【読書感想】『東電福島原発事故 自己調査報告』
グーテンターク、皆さまこんにちは。フランクフルトのYokoです。コロナ禍で様々なリスクマネジメントの話が出ています。日本政府、各省庁、地方自治体、企業、学校、家庭。全ての組織でリスクマネジメントが欠かせない事態です。危機と言えば日本には10年前に日本有史最大ともいえる危機に瀕していました。地震・津波・原発事故の3セットを日本は薄氷を踏みながら乗り越えました。
そのリスクマネジメントの中心にいた人物によるレビューはとても意義深いことではないでしょうか。危機には日本の強み、弱みが全部さらけ出されます。平時にできたことが有事にはできなくなるのは日本人は肌感覚で知っていますが、それを認識させる文章は少ないです。今回読んだ本はその一つだと思うので感想を書きます。
この本は原発事故当時、日本政府の閣僚として原発事故対応にあたった細野豪志さんが書かれた本です。編集は 社会学者の開沼博さん。
原発処理水、放射線、健康影響の科学的根拠。隣接自治体の今、福島の教育をジャーナリストには決して書けない当事者同士の対話が、現役の政治家でもある細野さんが語る構成がユニーク。また引退して書いた回顧録ではなく、今も福島に関わり続ける現役の政治家として覚悟を持って書いていることを評価します。
原発対策に関わると、電力業界と対峙するばかりか、強烈な反発を右からも左からも受け、安心神話を信じる無党派層からも嫌われるリスクが強いからです。つまり切実な地元以外は票にならないから国政議員は避けてしまうテーマだからです。
当時の民主党、今の立憲、今の細野豪志さんが苦手な方でもこの本にイデオロギーはなく、お勧めです。当時のその場限りのジャーナリストには批判的で、処理水の対応の先送り問題、過剰検査問題など、コロナ禍で政治や日本社会がかかえる問題と地続きで、コロナ禍の今のあれこれを歴史のコンテクストから眺めるのも日本の課題を本質的に捉えるために必要ではないでしょうか。
大震災、津波、そして原発事故から10年。細野さんは様々な当事者を訪ねて当時と今を対話します。そこから今後の課題と未来を展望する書です。
自身も客観性を保とうと努力されていますし、社会学者の開沼博が入っているところにその自己防衛報告にならないための配慮も感じられました。
私が特に印象に残ったのは2点、1点目は薄氷を踏むような交渉の数に米軍が日本にとどまり協力体制を堅持した経緯。
米軍高官が ドゴールの言葉を引用し、『同盟軍は助けに来てくれるが、運命はともにしてくれない』といって日本に主体的に動くようせまったのが原発に放水するあたり。彼らはドイツはじめ西側諸国が関西に避難したときに同じ行動を取りませんでしたがこれは日本が何もしなければ日本撤退が充分にあることを日本政府が思い知った引用。どう対応したのか、細野さんと元陸上自衛隊東部方面総監陸将、磯部さんとの対話で詳しく語られています。
2点目は大変な差別や困難があるからこそ問題解決思考の教育が進む福島の先進性です。そこに希望を見ました。
日本は新しいことや前に進むとき、出来ないことや出来ない理由を真っ先にいう傾向がありますが、福島での教育は、今もそこに続く困難に真正面から向き合う地域だからこそ、どこを目指すべきか、何をするべきか(実行)という発想であることに希望を見ました。実際に他県、あるいは世界とつながるプロジェクトに参加する学生さんが多く先進的な教育現場になっているそうです。詳しくは細野さんと福島県立ふたば未来学園高等学校副校長の南郷さんとの対話に詳しいです。
また「いちえふ」への潜入レポを書いた漫画家さんと細野さんとの対談や、魚屋さんとの対談もとても興味深いです。困難と感情を乗り越えた言葉の力が響きます。
原発ゼロとだとか、自慢、反省、感情の精神論の話ではなく、レビューしています。細野さんとの対話を引き受けられたかた全員、名前、お顔ら当時あるいは今の肩書きを出して踏み込んでお話されています。相当の覚悟を持って引き受けられたはず、こちらの方々にも敬意を表したいと思います。おそらくすでに相当のバッシングやき葛藤をご経験されてそこを超えてこられて今の境地なのでしょうね…。
下記Amazonから登場人物と目次を引用します。ご興味がありましたら、手にとってお読みくださいませ。
◎主な登場人物
田中俊一(初代原子力規制委員会委員長)
近藤駿介(元原子力委員会委員長)
磯部晃一(元陸上自衛隊東部方面総監/陸将)
森本英香(元環境事務次官)
佐藤雄平(前福島県知事)
遠藤雄幸(福島県川内村村長)
渡辺利綱(前福島県大熊町長)
緑川早苗(元福島医科大学内分泌代謝専門医)
竜田一人(『いちえふ福島第一原子力発電所労働記』作者)
遠藤秀文(株式会社ふたば代表取締役社長)
南郷市兵(福島県立ふたば未来学園高等学校副校長)
大川勝正(株式会社大川魚店代表取締役社長)
林智裕(福島県出身・在住ジャーナリスト)
<目次>
はじめに 歴史法廷での自白 細野豪志
第1章 最前線の闘い
第2章 10年たった現場へ
取材構成者手記 林智裕
第3章 福島のために、わが国が乗り越えるべき
6つの課題
編者解題 開沼博
おわりに 自己事故調がなし得たこと 開沼博
それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました!
Bis dann! Tschüss! ビスダン、チュース!(ではまた〜)😊