『アナスターシャ』の歌詞を読む。
僕が秋元康先生の書いた歌詞を読むときに大切にしていることは、この発想、喩えが、どこからやってきたのかということである。
秋元先生は、世界中の芸術作品から影響を受け、歌詞を製作している。もし、その発想の源流となった作品に出会て鑑賞することが出来れば、少しでも彼の脳みそに近づけると思うからだ。
1997年のアメリカ映画『アナスタシア』は、記憶を失ったまま孤児として育てられたロシアの皇女アーニャが、家族への唯一の手がかりであるペンダントに記されていたパリの住所を元に、「アナスタシア」へと返り咲くまでを描いた作品である。
これは本当にアナスターシャだなと思った。ある種のシンデレラストーリーでもあるこの作品とアナスターシャの抱える凛とした切なさの中にある情熱と希望。
ただ、ひとつ断っておくが、秋元康先生が、この作品で、
アーニャが最後の記憶を思い出す瞬間に母のハンドクリームの匂いを嗅ぐシーンを見て、握手会のことを思い出してニヤニヤしていたかどうかは、定かではない。
さて、これで舞台は整ったが、秋元先生が2期生に対してどんな想いを込めていったのかは、ここから考えていかなくてはいけない。
映画『アナスタシア』では、アーニャが、記憶を失うきっかけとなったロシア革命のとき、城からアーニャを逃がしてくれたのは、召使いの男の子だった。そして、その時は一緒についていくことが出来なかったその子が、大人になり、アーニャを見つけ出し、「アナスタシア」へと導いてくれた。
そんなストーリーを重ねながら、歌詞を読んでいきたい。
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岬の先をロシアの貨物がゆっくりと通り過ぎてく
そのコンテナに何を乗せるのか?
夢はどこへ向かうのだろう
その上空を旋回してるたった一羽の渡り鳥よ
何度陽が沈み、何度昇れば遥か彼方の大陸に辿り着く?
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冒頭のABメロをまるまる使って描かれている光景が本当に素晴らしい。外国の文字が書かれた馬鹿でかい貨物船。社会科の教科書に載っていたタンカーの写真に圧倒された経験を思い出す。
正体のわからない大きな存在に、あこがれつつも同時に恐怖を感じている。それでも、いつか行ってみたいと思うのが、人の持つ冒険心というものかもしれない。
あるいは、ソ連製のニキシー管でできた時計…これが海を越えてやってきたというロマン
もしかしたら、乃木坂46に入るということは、そんな「なんとなくの夢」なのかもしれない。
人間というのは、アイドルグループに合格すれば、なんとなくセンターに立ってみたいと思うのかもしれないが、それは実は、入ってからの道のりの方が長かったりして、あと何日経てばなれるのか、みたいな答えなんかわからずに、時には優雅に飛んでいるだけのように見えるカモメに追い越されたりして、それでも大きな大きな船に任せて、ただ、ゆっくりと進み続けるしかないような………
あるいはアナスターシャは、あれがロシア語だって知ってはいても、わからないのかもしれない。
あれに乗り込んだら、故郷に帰れるのかな、なんて思いつつも今はただ、渡り鳥に尋ねるくらいしか、できないのかもしれない。
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ごめんアナスターシャ約束を守れずに...
あの夜の僕には勇気がなかった
ごめんアナスターシャ
君はまだ若すぎて止められなかった
愛すことのその重さ背負えなかった僕さ
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なんか、どこかで聞いたことがある話だなと思うかもしれないけど、もしもあなたの大事な人が「私、ロシアに行きたい」って言いだしたら、みんなどうするんだろう。
つまり、もしも冒頭のABメロの光景は、アナスターシャが港で、記憶にはない「故郷」に行ってみたいなぁと思っているときの気持ちで、
サビに入ったこの部分では、
「ロシアに行きたい」と打ち明けてくれたアナスターシャに「一緒に行こう」と返事することが出来なかった僕の気持ちなんだとしたら?
