あのさ
陽:ん?
〇:僕、、、

周りに人がいないことを確認し、意を決する。

伝えるなら今だ。そう思った。しかし、、、

「それでは続きまして、2年5組さんによるロミオとジュリエットでーす!」

陽:あ!始まる!
〇:、、、

結局言えずに舞台が始まってしまった。

陽:菜緒ちゃんかわいい!素敵だな〜

楽しそうに舞台を観ている河田さん。

その頰の赤さは舞台を楽しんでいるからなのか、それとも、、、



陽:舞台よかったね!
〇:うん、よかった

若干の心残りを抱えながら巡回に戻る。

すると、、、

美:あ、陽菜!
菜:ん?
陽:かねむらぁ〜!菜緒ちゃん!

小坂さん金村さんコンビに遭遇した。

陽:菜緒ちゃん舞台すごかったよ!
美:ね!菜緒めっちゃかわいかったよね!
菜:当たり前や!めっちゃ頑張ったからな!

3人の話が盛り上がっていく。

陽:〇〇くんも一緒に観てたんだよ!
菜:そーなん?どーやった?
〇:うん、すごくよかった
菜:ありがとーな

そして、お決まりの展開へ、、、

菜:ってか、2人一緒に観てたんや
陽:うん!あっちの廊下で
美:あれ?あそこ立ち入り禁止じゃなかった?
陽:誰もいなかったから入っちゃった笑
菜:あんな人気ないとこに2人きりで〜?なにしてたんやろな〜
陽:っ!、舞台観てただけ!
美:菜〜緒〜!陽菜がかわいそうだって言ってるでしょ!?
菜:菜緒知ら〜ん
美:ちょっと菜緒〜、じゃあ陽菜、またあとで後夜祭で!
陽:う、うん

そう言って去っていく2人。

〇:嵐のような人だ、、、
陽:もう、菜緒ちゃん、、、

さっきより頰の赤みが強い河田さんは余計にかわいかった。



〇:気をつけてお帰りください
陽:お気をつけて〜

空が赤みがかり始め、在校生以外は帰って行く。

〇:疲れたね〜
陽:疲れた〜

一般のお客さんたちが全員帰り、グラウンドで後夜祭が始まる。

昼に出店していたクラスの食品が振る舞われたり、即席でフィーリングカップルが行われたりしていた。

「僕と、付き合ってください!」

「はい!」

カップルが成立するとワッと盛り上がる。

「おめでと〜!」

「俺も彼女欲し〜!」

かなりの盛り上がりでみんな後夜祭を楽しんでいる。

そんな中僕は、、、

陽:菜緒ちゃんたちいないな〜

河田さんの小坂さん達探しに付き合っていた。

〇:探すの厳しそうだね、、、
陽:うん、、、

みんな大盛り上がりで人がごっちゃになっているため、人探しは困難を極めた。

陽:私疲れちゃった、、、
〇:教室行く?
陽:うん

巡回の疲れもあって休むために教室に向かう。

そろそろ沈みそうな夕陽が差し込むいつもと全く違う雰囲気の教室。

窓際の席に腰掛けグラウンドを見下ろす。

〇:はい、これ

そんな雰囲気の中、いつも通りのジュースを渡す。

陽:、、、ありがと

2人以外誰もいない教室。

夏休みのあの日を思い出す。

この前は小坂さんが来てしまったが、今回こそは、、、

〇:あのっ!

その声にピクリと反応する河田さん。

〇:僕、、、
陽:、、、

そして、振り返り黙って〇〇を見つめる。

もう〇〇が何を言うかわかっているかのように。

〇:僕、河田さんのことが好きです
陽:、、、

黙って俯く河田さん。

〇:河田さんの笑顔、性格、話し方、それ以外にも挙げればキリがないくらい、どうしようもなく好きです

思いの丈を全て伝える。

陽:でも、、、菜緒ちゃんとか、金村とか、私よりかわいい子いるんだよ?

俯いたまま河田さんは話す。

〇:そんな謙虚なところも好き

そんな謙遜に即答で返す。

陽:、、、

再び静かになる河田さん。

だから、続ける。

〇:河田さんがなんと言おうと、他の人になんと言われようと、それでも、、、

河田さんに一歩近づき跪く。

河田さんは顔を上げて潤んだ瞳で〇〇を見つめる。

〇:僕は、それでも君がいい

そう告げた瞬間、河田さんの目から涙が溢れる。

そして、にっこり微笑んだ。

陽:私も、〇〇くんのことが好きです

すっかり夕陽は沈み、月明かりだけが照らす彼女の顔は、儚くも綺麗でこの世で1番美しく見えた。

〇:河田さん、、、
陽:〇〇くん、、、

2人は抱き合い、微笑み合う。

グラウンドから聞こえる喧騒も、彼女の髪から漂うシャンプーの香りも全てが心地よかった。



程なくして後夜祭が終わり、下校の時間となった。

美:おめでとう、陽菜!
菜:やっぱりな!そーなると思ってたわ!

僕らはすぐに2人に付き合ったことを報告した。

陽:ありがと!
菜:絶対付き合うと思っとってん!
美:も〜、わかったから!帰るよ!

2人はいつもの感じで反応してくれたのでどこかほっとした。

〇:じゃ、僕らも帰ろっか
陽:うん!



いつもと同じように帰り道を歩く。

お互いちょっと気恥ずかしくなって口数が少なかったが、いつもの駅に着いて、改札を出る。

陽:じゃあ、、、バイバイ

よそよそしく帰ろうとする河田さんだったが、、、

〇:河田さん、よかったら家まで送ってく、、、
陽:えっ、、、

勇気を出して、河田さんの手を取る。

すると、河田さんは〇〇の手を握り返し、微笑む。

陽:〇〇くん、大好き!
〇:僕もだよ、河田さん
陽:あ、陽菜って呼んで!陽菜の彼氏なんだから、、、

頰をぷくっと膨らませて言う河田さん。

〇:わかったよ、陽菜
陽:大好きだよ、〇〇

固く結ばれた手を揺らしながら、2人は歩き出す。

〜end〜

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