渡辺美里ライブ体験記 –「My Revolution」が蘇らせた青春の記憶
30年以上も前の記憶を辿ると、そこは西武球場のスタンド席であった。
目に飛び込んできたのは、緑に囲まれた広大なグラウンドである。プロ野球パ・リーグ、埼玉西武ライオンズの本拠地として、多くのドラマが生まれてきた場所である。
どうやってそこへたどり着いたのか、今となっては記憶は薄れているが、友人から「渡辺美里のライブに行こう!」と誘われ、チケットを握りしめてこの場所にいたことは、紛れもない事実である。
記憶の断片を拾い集めるように思い出すと、夜空を、白い模型飛行機が悠々と旋回していた光景が蘇る。ゲストで岡村靖幸が出てきたこと。そして突然の土砂降りに見舞われ、せっかく買ったばかりの美里のポスターが、無残にもびしょ濡れになってしまった、という少しほろ苦い記憶も鮮明に残っている。
当時、渡辺美里は毎年、夏の恒例行事として西武球場で大規模なライブを開催しており、私は大の美里ファンだった友人に、半ば強引に(笑)誘われたのであった。
もちろん、私も彼女の歌声には以前から惹かれるものがあった。大江千里、岡村靖幸、小室哲哉といった、当時の音楽シーンを牽引する豪華な作家陣が手がける楽曲群と、彼女の力強く伸びやかな、それでいてどこか切ない歌声は、見事に調和し、聴く者の心を掴んで離さない。まさに、時代の空気を象徴する音楽だったと言えるだろう。
特に、その年にリリースされたアルバム「フラワーベッド」に収録されている「すき」という曲は、今でも特別な思い入れがある。繊細で美しいメロディーと、等身大の心情を綴った歌詞が、多感な時期だった当時の私の心に深く染み渡り、何度も繰り返し聴いたことを覚えている。夕焼け空の下、イヤホンから流れる「すき」を聴きながら、色々なことを考えていたあの頃が、懐かしく思い出される。
その後、数年経ってからであろうか、幸運なことに地元で渡辺美里のライブが開催されることになり、私は迷わずチケットを購入し、会場へと足を運んだ。前から7番目という、ステージを間近に見られる最高の席を確保することができ、興奮を抑えきれずに開演を待っていた。かつて西武球場のスタンド席で、遠くから見ていた憧れの彼女が、今、目の前で歌っている…その光景は、どこか現実離れした光景で、胸がいっぱいになり、目頭が熱くなったのを覚えている。あの時の感動は、今でも鮮明に蘇ってくる。
つい最近のことである。お風呂でリラックスしながら聴いていた防水ラジオから、懐かしい「My Revolution」が流れてきた時、まるでタイムスリップしたかのように、堰を切ったように当時の記憶が鮮明に蘇ってきたのである。西武球場の熱気、音楽の高揚感、そして何よりも、あの頃の自分が確かにそこにいたという確かな感覚が、蘇り、胸が熱くなった。音楽は、時を超えて記憶を呼び覚ます、魔法の力を持っているのだと、改めて感じた。