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労働市場の流動化加速?私見:工場生産技術職の転職適性と、転職に向く人

現在のCOVID-19禍が「アフターコロナ」の世界においても働き方に決定的な変化をもたらすであろうことは明白な状況であるが、その中で「日本では労働市場の流動化が加速する」と言う予測を多く見かける。

工場生産技術職においてもその傾向が出てくる可能性はあるが、何気に他職種と比べ若干特殊かつマイナーな稼業であるし、元々転職が一般的な職種とは言い難い。性格的にも堅実と言うか、身持ちが堅い人が非常に多い。にも拘らず、工場生産技術職兼中間管理職として日系酒類⇒外資消費財⇒日系生産財と異業種転職を2回も経験してしまった就職氷河期世代の者として、そもそもの職種としての転職適性工場生産技術職で転職に向く人について考えてみたい。転職に悩む工場生産技術職諸兄の参考になれば幸いである。

1.職種としての転職適性

結論から言うと、「職種としての転職適性は高くない」と言い切れる。

一般に、職務上のスキルや経験がポータブルである職種ほど転職しやすい。要はA社で得たスキルや経験を、転職先のB社でも入社当日からそのまま生かしてすぐに実務の第1線に立てるかどうか、ということである。バックオフィス型の職種であるIT・人事・財務・経理・法務・総務は、業界を跨いだとしてもスキルや経験はほぼ完全にポータブルであるし、マーケティングや営業も業界内なら無難に転職出来るだろう。どこであってもやっていることは表面的には似たようなものだし、根本の原理・原則は業界を問わず一般書籍レベルで入手可能だからである。実際、転職が日系より一般的な外資系では、これらの職種の人は日系企業勤務者にとっての異動の感覚で転職してしまう。日系企業でも、今後年功序列・終身雇用が刷り込まれている昭和脳世代の人事権掌握者が徐々に抜けていくにつれて、これらの職種が外資系のような労働市場になっていく可能性は十分にあると思う。

一方、工場生産技術職のスキル、経験のポータビリティはどうか。個人的な転職経験上、上述の職種に比べるとかなり限定される。特に装置産業型の工場だと、そこにある設備の癖やプロセスの個別特性に関する知識、経験が必要である。装置産業の泣き所で、全工場同一時期に同一設備・プロセスを導入してオペレーションを標準化する等と言うことは一般に困難であり、1工場でのスキル、経験は下手をすると同一社内であってもポータビリティはない。従って、工場生産技術者としては複数の工場・プロジェクトを経験しながら幅を広げていくしかないが、初期のキャリア形成には実際時間がかかる(私は就職後装置産業型で国内2工場・海外1工場を合計11年経験して初めて、ある程度一人前になった自覚を持てた)。また、同一業界で全く同じようなモノを製造している企業に転職するのであればまだ持ち込めるものはあるだろうが、それだと余程のコモディティでない限り転職の選択肢は極めて限られるだろうし、製品や製造プロセスは同じでも、会社が違えば当然設備、管理の考え方や仕組みが違い過ぎて1から勉強となってしまう場合が多い。

と言うことで、工場生産技術職が転職するにはそれなりの覚悟が必要なわけである。しかし、以下に該当する人は異業種だろうが何だろうがビビる必要はない。

2.工場生産技術職で転職に向く人

では、工場生産技術職で転職に向く人はどう言う人だろうか。業種や企業カルチャーによるところが大きいと思うが、私個人としての経験上、感覚的には「向く人:向かない人=1:9」だ。

工場生産技術職を稼業にしている人のうち、私が転職に向くと思うのは以下で述べる①~③を満たす人である。潰しの効く業種・生産工程の方が選択の幅が広がるということは当然あるが、余りにも経験領域がニッチな業種・生産工程だったり異業種であっても、以下①~③があれば十分適性あり。有能なあなたがもし今の会社で能力を持てあましているのであれば、是非挑戦してみてほしい。それが日本の製造業の復権に確実に繋がる。日系企業は大手ほど優秀な人を飼い殺しにし過ぎているのだから。

