Poor man’s covered put (PMCP) で安全に空売りをする
カガミルです。
2022年に入ってから下落相場が続いています。こういう相場では株やインデックスの空売りをしたいと考える人もいるでしょう。
空売りをする一般的な方法として、信用口座での外国株の空売り、CFD、インバース型ETFなどがあります。
今回の記事では、オプションを使った空売り法であるPoor man’s covered put (PMCP) を紹介します。PMCPには他の方法にない多くのメリットがあると思います。
PMCPを行うには外国株式オプション口座が必要です。私はサクソバンク証券の口座を使っています。
海外証券会社の中には、オプション取引を行う上でサクソバンク証券よりも優れた会社もありますが、海外送金が必要です。サクソバンク証券は海外送金なしで簡単に入出金ができるというメリットが大きいので使っています。
なお、この記事はオプション取引についての基本的な知識を持つ方を対象としています。
オプション取引はやり方を間違えると大きな損失につながるので、仕組みを十分に理解してから行ってください。初心者の方にもお勧めできる書籍をこちらに挙げておきます。
PMCPとは
概要
PMCPとは、以下の2つのポジションを建てる戦略です。
残存日数がより長いプットオプションの買い(ロングプット)
残存日数がより短いプットオプションの売り(ショートプット)
相場が横ばい〜下落すると考える場合に建てます。
具体例を見てみましょう。
私は2022年9月26日にQQQのPMCPを建てました。時刻は22時45分ごろ(日本時間)で、その時のQQQ価格は277ドル前後でした。
このサイトで、オプション取引のシミュレーションができます。結果はP/L (profit & loss)チャートで表示されます。
上のPMCPの場合、QQQの価格変化によりP/Lチャートは以下のようになります。
2022年10月28日(ショートプットの満期日)までのいくつかの日時でのグラフが示されています。
(上のグラフはボラティリティが変化しない設定のものです)
パフォーマンス
P/Lチャートは、ショートプットの満期日までの想定パフォーマンスを視覚的に示してくれます。
(ただしショートプットとロングプットの満期日が異なるため、正確なP/Lグラフを描くのは困難です。)
なおオプションは100枚単位なので、それぞれの金額を100倍にします。
また簡単のため、ここでは売買手数料や為替手数料を無視しています (注)。
初期投資額
先にロングプットのポジションを建てます。この場合必要な金額は
(ロングプットのプレミアム) × 100 ドル
です。
次にショートプットのポジションを建てますが、すでにロングプットを保有している場合、サクソバンク証券では追加の証拠金が必要ありません(おそらく海外証券会社も同様だと思います)。
ショートプットのポジションを建てれば、そのプレミアムが手元に入ると考えてください。
したがって初期投資額は、
となります。
上の例では、(45.45 - 5.74) × 100 = 3971 ドルです。
最大損失
PMCPの損失が最大になるのは、ショートプットの満期日の株価が無限大になった場合です。この場合、ショートプットもロングプットも価値が0になります。
現実には株価が無限大になることはありえないのでロングプットはわずかに価値が残っていますが、ここでは0とみなすことにします。
最大損失額は初期投資額、すなわち
となります。
上の例では3971ドルです。
どれだけ株価が上昇しても、最大損失額がこの金額に限定されているのがポイントです。
最大利益
株価が満期日にショートプットの権利行使価格以下になった場合は概ね一定の利益を取れることがわかるので、それを最大利益とします。
最大利益は
です。
上の例では、(320 - 262 - 45.45 + 5.74) × 100 = 1829 ドルとなります。
利回りは、1829/3971 ≒ 0.46より、約46%にもなります。
権利行使価格とDTEの選び方
現時点で私は以下のように設定しています。
満期日を金曜日にするのはなるべく流動性が高いものを取引するためです。毎月の第3金曜日はmonthly optionの満期日で取引が活発になります(特に3月、6月、9月、12月)。
この設定の場合、ポジションを合わせたデルタは-0.50です。
つまり原資産が1ドル下落した場合、0.5ドル(100枚単位では50ドル)程度の利益が出ることが期待できます。
色々な英語のWebサイトや動画、書籍から集めた情報を総合して決めました。
ただし今後PMCPを実践する中で、より適切と思われる設定に変える可能性もあります。
フォローアップ
原資産(上の例ではQQQ)の値動き次第で対応法が変わります。
1、大きく下落した場合
これはPMCPにとって想定通りの経過です。
上で示したグラフを再度示します。
満期日である10月29日が近づくにつれてだんだん利益が増えていきます。ロングプットとショートプットの両方を決済することで利確します。
どのタイミングで利確するかは原資産の状況次第です。下落が続くと判断するなら持ち続けます。
ただP/Lチャートを見るとわかる通り、株価が大きく下落すれば(たとえば上の例のQQQが225ドルまで下落)、時間経過で利益はほとんど増えません。
これは原資産が下落するにつれて、ロングプットとショートプットのデルタの差が小さくなるためです。デルタの差が0に近くなった場合、それ以上原資産が下落しても利益が出ないので決済すべきでしょう。
