加賀屋にWi-Fiを…
加賀屋について考える上で避けて通れないのが、客層の年齢の問題である。どこかの支店に足を運んだことのある方ならご存知だろうが、加賀屋の客層は、スタバやGong chaのそれと大幅に異なる。一言で言えば、中年以上の男性客が多い。
私は以前、北千住にあるスタバに立ち寄った後、加賀屋に入店したことがあるのだが、これが同じ街にある飲食店かと驚くほどに、店内の雰囲気がまるで異なっていた。
スタバでは私の席の後ろで、落ち着いた照明の店内でも顔面が白光りして見えるほど徹底的なメイクを施したギャルたちが、かなりの声量でお喋りに興じていた。暇だったので人数をカウントしてみると総勢七人。七人が七人、揃ってストロベリーフラペチーノを飲んでいるのが印象的だった。
加賀屋でも当然、同種のギャルたちがホッピー片手に宴を催しているものと思いきや、店内は年季の入ったおっさんばっか。店内をくまなく捜索したがギャルの姿は見当たらない。もしやと思い、厨房も覗いてみたが、加賀屋Tシャツを着た男性店員が忙しそうに働いているばかりだった。
ギャル客のいない飲食店に未来はない。ギャル客へのアピールに注力してこなかった大戸屋が現在深刻な経営不振に陥っているのを見れば一目瞭然の事実である。
加賀屋の繁盛を至上の喜びとする私にとって、この加賀屋におけるギャルの不在は、迅速に対応を検討すべき緊急事態であると言えた。飲み物も注文せずに加賀屋を退店し、全力疾走でスタバに戻った。
幸いなことに七人のギャルは、先ほどと全く変わらぬ様子で店内にいたので、私は即座にマーケティングを開始した。
「みんなどうして加賀屋じゃなくてスタバに入店したの?ストロベリーフラペチーノより、ホッピーのほうが美味しいし安いし低カロリーなのは知ってるよね?それに加賀屋のほうが心の底からリラックスしてお喋りできると思うんだけど」
七人のギャルは互いに顔を見合わせてから、みな一様にハア~と溜め息をついた。そして、一番上座に座っている、随分痩せぎすの金髪ギャルが叫ぶようにこう答えた。
「だって加賀屋Wi-Fiないんだもん!」
私は文字通りポン!と膝を打った。加賀屋におけるギャル不在問題は思ったよりも簡単に解決しそうだ。加賀屋全店にWi-Fiを設置すれば、確実にギャルを集客できる。加賀屋は近く、もつ焼き好きのおっさんのオアシスであるのと同時に、感度の高いギャルの溜まり場になるだろうと確信した。
加賀屋にWi-Fiが導入されれば・・・もつ煮込みの土鍋を直接ウェブに接続し、煮込みの重量や温度の変化を手元のスマホでリアルタイムに確認することも可能に。また、スマホで撮影した煮込みの画像と、Gong chaのドリンクの画像を、クラウド上で動作するハイスペック画像編集ソフトで合成し、まるで煮込みの鍋の中にタピオカが沈んでいるかのようなコラ画像を制作することも容易になる。想像しただけでワクワクしてくるビジョンだ。
もちろん、こうした近未来的な加賀屋の楽しみ方を実現するには、相当な強度をもつネットワーク設備を導入する必要があるだろう。当然設備投資に要す費用も高額になることが予想される。コロナ禍でどの飲食店も売り上げが低迷している中、こうした設備投資が可能かどうか不安を感じるのは私だけではあるまい。