そこ。(裏カ)
ブラックホ
ールに吸
い込
まれ
て
い
く
。
宇宙を漂流している俺は、運が悪いことにブラックホールに吸い込まれた。
物質も、光すらも脱出できない。時間すらも歪む無限に圧縮される特異点。宇宙の『底』だ。
ぺしゃんこになって消えていくのだろうと思っていた俺だったが、なかなかどうして意識がある。
なんだかよく分からないが、おれは小人のように小さく圧縮されているだけで意識も人の形も保っているみたいなのだ。『アントマン』みたいだな。
闇の中をふわふわと落ちていくと、硬いものに背中からぶつかった。どうやら足場のようである。
立ち上がると先に光が見える。光の柱だ。あれはブラックホールに吸い込まれてくる光の流れのようなのだ。
『やぁ』
声をかけられる。投げかけられた声は渦に巻かれて圧縮されて消えた。
「だれだ?」
自分の声も同様にかき消えていく。
『びっくりさせたかな』
「俺が生きていることにすでにびっくりしている」
『それはそうだ』
振り向くと光の柱に照らされて黒い影が見える。声の主のようだ。
『ここはブラックホールの中心』
「わかる」
『永遠に時間が引き延ばされていくおわりの空間だ』
「というと?」
『君が吸い込まれた瞬間からまだ1秒も立ってないってこと』
「ふーん」
『興味ないんだね』
どうせ死ぬところだったしな。俺は腰を下ろす。見上げればブラックホールの向こう側から流れ落ちてくるものがカスになるまで小さくなってその辺を漂い始めるのが見える。
『ここはおわりの空間。だからおわりは永遠に来ない』
「俺は死なないのか?」
『おわらないからね』
「お前も?」
『そうだよ』
じゃあ。といって俺は立ち上がる。
「おわりが来るまでここを散歩でもしようかな」
『いいね。いろんなものがここにはあるよ』
圧縮された物体が各地に散らばっている。触れればそれがなにか分かるようだ。
『ここはたくさんの情報が圧縮されて眠ってる。どれから見てまわろうか』
「そんなの決まってる」
現実だって変わらない。無限にありふれた情報を自分で取捨選択するのだから。
ブラックホールはそこだ。『底』ではない。そこにある。
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Tips:かまぼこ。
板から剥がす時は包丁の「みね」を境目に押し当てるときれいにかまぼこと板を分離させることができる。
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父がついにガラケーからスマホに買い替えた。
60過ぎてるオールドタイプの父はインターネット黎明期に自作パソコンでぶいぶい言わせていた過去をすでに忘れ今では完全にガジェット老人だ。
先日ぼくに父から電話がかかってきた。
「スマホの使い方がわからない。電話も出れないし、LINEの通知も鳴らない。これからドコモショップに不良品だと文句言いに行こうと思ってる。」
…..これはやばい。教えれば3分で分かるこちらの過失をドコモの店員さんに八つ当たりさせるのはまずい。ぼくは花のゴールデンウィークを1日消費して実家に帰ることにした。
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Tips:父方の実家
文字通りのぼくの実家。こちらは仏教であり、父と離婚した母の実家が神道である。
実家には4ヶ月に一回くらいしか帰らないが母の実家には3週に一度遊びに帰っている。
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実家はすでに平均年齢79歳の老人たちの巣窟だ。スマホの使い方がわからないと言ってる父が一番若いのでもうそれをただせる人間はすでにいない。
帰ると父が激安で買うたであろうGalaxyの数世代前の端末を抱えて言う。
「どうよ。オトンもついにスマホ買ったぞ」
「いや使い方分からんくて息子呼び出してドヤられてもな」
電話に出ることができないらしいので、実際にぼくのスマホンホから着信してみる。
PLLLL…..
父のスマホは問題なく着信する。
「これがな。電話ボタンおしても出れないんだよ」
父は画面に浮かぶ受話器マークを連打する。画面には受話器マークから波紋のエフェクトが出るばかりで確かに出れない。.....ん? 波紋?
「な?やっぱりおかしいだろ」
「ちょっとかしてみ」
ぼくは受話器マークをスライドさせて浮かび上がる波紋の外まで引っ張る。通話が開始された。
「....尻電をしないようにタップだけじゃ出れないようになってるみたいね」
「あ〜なるほどな。俺がアホだっただけだったわ」
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Tips:父
アホ
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その後も通知が鳴らない問題とかも解消しつつなんとかドコモの店員さんの手間を省くことに成功したぼくは地元のうまいパン屋の食パンを戦利品に帰路についたわけである。
ぼくは父が苦手なので実家にあまり帰りたくない。
話は合わないし、押し付けがましいし、酒癖が悪い。
じいさんばあさんも結婚しろ結婚しろと田舎老人ムーヴが板についてきた。
でも父が帰り際に言っていたことは、めずらしく気が利いていた。
「じいさんばあさんは早く結婚しろって言ってるがお前が余裕あるタイミングでいいからな。急ぐこたねぇ」
言われなくてもそうするつもりだ、と言い残して雨の中バスに乗る。
目の前のお兄さんが後ろに向かって傘をバッサァってするもんで全身びしょ濡れになった。やっぱり実家なんて帰ってこなければよかった。
帰りのバスの中、父から早速LINEが飛んでくる。
『通知が映らないんだがロック画面と別の場所で見れるとかあるか?』
ぼくはメッセージを送る。
「そこになければないですね」
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