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多世界解釈の敵「射影仮説」が証明されて

測定と射影仮説

射影仮説は、測定(射影測定)の結果が、ただ1つの量子状態
(測定する物理量の固有状態)になることを表します。
どれになるかは、複数ある固有状態のがどれもが正当
なので、一般には測定毎にバラつきます。
射影仮説には2つの役割があります:
https://as2.c.u-tokyo.ac.jp/archive/handai2009.pdf のp7
 (A) 異なる測定値に対応する量子状態の間の干渉をなくす
 (B) 干渉のなくなった複数の量子状態の中からどれかひとつを選び出す
(A)により、密度行列の非対角項(干渉項)が0になり、
完全な混合状態(つまり状態ベクトルでは書けない)になります。
でもこれは、古典的混合状態とは異なり、既に1つに決まっている
わけでは、ありません。1つに決めるのが(B)です。

尚、測定による系の発展とシュレディンガ方程式による時間発展
をまとめて量子力学では、TPCP写像 といいます。
  堀田昌寛「量子情報と時空の物理」p29
TPCP写像は、射影仮説が前提です(と思います)

多世界解釈とは

コペンハーゲン解釈の
「射影仮説」による波動関数(固有状態)の収縮を問題視(敵視?)
し、「非ユニタリ発展の固有状態の消失」を無くす
=多世界解釈でいう「全世界」はユニタリ発展であるべし 
という解釈です。
さかなさんの説明が的確なので、引用すると、
>測定過程も、測定器自体を含む全系のシュレディンガー方程式
>を考えることで、何の問題もなくすべての過程を
>シュレディンガー方程式で書けることです。
分岐世界の存在と、その確率=ボルン則の確率 が、
シュレディンガ方程式から出てきて、「全世界」がユニタリ発展である
こと(分岐世界の発生や消失がない)がミソと思います。

上記の清水先生による射影仮説の役割の(A)、(B)は、
 Everetの原論文には(A)がなかったのでWignerの厳しい批判に遭った
 → 今は(A)を仮定するのが普通
 自分自身はどれかひとつの「分岐世界」のみを知覚する
 → (B)と同じ
だから、コペンハーゲン解釈を言い換えているだけです。
とのことです。
批判もあります(参考までに)
堀田先生の批判 https://note.com/quantumuniverse/n/n4e6874a853e8 

1.素朴な多世界解釈

  これは、射影仮説を測定の対象系に適用するコペンハーゲン解釈
  に対応するものです。
  例えばスピンの↑・↓の測定なら、
  測定器から見た対象系の状態=|↑測定対象> + |↓測定対象>
  コペンハーゲン解釈では、この状態が収縮しますが、
  多世界解釈では、固有状態毎に分岐世界があるとし(1対1対応)
  分岐世界から見た対象系の状態は
  1つの純粋状態でユニタリ発展となります。
  「全世界」も、ユニタリ発展(分岐世界の発生・消失はない)です。
  尚、観測者の視点からの状態は、
  = |↑測定対象>|↑測定器> + |↓測定対象>|↓測定器>
  であり、観測者の視点は、分岐世界をあちこち飛び回りますが、
  この過程(非ユニタリ発展)は、解釈に含まれず言及されません。

  この場合の多世界解釈は、私には変に感じる所はないです。
  逆に、測定による発展とシュレーディンガ方程式による時間発展を
  分けないで良いのは、利点だと思います。
  しかしながら、「射影仮説を対象系だけに適用する」のは、誤りです。
   https://as2.c.u-tokyo.ac.jp/~shmz/zakkifiles/07-06-05.html
  (R. Glauberの1963年の論文)

2.今の多世界解釈

  これは、射影仮説を正しく「測定器との合成系」に適用する
  コペンハーゲン解釈に対応するものと思っています。
  合成系の状態は、(例えばスピンの↑・↓の測定なら)
  = |↑測定対象>|↑測定器> + |↓測定対象>|↓測定器>
  という量子もつれ状態であり、
  コペンハーゲン解釈では、この「合成系の状態」が収縮します。
  問題は、この合成系の状態が、測定器と相互作用を開始する
  初期状態=|測定対象> |測定器>
  =( |↑測定対象>+|↓測定対象> )( |↑測定器>+|↓測定器> )
  からは、ユニタリ発展では出てこない(途中ノルムが矛盾する)
  ことです。
  ということは、ユニタリ発展を旨とする多世界解釈では、
  「分岐世界へ分解」がされる時間発展が存在しないです。
  (素朴な多世界解釈では、ここは「観測者の視点」が飛び移ること
   に相当し言及の外でした)
  もっとも、分岐世界への分解を「状態が収縮するもの」とすれば、
  分岐世界は「合成系の固有状態」毎にできますが、
  測定により世界が分岐する点では不連続になる(時間発展が存在しない)
  ことは、微妙と思います。

3.多世界解釈の敵「射影仮説」が証明されて

射影仮説の小澤先生による証明は、堀田量子p102前後に説明があります。また、EMANさんのnote.comの「EMANが堀田量子第7章を書いてみた」
にも概略が載っています。
証明は、ボルンの確率規則(多世界解釈では分岐世界の存在確率に対応)
と確率の公理だけが使われており、コペンハーゲン解釈には依存しません。

この証明により、測定の結果には必ず(多世界解釈であっても)
射影仮説が働き、「測定された固有状態」の確率が1 (100%)
それ以外の固有状態の確率は0、つまり、消失が言えます。
したがって、測定操作により消失した固有状態に対応する分岐世界
は、意味を持たなくなります(「観測者の視点」が飛び移らない)
ということは、コペンハーゲン解釈との違いの意味はなくなる
と思います。

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