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タイ・バンコクと日本の交通安全の違い – 注意点と安全対策
大型ワゴン車が高速料金所支柱に衝突 日本人企業トップ死亡 運転手は重体
【バンコク=本紙特派員】16日正午過ぎ、タイ中部サムットプラカーン県バーンプリー郡にあるブーラパウィティ高速道路のバンプリ料金所(キロメートルポスト11)付近で、黒のトヨタ製ワゴン車(バンコク登録)が料金所入口の支柱に高速で衝突し、大破する事故が発生した。運転していた男性(38)は車内に閉じ込められ重体となり、救助隊が車体を切断して救出後、病院へ搬送されたが容体は極めて深刻とみられている。
車内前方の座席では、チョンブリー県で鉄板コイルなどを製造する著名企業の会長を務める日本人男性(57)が、衝突の衝撃により挟まれた状態で死亡しているのが確認された。救助隊は切断機を用いて遺体を取り出し、同県内の医療機関へ運び司法解剖を進める方針だ。
現場周辺の監視カメラ映像によると、ワゴン車は料金所手前で速度を落とす様子がなく、ブレーキ痕も認められない。警察は運転手が居眠りをしていた可能性があるとみて、事故原因を詳しく調べている。車内からはゴルフバッグやゴルフ場の利用チケットが見つかっており、直前までゴルフをしていたと推測される。事故発生時刻は12時7分頃で、地元当局が引き続き捜査を行っている。
タイ(特にバンコク)の交通事情は、日本とは大きく異なります。日本人の感覚で道路を渡ったり車を運転したりすると、思わぬ危険に遭遇することがあります。実際、タイの交通事故による死亡率は日本の約8~10倍にも上り、2015年のWHO報告では人口10万人あたりの交通事故死者数がタイ36.2人、日本4.7人とされています。それだけタイで事故に遭うリスクは高いということです。本記事では、タイと日本の交通ルールや安全意識の違いを踏まえ、バンコクの交通環境で日本人が注意すべき点や安全対策を解説します。筆者の実体験や具体例も交えますので、現地でのシチュエーションをイメージしながら安全行動に役立ててください。
日本とタイの交通ルール・安全意識の違い
まず基本的な交通ルールですが、タイも日本も車は左側通行で一見似ています。しかし細部を見ると大きな違いがあります。例えば赤信号でも左折可能というルールです。タイでは交差点で赤信号でも車は左折してよいことになっており、左折専用の車線や信号が別に設けられている場合もあります。日本では原則赤信号で停止しなければならず左折可の例外はありませんから、日本人歩行者は青信号でも左方から曲がってくる車両に十分注意する必要があります。
また、横断歩道での優先意識も大きく異なります。日本では法律上「歩行者優先」が徹底されており、横断歩道では歩行者がいれば車は必ず停止するのが原則です。実際には守られない場合もありますが、それでもドライバー側も歩行者に配慮する意識は比較的高いでしょう。一方タイでは「車優先」の文化が根強く、横断歩道でも歩行者を優先する考えが基本的にありません。タイの運転手は歩行者が端で待っていてもまず止まってくれず、歩行者も車が途切れるのを待つか強引に渡るしかない場面が多いのです。筆者もバンコク滞在当初、青信号の横断歩道で車が止まってくれるだろうと足を踏み出したら、目の前をバイクが猛スピードでかすめて肝を冷やした経験があります。このように「歩行者が優先されるはず」という日本の常識はタイでは通用しません。
運転マナーや安全意識も両国で大きく異なります。日本では免許取得時に長時間の教習を受け、安全運転の知識を身につけます。しかしタイでは数時間の講習で免許が取れてしまい、日本ほど運転技術や安全知識が浸透していません。そのためか、タイのドライバーは自分では危険と気づかずにリスクの高い運転をしてしまう人が多いようです。例えばウインカーを出さずに車線変更・右左折をする車、交差点で信号無視して突っ込むバイクも珍しくありません。日本では考えられないような場面でクラクションを鳴らされたり、パッシング(前照灯の点滅)で威嚇されたりすることもあります。ちなみにパッシングの意味も違い、日本では「お先にどうぞ」の合図に使うことがありますが、タイでは警告や抗議の意味で使われ「危ないから止まれ!」というニュアンスになります。こうしたマナーの違いも、安全意識の差として現れています。
さらに飲酒運転の取り締まりやシートベルト・ヘルメット着用への意識も異なります。日本では飲酒運転は厳罰が科される犯罪であり、人々の遵法意識も高めですが、タイではお祭りの時期などに飲酒運転事故が多発する傾向があります(タイ正月のソンクラン期間は「7日間戦争」と呼ばれるほど事故が急増します)。ヘルメットやシートベルトの着用率も、日本ではかなり高い水準ですが、タイでは義務化されていても着用しない人が少なくありません。特に郊外ではノーヘルのバイクや、荷台に人を乗せたピックアップトラックを見かけることもあります。「事故を起こさない・巻き込まれないための予防策を徹底する」という意識が日本より希薄である背景には、取り締まりの緩さや罰則の軽さ、そして「自分は大丈夫」という過信や楽観的な国民性も影響しているのかもしれません。
