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昔の事故とネギのはざまで

 あれは、僕が、新しく買った車に乗って、信号停車している時の出来事でした。
 朝に食べたうどんのネギが歯に挟まっているのを感じながら、ボンヤリ赤信号を眺めていました。
 (強そうな車だな…)目の前に停まっているプレマシーのデカイお尻に、妬ましい思いを抱きながら、今乗っている自身の車を恥ずかしく思いました。
 (買ったばかりなんだけどなぁ…)新しく相棒になったボロボロのミニクーパーのハンドルを撫でてみました。勿論返事はありません。
 僕は、中々信号が青に変わらない事、買ったばかりの車に愛着が持てない事、歯に詰まったネギがとれない事に苛立ちを感じていました。
 僕は歯に詰まったネギを舌で取り除くべく、口腔内で紛争をおこしながら、昨日みた不思議な夢を思い出していました。
 その夢の中では、地球は球形ではなく、誰かの大きな手のひらでした。全ては手のひらの上にあり、全ての出来事は手のひらの上で起こっていました…そんな夢です。夢の中で僕は、母指球筋の頂きに居て、示指から昇る朝日を眺めていました。夢の中で僕は妙な浮遊感に襲われました。手のひらが尺側に傾きだしたのです。つまり回内です。これはまずいと思った僕は「みんな!親指に集まれ!!」そう叫びました。みんなの重みで回内を阻止しようというわけです。
 …そんな事を考えながら、歯の隙間に入り浸っているネギを追放しようと、秘密警察の如き執拗さで、舌をうねらせてみましたが、なかなかネギはとれません。そこで僕は仕方なく、人指し指を口の中につっこみました。(出てこい!)

ドガーン!!!


口の中に手を突っ込んだ僕は、口の中に手を突っ込んだまま宙を舞いました。それはまるで、口の中の【押せば宙を舞うよボタン】を押してしまったかのようなタイミングでした。

ビシッ!!!

世界は僕が、口の中に手を突っ込んだまま宙を舞い続けられるほど、甘くできてはいませんでした。シートベルトが僕を引き戻したのです。

グシャッ!!ガン!!!

僕とともに宙を舞っていた愛車(?)ボロクーパーが、果敢にも、プレマシーの強そうなお尻に突き刺さりました。

突然の出来事に僕はわけがワカラズ、シートベルトを外し、取り敢えず車の外へ出ようとしました。しかし、開きません。ドアが開く事を拒むのです。パニックになっていた僕は、(地震が起きたんだ!!!!)と思いました。
 (救助だっ!!!)僕は窓から這い出て、ミニクーパーの後ろにめり込んでいるトラックの運転手の下へ駆け寄り「だ…大丈夫かぁ!?」叫びました。

世界が尺側に傾きだしたんだっ!!!

「…!」トラックの運転手は怯えたような目付きで僕をみました。
 僕はそれを大丈夫の合図であるとし、ついで、強そうなプレマシー(丁度運転手がおりている所でした)に向かって「大丈夫ですかぁ?」と叫びました。

…するとプレマシストが意外な事を言いました「あんたが一番大丈夫じゃないだろう?」

僕はキョトンとしました。


 散らばるテールランプの残骸
 集まるギャラリー
 プレマシーに突き刺さるミニクーパー
 …に突き刺さる4㌧トラック
 集まらないギャラリー
 ミニクーパーの車内を暴れまわりミルクティだらけにした挙げ句、アスファルトに着地したリプトン
 青に変わる信号

?…(突き刺さるトラック?)…?

はっ!

玉突き事故だっ!!

(地震でもテロでも、ましてや世界が尺側に傾きだしたわけでもなく、ただの玉突き事故だったんだ…)

あとから聞いた話では、信号停車中の僕のミニクーパーに、4㌧トラックがノーブレーキで激突し、宙を舞ったミニが(2メートルほど飛んだそうです)、プレマシーのリアウインドウに激突(実際に宙を飛ばないと当たらない)したんだそうです。

手のひらはまだ、水平面を保っているんだっ!!

僕は、長さが二分の1ぐらいになったミニクーパーの傍で、頸部痛と脱力感に襲われ、ヘナヘナと座り込んでしまいました。

もう歯の間にネギは挟まっていませんでした

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