下落トレンドがさらに続くと考える場合は、もっと前に決済して新しいPMCPを組むのも手です。そうすることで再びデルタを-0.50程度に戻し、利益の取りこぼしを防ぎます。
また、株価が下落するとショートプットがITMとなり、割り当てリスクが生じることは押さえておく必要があります。満期日までの日数が短くなるにつれそのリスクは高くなるので、どこかで決済すべきです。
なお、下落トレンドが終わったと判断するなら損益によらずPMCPを決済した方がいいかもしれません。
2、軽度の下落〜横ばいの場合
オプションプレミアムは時間経過とともに下落します (いわゆるtime decay)。
仮に原資産価格が全く動かなかったとしても、ショートプットのプレミアムは毎日下落していくので、その部分の含み益がだんだん増えていきます。
ロングプットのプレミアムも徐々に下落するためこちらは含み損になります。しかしロングプットの方が残存日数が長くプレミアムの下落スピードが遅いです。
よってPMCPでは差し引きで利益が出ることになります。相場が横ばいであることは、PMCPにとってはありがたいことなのです。
そして、ショートプットがOTMにある限りは安全なので、満期日まで持ち続けても良いと思います。
ショートプットが無事期限切れになった場合、ロングプットの満期日までまだ日数があるなら、新しいプットを売ることで再びPMCPを行うこともできます。
3、上昇した場合
プットオプションのプレミアムは原資産価格の上昇により下落します。
PMCPでは原資産が上昇すると損失が生じます。なぜならロングプットのプレミアムの下落幅の方が、ショートプットのプレミアムの下落幅より大きいからです。これは先述した通り、2つのポジションのデルタが異なるためです。
対処法は2つあります。
① 損切り
思惑が外れてさらに上昇が続くと考えるなら、ロングプットとショートプットの両方を決済します。再エントリーのタイミングは改めて考えます。
② ショートプットのrolling
上昇したものの再び下落すると考えるなら、ショートプットをrollingします。
Rollingとは、建てているショートプットを買い戻し、それと同じ満期日の新しいプットを売り建てることです。
Rollingを行うタイミングの候補として以下が考えられます、
現在私は、ショートプットのデルタの絶対値が0.10未満になったらrollingをすることを考えています。
Rollingの際は原資産価格が上昇しているので、ショートプットの価格は売り建てた時よりも安いはずであり、買い戻すことで利益が得られます。
そして権利行使価格が高いプットを新規に売り建てます。私なら-0.30前後のプットにするつもりです。
これにより、ロングプットの価格下落によって生じる損失が軽減されます。
さらに原資産価格が上昇した場合は、再びrollingを行って追加で利益を得ます。
上昇が続いてロングプットがat the money (ATM) の水準になったら、2つのポジションを解消します(ロスカット)。
ATMではプレミアムの時間価値が最大となるため、ここで売ればロングプットの売買で生じる損失を減らすことができます。
他の空売り法との比較
PMCPの1つ目のメリットは、最大損失が限定されているという点です。
CFDの売りや米国株の信用売りでは、株価が上昇した場合の理論上の損失が無限大となります。
リスク管理をしていれば問題ないという人もいるでしょう。それでもシステムトラブルで取引が停止して想定したラインでロスカットされないなど、予期せず巨額の損失が生じる危険も考えると、私には抵抗がありました。
PMCPをはじめとするオプション取引の場合は、適切に組み合わせることで最大損失を限定でき、安心して眠れます。
2つ目のメリットは、相場が大きく動かなくても利益が得られるという点です。
インバース型ETFは、相場が横ばいだと日次変動により減価していきます。対照的に、オプション取引ではtime decayを味方につけ利益が得られます。
3つ目のメリットは、扱える商品の幅が広い点です。
サクソバンク証券の場合、日本国内で購入できるETFに加え、AAPL, TSLAなどの人気の個別株のオプションも提供してくれます。
一定の流動性があるものでないと戦略が機能しませんが、それでもCFDやインバース型ETFが扱っているものよりはるかに多くの対象を空売りすることができます。
終わりに
今回はPMCPについて簡潔に解説しました。
オプションはとっつきにくいですが、使いこなせば投資の選択肢を大きく広げてくれます。
サクソバンク証券など限られた証券会社の口座が必要であり、利益が出た場合は確定申告をしなければならないなどのハードルはあります。
それでもメリットの方が大きいと思うので、外国株式オプションに注目してみてはいかがでしょうか。
私はまだPMCPを実践し始めたばかりですが、適宜やり方を改善して報告していきたいです。
オプション投資の勉強にお勧めの書籍
外国株式オプション取引に関する日本語の書籍やWebサイトは極めて少ないのが現状です。
KAPPA先生の以下の2冊は、オプション取引の基礎から代表的な戦略まで幅広く書かれているので、ぜひお勧めします。
なおこれらの書籍にはPMCPについて書かれていないので、知りたい方は今後も弊noteを見ていただければ幸いです。
参考サイト
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