商業エロゲーはなぜ定価8800円なのか
なぜ、美少女ゲームは8800円なのか。
多くの人が今のメーカーの事情から説明しようとしていますが、歴史的経緯からは調べていません。実は黎明期1983~89年のタイトルの値段とフロッピーディスクの枚数を調べると、関連が見えてきます。
参考にしたのは以下のサイト。万の感謝を!
https://www.8-bits.info/gamelist/PC88.php?@Page@=1
リストアップの前に注意書きを1つしておきます。FDというのはフロッピーディスクの略称です。「FD1枚」は、フロッピーディスク1枚の意味です。
では、黎明期のタイトルから、フロッピーディスクの枚数がわかっているものをピックアップします。
当時の光栄やエニックス、そしてパソコンショップ高知。あくどいぜ(笑)。1枚しかないのにこの値段かよ。当時はまだフロッピーディスク1枚の単価が高かったのかもしれないが、高いぜよ。てめえら、頭丸めて反省しろや(笑)。
ってことはどうでもよくて。あくどい(?)方たちを除去して見てみると、謎が見えてきます。
ジャストのソフトを見ていると、こんな価格設定のラインが見えてきます。
1枚……3000円
2枚……6800円
3枚……7800円
4枚……8800円
他のソフトハウスのタイトルも見てみよう。
ここでも、
1枚……3000円
ちなみにチャンピオンソフトはいまのアリスソフトです。では、次。フェアリーテールや今はなきハードも見てみよう。
ここでも、
1枚……3000円
ただし
2枚……4800~5800円
の価格設定になっている。さらにタイトルを見てみよう。
ここでは
4枚……7800円
の価格設定が示されている。さらに見てみる。
むむ?
1枚……4000円
2枚……4000円
後半大盤振る舞い?
むむ?
1枚……3800円
2枚……3800円
時々イレギュラーがあるけど、総覧すると、
フロッピーディスク1枚……3000~4000円
フロッピーディスク2枚……4000~6800円
フロッピーディスク3枚……7800円
フロッピーディスク4枚……8800円
黎明期ではこのような価格設定になっていた模様。美少女ゲームの値段設定は、フロッピーディスクの枚数に従う形で行われたようです。
さらに92年まで調べてみましたが、結果をまとめるとこんな感じです。
1枚……3000円台
2枚……4000円台
3~6枚……5~6000円台
4~5枚……7800円
4~8枚……8800円
やはり美少女ゲームの値段設定は、フロッピーディスクの枚数に従う形で行われています。
当初はフロッピーディスク1枚とか2枚、テキストはあんまりなくてほぼ絵みたいなものでも売れていたのですが、マーケットが広がるにつれて、フロッピーディスク1枚とか2枚では売れなくなって、枚数を増やしてさらにテキストも増やしていったのだろうと思います。
でも、なぜフロッピーディスクの枚数で値段を設定してたのか?
フロッピーディスクって、単価が安くないんですね。1枚増えるとその分、値段に加算されるんです。また、1枚増やすとそれをつくる分の労働コストも加算される。それでフロッピーディスクの枚数に応じて値段がつけられたのだろうと思います。
ぼくが1995年にイリュージョンに入った頃、まだCD-ROMはなくて普通にフロッピーディスクでした。なぜフロッピーディスクの枚数を増やさないのかと会社に聞いたら、会社側の答えは、「コストが上がる&でもその分セールスは増えないから」でした。
ちなみに1995年頃、エルフがフロッピーディスク14枚ってことをやってましたが、他のメーカーは真似しませんでした。フロッピーディスクを大量に使うと、コストが掛かって1本当たりの儲けが減ります。でも、枚数を増やしたからといって、セールスは変わらない。そりゃ、エルフの追随はしません。
エルフが14枚も使えたのは、1タイトルで数万本、否、10万本クラスの売り上げを誇っていたからです。だから、14枚なんて法外なボリュームを盛り込めたんですね。
95年では、普通の美少女ゲームメーカーはフロッピーディスク5~6枚で、それに7800円とか8800円とかの値段をつけていました。
そしてこの値段が、CD-ROMになってもDVD-ROMになっても、そのまま踏襲されたのだろうと思います。ちなみに98年頃でも、普通に7800円や6800円のソフトは出ていたんですが……。
ところで、定価を下げようという動きはなかったのか?
