放送大学の教科書「量子物理学」のおかしい所
1.p33 下段
(2.15)式 ΔxΔp_x>h'/2 の説明:
「これ以上正確に同時測定できない」
は誤り。
同時測定なら ΔxΔp_x>h' である(新版量子論の基礎p86)
(2.15)式は、同一状態のアンサンブルに対し、
xでの測定、pでの測定を別々に行った場合である。
2.p56 上段
「定常波の波長は λ= 4a / n となる」
「運動量p=h/ λ を、、、に適用すると、、、」
結果は正しいが、p=h/ λ=nh / 4a ではない。
この場合のψ(p) は連続関数
(ランダウ・リフシッツ「量子力学」p118問題1の解)
であり、飛び飛びの値は、とらない。
3.p76 上段
「クォークの実在が広く受け入れられるようになった」
この「実在」は「仮説ではなく実際の存在」という意味でしょう。
放送大学で、この講義を受ける人は「量子力学」に興味のある方が
多いと思います。そのような方は「素粒子や原子の非実在性」に興味
があると思うので、ここの「実在」という言葉は、
誤解をまねくのでは?
4.p117 下段
「一方の粒子のスピンを測定した瞬間に、他方のスピンは、確定する」
誤解を招く記述です。
測定のあと両者の結果を持ち寄った時、他方のスピンが確定した時刻は
「一方が測定した瞬間」まで遡れるというだけで、
他方の状態が収縮するのは「自身が測定した時」か
「測定結果の情報が伝わった時」です。
それまでは収縮しません
(シュレーディンガ方程式に従って時間発展する)
5.p264 中段
「系のエネルギーより大きなエネルギーの中間状態が許される」
短時間ならエネルギー保存則が破れてもよいとか
摂動項はエネルギー保存則が破れるから
という意味なら、間違いです。
前者については、ΔxΔpとは、意味が異なります。
https://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/04/26/061840
後者については、全体系ではエネルギー保存則は成り立っています。
https://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/03/11/155744
6.p321 中段
「マクロなレベルではシュレーディンガの猫状態は存在しない」
と言い切るのは、おかしいと思います。
ここで引用している1986年の「Yurka - Stoler論文」は、
「コヒーレンス状態でなければ、猫状態は存在しない」と言ってる
だけで、マクロでは、はなから(t=0)から「コヒーレンス状態でない」
とは、言ってないようです。
すでに、ミクロとマクロの中間的な場合では、 <br/>
「猫状態」は存在することが、NTTの実験で確かめられています:
https://www.brl.ntt.co.jp/J/2016/11/latest_topics_201611042223.html
(この場合の電流は、検流計で測れる=マクロな量です)
少なくとも、マクロであるウイルスでは「猫状態」は、
あり得るでしょう。
その他気になるところ
(1) 波動関数のちゃんとした定義が書かれていない。
q表示の波動関数は、状態ベクトルの「物理量qの固有空間」
への射影、つまり
|q><q|ψ> = f(q)|q> の f(q)がψ(q) であり、
それがシュレーディンガ方程式に従って時間発展する。
ということです。
これが書いてないので、学生が
波動関数を単に「シュレーディンガ方程式の解」だと
思ったり、「場」だと思ったりしないか心配です。
(2) EPR論文やベルの定理の破れ に言及はしてますが、
「実在性」の説明がないので、
素粒子や原子、分子の局所実在=「素朴な実在性」は
否定されたということが、学生に伝わらないと思います。
(3) 波動関数(状態)の収縮については、書いてありますが、
「射影仮説」のことは、書かれていない。
射影仮説は、量子力学の公理の1つです。
(清水明「新版量子論の基礎」要請5 参照)
波動関数(状態)の収縮に触れているのに、射影仮説を
書かないのは不十分と思います。