バンコクの交通環境の特徴
バンコクの街中では、日本とは違う独特の交通環境が広がっています。その主な特徴を挙げてみます。
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信号や横断歩道の少なさ・不便さ:主要な交差点以外では信号機のない交差点も多く、横断歩道も日本ほど整備されていません。特に幹線道路では歩行者信号のない横断歩道が存在し、車両側の信号もないため歩行者にとって非常に危険です。歩道橋や地下道が設置されている場所もありますが、遠回りになるため地上を横断する人も少なくありません。その結果、道路を強引に横切る歩行者と走行車両がせめぎ合う場面が日常的に見られます。
車優先の交通フロー:前述のとおり、基本は車が先に行き、歩行者は待つのが当たり前という流れです。日本のように車両側が停止して歩行者に道を譲るケースは稀で、歩行者は車の切れ目を見計らって渡らねばなりません。大通りでは警察官が手信号で歩行者を誘導してくれることもありますが、それも限られた場所です。特に左折車に注意が必要で、車は赤信号でも減速しながらそのまま左折してくるため、歩行者用信号が青でも安心できません。
オートバイ・バイクの圧倒的な存在感:バンコクの交通で目につくのが無数のバイクです。渋滞をすり抜けるためにバイクが車列の間を縫って走行するのは日常茶飯事で、時には対向車線を逆走したり歩道を走ったりするバイクもいます。筆者も最初は歩道を歩いていて背後からバイクが追い抜いていくのに仰天しました。歩道が狭い場所では接触の危険も高まります。このように歩行者空間にもバイクが侵入してくることがあるため、常に周囲360度に注意が必要です。タイの事故ではバイクが絡むものが非常に多く、ある調査では交通事故死亡者の約7割がバイク関連だったとも報告されています。
多種多様な乗り物が混在:道路上には自家用車やバイクだけでなく、トゥクトゥク(三輪タクシー)や荷台に客を乗せたソンテウ(乗合トラック)、サイドカー付きの屋台バイク、手押し車など、様々な乗り物が走っています。車線や信号に従わず独自の動きをする車両も多いため、日本にはない不規則な挙動に驚くでしょう。特に大型バスやピックアップトラックは車体がへこんでボコボコのものも多く、強引かつ強気な運転をする傾向があります。小さな車や歩行者に対してはまず道を譲ってくれないので要注意です。
歩道・道路インフラの未整備:バンコクの都心部こそ整った歩道がある程度ありますが、一歩裏道に入ると歩道が存在しない道路も珍しくありません。日本人居住者の多いスクンビット通り周辺でも、場所によっては歩道が途切れて車道すれすれを歩かざるを得ないことがあります。歩道があっても段差が極端に高かったり、表面が凸凹で大きな穴が空いていたりします。雨季には道路冠水で歩道まで水浸しになることもあり、不安定な足元で車を避けながら歩くのは一苦労です。日本のようにベビーカーや車椅子でスムーズに移動できる環境とは程遠く、歩くだけで神経を使うでしょう。
信号の信頼性の低さ:タイでは信号機の故障や停電も時折発生し、突然信号が消えて無秩序なラウンドアバウト状態になることがあります。また押しボタン式の歩行者信号も、日本のように押せばすぐ青になるとは限らず、長時間待たされるケースもあります。そのせいか、歩行者も赤のうちに渡り始めてしまったり、車も黄色で加速して強引に突っ切ったりと、信号をあまり厳密に守らない動きが見受けられます。実際、押しボタン式信号が青に変わった直後ですら減速せず突っ込んでくる車がいるため、「青になったから安全」とは決して思わないほうがいいです。
以上のように、バンコクの交通環境は日本と比べると混沌としており、歩行者に優しくない構造と言えます。では、その中で事故に巻き込まれないためには具体的にどう行動すれば良いのでしょうか。
事故に巻き込まれないための注意点と安全対策
バンコクで安全に過ごすために、歩行時と車両利用時それぞれで心がけたいポイントをまとめます。
歩行中に気をつけること
信号や横断歩道を過信しない: たとえ歩行者用信号が青でも、車両が完全に停止していることを確認するまで道路に踏み出さないようにしましょう。横断歩道上でもバイクが信号無視で突っ込んでくることがあります。「自分が優先だから大丈夫」ではなく「常に車が来るかも」という前提で左右を確認して渡ります。
横断は素早く、安全設備のある場所で: 渡りたい場所に信号機や歩道橋があればできる限りそれを利用し、遠回りでも安全を優先します。信号のない横断歩道や交通量の多い道路を横切るのは避けた方が無難です。特に幹線道路では横断禁止の場所もあり、見つかると罰金が科されることもあります。渡り切るときも気を抜かず、走行中の車やバイクの動きを最後まで警戒してください。
