祈り 2024.6.21
あなたのことが大好きです。
会ったこともない、あなたのことが確信を持って好きです。
私の知るあなたはすごく断片的で、知っていることと言えば、
アジカンが好きなこと、園芸が好きなこと、
競馬が好きなこと、おしゃべりが好きなこと、くらい。
あなたが私に会いたいと思ってくれているかどうかは分からないけど、
私のことを素敵だとほめてくれていたことは知ってる。
きっと、会いたいと思ってくれてるよね?
昨日ちょうど、話していたの。
あなたと電話してみたいなーって。
目の前に座っている彼も、良いねって、どうせならビデオ通話しようって、そう言ってくれた。
明日、あなたとお話しするのを楽しみにしていた。
彼が「最高の女だよ」って語るあなたがどんな人なのか、ほんの一瞬で良い、目にしてみたかったの。
彼が私のことをどこまで話したのかはわからないけど、
私が彼と付き合いたいなって思った明確な会話があって。
……って、気恥ずかしいかもしれないけど聞いて欲しい。
私の好きなTOMOOっていうアーティストがいる。
なんて、イカした歌詞を書いちゃうシンガーソングライターだ。
彼女の話をしたとき、
彼が「酔ひもせす」って曲が好きって返してきたから、
「あのくらいの疾走感で生きて死んでいきたいな」って、何となく口にした。
疾走感を持って、生きて死んでいきたい。
それは生き急ぐとか、希死念慮みたいなことではなくて、
ちゃんと大地を蹴りながら、躊躇いとか停滞とか、
そういうものから逃れるように生き抜いて死にたいっていう、
そんなくらいの意味合いだった。
「死をちゃんと身近なものとして認識してる人間は、できる」、と彼は言った。
今思えば、彼はもっと明確に、死を身近なものとして意識していた、というより、意識せざるを得なかったんじゃないかな。
でも、その時は、その言葉で、
彼は私のなかにある深くて柔らかい部分を
ぞんざいに扱ったりしないひとだろうなって感じたし、
同時に、彼のことも凄く理解できそうな気がした。
次に恋をするなら、彼みたいなひとがいいと思った。
いつかあなたと会うはずだった。
その時は、彼を素敵な男の子に育ててくれてありがとうって、
ちゃんとあなたの目をまっすぐみて、言うつもりだった。
彼と結婚する未来があるとしたら、
彼の横に立つ花嫁姿の私も見て欲しかったな、って思うし、
たまには、姑がウザイとかSNSで愚痴ってもみたかった(笑)
彼から「今ちょっと電話できる?」ってLINEがきた時、正直胸がざわっとした。
どうかこのイヤな予感が当たりませんように、と祈った。
お手洗いでも何でも、
適当な理由をつけて仕事を抜け出すことはたぶん出来たけど、
そうしなかったのは、きっとそんな「大事」なことじゃないと、信じたかったから。
仕事が終わって、やっと彼と連絡がついたとき、
彼は泣いていなかった。
「大丈夫だから」と言って、ほんとうに大丈夫そうな声色をしていた。
私のほうが悲しくなってしまって、後からそのことが申し訳なくなった。
ほんとうは、あなたに会って直接伝えたかったあれやこれやを、
手紙に書いて、速達で送って、彼にあなたの棺のなかに入れてもらおうかとも思った。
けど、これは完全なる私のエゴで、
悲しみのなかでこうして文字を連ねることができるのは、
きっとあなたと私の距離が、やっぱり悲しいことに「他人」だからで、
ほんとうにあなたの近くにいたひとたちは、
まだ悲しむこともできないところにいるだろうなって、
そう思ったから。
手紙を書かない代わりに、彼が東京に帰ってきたときは、
彼がたくさん悲しめるように、ずっと抱きしめていようと思います。
そして、私が、私の人生を走り抜けた先で、あなたに会えるのを楽しみにしています。
それじゃあ、またね。