SS小説「日常」

ショートストーリー小説(2021年作)
「日常」


 息を吐くと視界は白い靄に包まれた。
 とは言っても別に煙がなくとも、現実世界は灰色の薄い膜のようなものがまとわりついていて、僕の目には霞んで見える。いや、ただ身体的な(或いは精神的な)疲れから、そう見えるだけかもしれない。
 夜、仕事帰りにコンビニの喫煙所でタバコを吹かしながら、ふとそんなことを考えていた。

 時計の針がちょうど真上を指す時間。いろいろな想いが頭の中を駆け巡る。常々忙しい仕事の話や最近付き合いだした彼女の話、昔ながらの親しい友だちの話にしてもそうだ。それらを打ち消すように僕は手にしていた瓶に入った酒をひと口飲んだ。少し甘すぎるその酒を飲んだが、周りの靄は晴れやしない。もちろん、そんなことは初めからわかっていたのだけれども。そのまま調子外れの歌を歌いながら、帰り道を歩いて行く。それで世界が変わることを願って。

 もちろんそう簡単には世界は変わらないし、他人も自分でさえも変わらないことはわかっている。そう思いながらも、その先を想って、僕は帰り道を歩いていく。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?