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【競馬】凱旋門賞を勝つ方法

 凱旋門賞にスピードシンボリが遠征して50年以上が経過した。今日まで様々な日本の名馬が夢を抱いてパリへ飛んだが依然未勝利である。馬場が違うとか、色々な『言い訳』は多数存在するが、私個人の意見として、純粋に欧州競馬のレベルが日本競馬よりも高いということを告げておきたい。その前提がなければ、凱旋門賞の姿は見えてこない。
 ナカヤマフェスタがあっと驚く2着になったが、考えてみればあれだけ奇跡のようなレースをしたにも関わらず2着。ワークフォースがナカヤマフェスタを差した。オルフェーヴルも同じで、勝ったと思ったところをソレミアに差された。
 そこそこの馬を送り込み続ければいつか誰かが勝つ。そういう甘い考えは捨てた方がいいと歴史が物語っている。
 また凱旋門賞挑戦の歴史を眺めながら、日本競馬は自ら勝利の可能性を遠ざけているのではないか? とも感じた。今まで挑戦してきた数多くの馬には失礼な言い方になるが、勝てる可能性のある馬を送り込んだ回数というのは挑戦の数に比べて余りにも少ない。
 例えば凱旋門賞にダート馬を連れて行ったらどうか? という疑問に対して「もう既にクリンチャーが大敗してるじゃないか」と言う人がいる。しかし近年の凱旋門賞優勝馬の戦績とクリンチャーの戦績を比較して、クリンチャーが一体何を試しえたのか? 何を示しえたのか? と思わずには居られない。
 せめて日本のダートG1を複数勝って勢いに乗っているダート馬を連れて行かなければ、何も確かめようがないのでは無いだろうか。
 昨年の4頭出しの大敗が競馬ファンを挫けさせた。凱旋門賞へ行く意味が無いという声が聞こえる。ならば賞金面から見て日本競馬は海外へ行くメリットというものが基本的には無い。海外へ日本馬が向かうのは基本的には浪漫を求めてだろう。
 日本競馬が世界の中でも特出しているのはそのドラマ性であり、ドラマ性とは浪漫によって生み出されるものである。仮に日本が欧州遠征を止めた場合、それはいわば日本競馬のアイデンティティの放棄に他ならない。オグリキャップの連闘や復活がロマン無くして実現しえたか。3歳や4歳で引退させるような海外競馬で日本競馬を支えてきた名馬の存在が成立するだろうか。
 仮に凱旋門賞挑戦という世界がなければディープはG1をもっと勝っていただろうしオルフェーヴルも同じだ。しかし競走馬としてのスケールはずっと小さかっただろう。
 凱旋門賞挑戦とは日本競馬が成長し続ける為に必要な痛みであり試練だと私は考える。昨年の4頭の挑戦は偉大だが内容を見てみると余りにも無謀だった。タイトルホルダーは宿命的な逃げをうつしかなく、ドウデュースは馬体重が欧州競馬に相応しくない。ディープボンドもステイフーリッシュも冷静に戦績を眺めれば実力が余りにも足りていない。勝つ可能性は実際あまりにも低かった。
 比較的『マグレ』が起きやすい日本競馬と違って、欧州競馬……特に凱旋門賞は過去の優勝馬を見ても順当な馬ばかり優勝している。競馬に絶対はないという格言通り挑めば奇跡が訪れる確率は僅かでも存在するが、間違いなく『僅か』である。その僅かを掴みかけてもナカヤマフェスタのように最後差される未来が待っている。ロンシャン競馬場のコースそのものが徹底的にマグレを排除しようとする仕組みになっている。
 例えば100m走の場合、一般人がプロに僅かな可能性ながら勝利する確率というものは存在しうる。しかし5000m走ならばどうだろう。フルマラソンなら? 距離が伸びて体力が必要なタフなレースになるほど、マグレの可能性は減っていく。
 タフな馬場と長い直線、多い頭数、悪天候。
 凱旋門賞はマグレで勝とうという気持ちでは厳しい。きちんと適性を見極めて『勝つだろう』と本気で思える馬を連れていくべきである。今回の記事ではその凱旋門賞適性を見極めるポイントをいくつかの要点に分けて列記したので、是非読んで欲しい。……