実はゼロ年代に定価を安くして出すということが試みられているんです。でも、7800円とか6800円とかにすると、
ボリュームが少ないに違いない→きっと中身がスカスカで面白くない
と解釈されてお客さんに忌避されることが起きました。6800円にしたら「安いからボリュームがない→きっとクオリティも低い」と思われてしまったということですね。つまり、安かろう悪かろうに捉えられてしまったと。そのため、7800円や6800円に下げても意味がないということになってしまったのです。
しかも、その「安くしてもしゃあない」に重なる形で、ボリューム増大によるコストアップが襲いかかります。
美少女ゲームは、80年前半では、フロッピーディスク1枚や2枚で商売できていました。テキスト容量は微々たるものでした。1995年の段階でも、テキスト容量は200kbとかでOKだったのです。むしろ、200KBは多いからもっと少なくしろと言われる時代でした。96年、ぼくは70KBのテキストのゲームをつくっています。
今は2MB――200KBでも多いと言われた時代の10倍に跳ね上がっています。音声収録もするので、アフレコ代も掛かります。
フロッピーディスクがベースの頃は、音声は入っていないものでした。それがCD-ROM時代に突入して、音声が入ってたり入ってなかったりするものになり、さらにDVD-ROMになって「音声は当然入っているもの」になりました。ゼロ年代のことでした。結果、さらにコストがアップすることになって、ますます下げづらい状況になったのです。
にもかかわらず、マーケットは縮小。今や全盛期の1/3以下の規模です。単価を下げると資金回収が困難になってしまいます。
仮に1000本のセールスのタイトルがあるとして、値段を1/2にすれば、2000本売れるのでしょうか? 1/3にすれば、3000本? 1/6にすれば6000本?
NOです。
卵のパックとかほうれん草などの食料品と違って、エンタメは値段が第一の世界じゃないんですね。まず面白さが一番にある。値段は副次的なレベルなんです。つまらないソフトを1/10の値段にしたって10倍のセールスが得られるなんてことにはならんわけです。まあまあ普通のソフトを1/2の値段にしたって、それで2倍のセールスになるわけじゃない。第一に面白さなんです。商業エロゲーの場合は、それがエロ的な面白さ(エロさ)だったりストーリー的な面白さだったりするわけだけど。
そういうのもあって、定価の値下げができない状態になっているのだろうと思います。結果、税抜き8800円が標準価格として維持されているのだろうと思います。
もちろん、この値段に対して高いと不満を抱く人はいます。不満は、作り手としてのぼくも把握しています。「企業努力をしていない」って指摘するアマチュアの人もいるけど、たとえばエロラノベって、2003年は税抜き600円前後だったんですね。去年(事実上)消滅した美少女文庫がその値段です。でも、2022年で税抜き800円台。200円以上上がってます。写真集も、90年代って1800円とか2000円付近だったんですね。でも、2400円になり、気がついたら3000円台。普通に税抜きで3500円ぐらいで売ってます。値上がりしてるんですね。
で、商業エロゲーは?
税抜き9800円のタイトルも出るようになってるけど、税抜き価格は8800円のままなんですね。つまり、80年代と税抜き価格は変わっていない。写真集とかエロラノベとかが値上げしている中で、税抜き価格は同じままって、企業努力をしてるんじゃないの? ってぼくは思っちゃうわけです。まわりのエンタメ商品の値上げ状況を考えると、企業努力しているんじゃないかなと感じます。
ただね。不況とか自由になる金額の減少とか色々あって、税抜き8800円って値段がお客さんの懐事情とのミスマッチを起こすようになってしまっている。それで「高すぎる」とか「企業努力が足りない」とか言われるんだろうけど、「高すぎる」は、言われちゃうのは仕方ないとして、「企業努力が足りない」ってのはね。何も知らずに言い過ぎだよって思います。その人が言う企業努力をしたら、商業エロゲー、まじで消えるよ。値段を下げれば売れるって無邪気に考えている時点で何も知らなすぎだと思うし、Steamを持ち出されてもね、エロと非エロって違うし、日本は世界でも非常にゆるやかなエロ基準を持ってるけど、海外(steam)のエロ基準って厳しいからね。それに日本の作品を合わせるとなると、もうね……。あんまり手を加えずにシームレスに楽にSteamで売れると思ってる時点で、何も知らずに言い過ぎだよって感じます。エロの審査基準、日本と違うんだから。
脱線しました。元に戻ります。
今後も、商業エロゲーの価格は、通常版は8800円、初回限定版は9800円。そういう棲み分けでずっとつづいていくのだろうと思います。
まとめるとこうです。
商業エロゲーの価格設定(値段の区分)は、80年代のフロッピーディスクの枚数で価格設定に差をつけるものがスタートで、それがそのまま踏襲されている。ゼロ年代に、より安い値段設定も試みられたが、安かろう悪かろうに受け取られてメリットがなかったこと、さらにDVD-ROMに移行してテキストボリュームも増大し、すべてのゲームに声が入るようになってコストが上がったことで税抜き8800円が標準の値段設定として維持された。
以上です。
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