浮遊 21.08.04
生温い空気。
夏の夜に、私の体温が溶ける。
輪郭を失った身体。
嬉しくて、嬉しくて、少し怖くなる。
欲しくて、欲しくて、少し悲しくなる。
今なら夏の空気になれるのに。
誰も私に気づかない雑踏のなかで。
私だけに聞こえる音。
聞こえないように栓をしたイヤホン。
世界は音に溢れてる。
鼓動の音が騒がしくて煩わしい。
私は私でしかない。
この矜恃と呪縛から逃れたい夏。
記憶で塗り潰されたココから逃れたい夏。
対価とか相場とかよく分からないから、困るね。
悩むだけで答えを出せない中途半端な脳味噌。
白くて真っ直ぐなものは危険なんだって。
だから気をつけなきゃいけなかったのに。
ホワイトアウトする視界。
ここが天国だなんて嘘だ。
はやく、全部、燃やさなきゃ。
夏の夜に燻る残骸が美しかった。
まだみていたかったけど、言い出せなかった。
聞こえないように栓をしたイヤホン。
私は、私の言葉を奪う。
加害と被害のリバーシブル。
なんてお洒落なんだろう。
捕まりたかった。
掴まりたかった。
夏の空気になるまえに。
それが叶わないなら。
せめて。
綺麗な貝殻になりたかった。
潮騒の音が聞こえないように。
私は、イヤホンで栓をした。