・欧州での逃げ戦法は破滅行為である
 洋芝と日本の芝は違う。洋芝は草が長くてパワーが必要だ。良馬場の東京競馬場で100戦して100勝できる馬がいたとしてもロンシャンでは負ける可能性が高い。
 ヨーロッパ競馬で求められるのは総合力や地力であり日本競馬で求められるのはコーナリングや瞬発力という技術だ。
 日本の競馬場の特性はスピードを補うところにある。日本競馬に於ける逃げという戦法が欧州では殆ど見られないのはそれが基本的には無謀だからである。
 矢作調教師が凱旋門賞を勝つには逃げが有効だと語っていたが、私は反対だ。
 そもそも凱旋門賞を逃げて勝った馬は滅多にいない。
 昨年のタイトルホルダーの逃げを私は否定的に見ている。欧州競馬・ロンシャン競馬場に慣れてもいない横山和生騎手があの大雨の中、逃げ切れるわけが無い。例えシーバードに乗っていても無理だとわかる。騎手の度胸は凄いが、逃げた時点で勝ちを捨てたに等しい。それでも挑戦した日本馬の中では最高着順だったのだから素晴らしい馬であることには変わりは無い。せめて控えて先行集団に紛れ込めたら希望はあっただろう。

・適性を見極める2つの試練
 日本の競馬場で最も洋芝に近いのは札幌競馬場だと私は考える。そして札幌競馬場を勝つ馬は香港の馬場に適性を示す。香港の馬場は欧州へ開けている。
 近年の日本競馬で欧州のG1を最も強い勝ち方をしたのがエイシンヒカリである。イスパーン賞を10馬身差で勝利した。次戦のPoWSは最下位に沈んだ。何故こうも極端なのか。実はイスパーン賞ではエイシンヒカリは逃げなかった。前を走る馬の丁度後ろにいた。例え武豊といえど、欧州競馬でそう逃げ切れるものじゃないし、そもそも競馬場での経験も浅い。イスパーン賞ではペースメーカーを前に置いたことで自然と欧州の競馬場に適したペースでレースを運べて直線でエイシンヒカリは自分の走りが出来た。それに比べてPoWSは逃げてしまった。欧州で日本人騎手が最もやってはいけない戦法に出た。それで最下位に沈んだ。
 必ずしも逃げなければ勝負になるわけではない。大事なのは適性なのだ。
 エイシンヒカリで注目すべきは洋芝に初戦から適応したことである。血統を見ても父はディープで母父は嵐猫である。欧州を走りそうにない血統だ。ここで重要なのはエイシンヒカリがイスパーン賞の前に香港Cをレコードで優勝している事実である。シャティン競馬場の芝は日本と比べ重い。日本と欧州の間の様な状態で、故に欧州の馬と日本の馬が丁度いい塩梅に勝負になる。
 私は過去に香港で好走した日本馬を想って悔しくなる。間違いなく彼らは欧州適性があった。しかし日本競馬の慣習で、香港で好走した馬は基本的に翌年も香港へ向かう。例えば香港Cを優勝した日本馬は8頭いるが、その後欧州を走った馬はエイシンヒカリのみである。ディアドラは2着になった事があり、その後ナッソーSを制覇している。香港ヴァーズを見てもステイゴールド、サトノクラウン、グローリーヴェイズ、ウインマリリンが優勝している。ステイゴールドは産駒のオルフェーヴルとナカヤマフェスタが凱旋門賞で2着の時点で間違いなくステイゴールド自身にも欧州適性が備わっていたことが推察される。サトノクラウンはあのハイランドリールを差し切っての優勝だったが、後にキタサンブラックを重馬場の天皇賞・秋で追い詰める。凱旋門賞に挑戦したのがサトノダイヤモンドではなくクラウンだったらどうなっていただろうか。
 香港で好走した日本馬を調べればわかるが、その後欧州に挑戦した馬が驚くほど少ない。仮にエイシンプレストンやウインブライト、グローリーヴェイズなどが欧州の適性距離のG1に挑んでいたら間違いなく好走したであろうと私は言い切れる。しかし彼らは既に引退してしまった。

・馬体重という真理
 海外競馬では馬体重を計測しない為基本的に凱旋門賞馬の馬体重を知る術はない。しかしジャパンカップに遠征してきた海外馬は計測される。その為凱旋門賞馬が遠征してくると馬体重も注目される。そして今まで日本に来た凱旋門賞馬の体重は比較的に軽く小柄である。
 日本の競馬場は比較的平坦な為体重が増えた方が前へ進み易い。海外の競馬場は自然の中に作られた歴史があるため起伏に富み、馬体が軽い方が必要なパワーが削減できて有利に働く。昨年のドウデュースが全く欧州に適応できなかった原因のひとつは間違いなく馬場にあると言える。500kgを超えるような馬がロンシャンの険しいコースを最後まで走り抜けるのは不可能に近いかもしれない。オルフェーヴルを差したソレミアの馬体重は438kg、モンジューは484kgだ。東京競馬場でレコードを出すような馬は馬体重が重くなるのは必然でアーモンドアイは牝馬にしてラストランは490kgを計測している。ちなみに香港から来たワーザーは446kgだった。海外の中距離馬はかなり馬体重が軽い傾向がある。それに対して香港馬ながら稍重の高松宮記念を制したエアロヴェロシティは524kgである。短距離は世界を通して見ても起伏が少ない為馬体重が重い方が有利な傾向がある。