①経験領域を帰納的に整理して、管理技術に昇華できる論理力のある人。職種の特性上、残念ながら転職先に直接的に持ち込める技術上のスキル、経験は余りないが、そこから論理力で帰納的に抽出した管理技術(例えばISO、統計学等の改善ツール、従業員教育ノウハウ等)は異業種であっても十分にポータブルである。また、転職先での知識・経験はなくとも、論理力で攻めていけば知識の理解、経験が深まるのが速い上に周囲の理解・賛同も得られやすいし、即戦力としての業務も意外に通用する。転職先で怖がる必要はないのである。

これらは日常業務を表面的に理解するだけでなく、自分の中で深く噛み砕いて自分のものにし、ある程度高い目線に立ちながら試行錯誤して進める姿勢がないと身に付かない。自分の頭を使わず漫然と仕事をこなしている人、「俺はこの会社のことはたくさん知っている」と言うだけの人は転職するのは危険。他所では通用しないので今の会社で頑張ってください。

②固有技術よりも経営そのもの、或いは技術経営に興味がある人。固有技術は大抵転職先に持っていけない。単なる技術LOVEではなく、技術を経営のためのツールの1つと捉え、どう経営に生かすか(もっとベタな表現をすると、技術をどう稼ぎに使うか)といった俯瞰的な視点が必要である。これを持つ人は、どこに行っても大体技術的な話の大きなバックグラウンドがすぐに飲み込めるので、表面的な理解に留まらない議論も出来るし、その分転職先でも仕事に深みが出る。

「技術者としてどうしてもこの技術を極めたいんです!」と言うテクノロジー・マイオピアな人は、転職すると不幸になる。転職先には同好の士はいないので、今の会社で頑張ってください。

③コミュニケーション能力の高い人。どんな職種の転職でもそうだが、これが80%以上かもしれない。「こいつはこういう奴、これまでこんな仕事をしてきていてこんな評価だから、この程度の仕事は出来るだろう」という、自分に対する周囲の「信頼貯金」というのは誰しもあるだろう。今の会社なら信頼を貯金しまくりでも、転職当初は完全アウェイの転校生状態で信頼残高ゼロ、もしくは圧倒的マイナスになる。過去の貯金に頼って楽に仕事が回る今の会社とは、環境が全く違うのである。だからまずは仕事(相手によってはタバコ部屋トーク、飲み会)を通じてそのギャップを埋めていかなければならない。上司の上司、上司、同僚、部下、現場の人、他部署の人。ステイクホルダーが沢山いる中で、「お、こいつ使える」「こいつおもろいな」「こいついい奴かも」「こいつの言うことなら聞いてやるか」を少しずつ蓄積していかないと、一人でやる仕事ではない「工場生産技術職」は回らない。ましてや、それなりの成果がすぐに期待される中途入社者で「話を聞いてもらえないから仕事が回りません」なんてあり得ないのである。

コミュニケーション能力がない人はそもそも工場生産技術職はやらせてもらっていないと思う。しかし、身に覚えのある人は転職先で仕事が全く回らなくなる恐れがあるので、今の会社で頑張ってください。

3.まとめ

ポータブルなスキルである管理技術と論理力、技術を経営ツールと捉える俯瞰力、コミュニケーション能力。取りあえずこれらがあれば、経験豊かで実力と意志力のある工場生産技術職ならどこでも何とかなる。転職の仕事上のデメリットは今の会社での「信頼貯金」がなくなることのみだと私は考えているが、それも転職先で真摯に仕事に取り組み、成果を出すことで意外に早く取り返せるものだ。

1点蛇足ながら…転職は手段であって目的ではない。「やりたいこと、実現したいことが今の会社では出来ない」のが明らかであれば、環境を変える「手段」として転職すればいいし、そうでなければ当面は今のところで頑張ってみることをお勧めする。私の場合、1回目の転職(日系酒類⇒外資消費財)は「世界中に展開する欧米系消費財メーカーのグローバルマネジメントのノウハウ、内情を生で知りたい(←それまでいた日系企業では無理な環境)」、2回目の転職(外資消費財⇒日系生産財)は、日系大手メーカーの品質問題が頻発する中「自分を育ててくれた日本の製造業に恩返ししたい」「外資で学んだグローバルマネジメントのノウハウを持ち込み、日系企業を真に世界で戦えるレベルにしたい」(←いずれも外資にいたら無理な環境)という強烈な目的意識があったから、これまで何とかうまくやってこられたものと考えている。「転職すること」そのものが目的になってしまうと、どんな優秀な人でも転職先で壁にぶつかったり後悔するはずである。【了】


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