すごくもどかしいと思う。
西野七瀬が、与田祐希に「卒業する」と打ち明けられなかったのは、なんと言ってもらいたいか、わからなかったからかもしれない。
だって、止めてほしいなんてすごくわがままだから。
アナスターシャは、本当は「行かないで欲しい」って言ってもらいたいかったかもしれないのに、故郷への想いを捨ててまで、一緒に居てくれとお願いする勇気が、それによって生まれる責任を果たす自信が、その時の僕には、なかったのかもしれない。
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僕の教科書に走り書きをされた
知らない街のアドレス
もし逸れたらここで会おうと
君は未来信じていたんだね
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たぶん、アナスターシャは行ってしまったんだと思う。だってもともと、ロシアにいるべき人間。わかっていても、悲しかった。そんな風だから、なるべく思い出さないようにしていたのかもしれない。
そして、数年後に初めて気づくそういえば、アナスターシャはよく落書きをしていたなと。
きっとアナスターシャは、ペンダントに書かれた住所が唯一知っているロシア語で、なぜかその文字が好きでいろんなところに落書きしていたのかもしれない。
一緒に勉強していた、僕の教科書にも。ずっと一緒に居られる未来を、信じていたから。
大人になった僕なら、会いに行けるかもしれない。アナスターシャがまだそこにいるかわからないけど、なぜか、体が動いてしまう。
こんなエネルギーが、湧いてくること自体信じられないけど。
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今 この手にはチケットがある国境越えたリグレットよ
何度 夢を見て何度覚めれば
胸の痛みは跡形さえなくなるの?
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もし、アナスターシャにまた会えるとしたら、なんて言おうそんな想像をした後で、またたくさんの後悔に苛まれるんだと思う。
だから、ここで出てくる「チケット」は、船のチケットではなくて、さっきのアドレスのことだと思う。
きっと、この「僕」には、勇気がないから。まだ、会いに行ける勇気は、出ないと思うから。
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いつかアナスターシャ
悲しみを訪ねよう
目に浮かぶ面影心の迷路を
いつかアナスターシャ
埋められぬ過ちの
傷口辿って
愛されてたその意味に苦しむべきだと思う
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あの時、アナスターシャを愛しぬけなかったこと信じられなかったこと。それをどうしても乗り越えられない僕だから、「いつか」アナスターシャなんだと思う。
いつかアナスターシャに逢えたら、
待っているものが悲しみだったとしても、受け入れられるようになったら、
アナスターシャの愛をちゃんと受け止められるようになったら、
会いに行こうでも今は苦しむべきだと思う………
っていう。
ちょっと悲観的で、なんだかもどかしいくらいかも。
でも、2期生…だけじゃなくて、人間みんなそういう経験があると思う。
大事な人からもらったアドバイスを100%信じるって難しくない??期待しているから任せたとか言われても、それを愛だって信じるって超難しいと思う。
親に勉強しなさい!って言われても、それを愛だとわかるのは20年後…みたいなのは、よくある話。
ファンの人に可愛いよ!好きだよ!って言われたことを信じられたらなーーなんてもやもやした夜が、あの子たちにも、あったのかも。
そして、だからこそ秋元先生は「2期生が誇らしい」んだと思う。
自分が与えてきたものが、愛だと伝わりにくいようなことをしてしまったと、なんとなく自覚してらして、だからこそ、それに負けずに、ここまで残って、立派についてきてくれたことをすごく照れくさい気持ちで、誇りに思ってるんだと思う。
それが、この『アナスターシャ』を2期生曲にした理由かなって。秋元康先生から2期生への愛情。
もし、この歌詞を聴いてもやもやしたり、会いに行けよ!!って気持ちになったのなら、同じ道を進まないように、ちゃんと伝えに行って欲しい。
それが、アナスターシャと故郷を結び付けてくれたハンドクリームの匂いだから。
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