・最強は崩れない
 過去に凱旋門賞に挑戦した日本馬の中でも最強と呼べるのは3頭のみだろう。エルコンドルパサー、ディープインパクト、オルフェーヴル。ディープインパクトは失格になったが3位入選。ぶっつけ本番でそれだけ走るのだから異常だ。結局最強格の3頭とも馬券に絡む走りをした。彼ら3頭は皆戦績を見れば隙の無さに驚く。何かの条件で強いという訳ではなく、基本的にどんな条件でも強い。そういう馬たちだった。日本最強馬が挑戦したパターンは意外と少ない。年度代表馬の場合、スペシャルウィークもテイエムオペラオーもシンボリクリスエスもブエナビスタもジェンティルドンナもキタサンブラックもアーモンドアイも挑戦しなかった。近年で言えばリスグラシューが挑戦していたらどうだったろう。まあ彼女は代わりにコックスプレート制覇という偉業を成し遂げたが。

・3歳牝馬という圧倒的有利条件
 日本競馬とは斤量が全く違う。
 近年で凱旋門賞を連覇した馬はトレヴとエネイブルのみだが、2頭とも牝馬で3歳の時に初制覇している。
 日本でも散々3歳牝馬が有利だと騒がれながらその条件では、実はハープスターしか挑戦していない。そして彼女は恐ろしい末脚を見せながら6着に終わっている。レース映像を見て貰えばわかるが、余りにも酷い騎乗である。あれで勝てるのは世界最強と謳われたダンシングブレーヴぐらいだ。
 内に進路を取ったジャスタウェイの福永騎手がハープスターに騎乗していたら勝っていた可能性は十分にあったと思う。なぜオルフェーヴルにスミヨンを乗せてハープスターに川田騎手を乗せてしまったのか。日本競馬はまるで自らの意思で凱旋門賞制覇という夢を遠ざけているとしか思えない運命を描いている。
 唯一3歳牝馬で挑んだハープスターの成績から考えて更に多くの3歳牝馬が挑戦していれば、好成績が見られただろう。

・総括
 日本最強馬を連れて行けば勝負になる。しかしそれが結論では元も子もない。最強馬以外の結論を具体的に書く。
 適性で言えば、3歳牝馬が最も有利なので、今で言えばリバティアイランドを連れていくのが最も勝つ可能性がある。また、札幌記念を勝っている馬を香港へ連れていき勝利したら欧州へ連れていくべきだ。多分勝負になるだろう。適性のない馬を連れて行っても可哀想な事になるだけである。
 私は今年日本が凱旋門賞挑戦に二の足を踏むのを予想していた。今までの挑戦の歴史を見たら分かると思うが、本命の馬が敗北した翌年は面白いぐらいに萎縮する。ディープインパクトの翌年は誰も行かなかった。オルフェの敵討ちとして3頭乗り込んだ翌年も誰も行かなかった。2019年に再び3頭で向かった翌年は長期遠征していたディアドラのみ。昨年の4頭挑戦の翌年である今年は主な勝ち鞍が中山牝馬Sのスルーセブンシーズのみ。
 スルーセブンシーズは馬体重も軽いし血統もドリジャ産駒で適性は感じさせられる。しかし5歳牝馬だし斤量は今まで背負ったことの無い58kg。また前哨戦は戦わずぶっつけ本番。帯同馬はなし。キャリアで唯一走った2400mの優駿牝馬は9着。
 正直厳しい。しかし競馬に絶対は無い。展開が向いたり好騎乗が炸裂すれば勝機は間違いなく向く。それを掴む末脚は宝塚記念で垣間見えた。

 結論として、仮に今年凱旋門賞に挑戦する馬を3頭指名出来るなら
・イクイノックス(最強格)
・リバティアイランド(3歳牝馬)
・プログノーシス(札幌適性及び香港適性)
 の3頭を選ぶ。この3頭が出走すればそれぞれが好成績を収めることは必定で、
 運さえ向けば、優勝も夢じゃない。

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