歩道でも前後に注意: 歩道を歩いているときも周囲の警戒を怠らないようにします。後方からバイクや自転車が来ていないか時折確認し、必要なら道を譲ります。特に露店や駐車車両で歩道が狭くなっている所では、バイクが強引に突っ込んでくる可能性があります。音楽をイヤホンで大音量で聴きながら歩いたりせず、クラクションなど周囲の音も聞こえる状態を保ちましょう。
車道に背を向けない工夫: 歩道が無い道や路肩を歩く場合、できるだけ車と向かい合う方向(進行方向右側)で歩くと安全性が高まります。こうすることで自分に向かってくる車両を視認でき、ドライバーからも歩行者が見えやすくなります。夜間は明るい服装や反射材を身につけ、ドライバーに認識されやすくするのも有効です。
貴重品の持ち方にも注意: 安全対策からは少し逸れますが、歩行中のひったくりにも警戒が必要です。車道側にバッグを持っていると、バイクに乗ったまま奪われるケースがあります。被害に遭った場合、追いかけるのは非常に危険です。無理に抵抗すると引きずられてケガを負う恐れもあるため、被害を防ぐにはバッグは建物側の肩にかけ、車道側には出さないようにしましょう。
車両(車・バイク)利用時に気をつけること
可能なら運転は慎重に検討: バンコク市内の運転は渋滞と独特の運転マナーで非常にストレスフルです。日本の運転に慣れた方ほど混乱するかもしれません。土地勘や周囲の動きに慣れていない短期滞在者は、無理にレンタカーを運転せずタクシーや公共交通機関を利用する方が安全でしょう。どうしても自分で運転する場合は、事前にタイの交通ルールをよく学び、「自分だけが安全運転していても事故は起こり得る」という意識で周囲の車両を警戒してください。
防御運転を徹底する: 運転中は周囲360度に注意を払い、日本以上に「だろう運転」(~だろうと思う運転)を避けます。ウインカーを出さずに割り込んでくる車や、後方から猛スピードで近づいてくるバイクがいないか、ミラーでこまめに確認しましょう。車間距離はできるだけ確保し、割り込まれてもイライラしない心の余裕を持つことも大切です。特にバイクは死角から突然現れることがあるので、右左折時やUターン時は何度も目視で確認してください。
シートベルトとヘルメットの着用: 車に乗る際は運転席・助手席はもちろん、後部座席でも全員シートベルトを着用しましょう。タイでは2022年から後部座席もシートベルト義務化されましたが、まだ着用習慣が定着していない面があります。自分の身を守るためにも必ず締めるべきです。またバイクに乗る際は良質なヘルメットを正しくかぶることが命綱です。短い距離でもヘルメット無しは絶対にやめましょう。バイクタクシー(モタサイ)を利用する場合、運転手がヘルメットを貸してくれることもありますが、衛生面も含め可能なら自分で用意したいところです。
タクシーやトゥクトゥクの利用時: タクシーに乗ったら前席・後席問わずシートベルトを着用します。まれにシートベルトが壊れている車もあるので、その場合は別のタクシーに乗り換える判断も必要です。降車時にも注意が必要で、ドアを開ける際は後方確認をしましょう。日本と違いタイのタクシーは自動でドアが開かず、自分で開けます。うっかり後ろを見ずに開けると、後ろから来たバイクにぶつかり大事故になりかねません。実際にバンコクでは、タクシー客が開けたドアに後続のバイクが衝突する事故も起きています。トゥクトゥク(三輪タクシー)やバイクタクシーに乗る際は、シートベルト等が無い分しっかり掴まって体勢を安定させ、走行中に手足や荷物を車体からはみ出さないよう注意します。スピードを出し過ぎる運転手には「ゆっくりで」と伝えるなど、乗客として身を守る行動も大切です。
深夜・祝祭日の移動に注意: 深夜帯やタイの祝祭日の期間(特に年末年始やソンクラン)は、飲酒運転車両や疲労運転のトラックなど危険が高まる時間です。可能な限り深夜の歩行やドライブは避け、どうしても移動が必要な場合は信頼できるドライバー(送迎サービスや配車アプリの評価の高い運転手など)に任せるほうが安心です。
万一事故に遭ったら: 残念ながら事故に巻き込まれてしまった場合、まず落ち着いて行動しましょう。警察への通報と救急要請が最優先です。タイでは小さな物損事故でも現場で警察や保険会社の担当者が来るまで車を動かさないのが通常です。言葉に不安がある場合は、日本大使館や旅行保険のサポートデスクに連絡するとアドバイスがもらえます。加害者になってしまった場合、在タイ日本大使館が発行する「交通事故時の対応マニュアル」なども参考になります。いずれにせよ日頃から事故に備えて緊急連絡先や保険の契約内容を確認しておくと良いでしょう。
実際の事故例から見るタイの交通事情
実際にタイで起きた事故の例を通じて、日本との交通安全意識の違いを考えてみます。
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例:横断歩道で起きた悲惨な事故 – 2022年1月、バンコク中心部のパヤタイ通りで横断歩道を渡っていたタイ人の女性医師が、猛スピードで走ってきた大型バイクにはねられ死亡しました。加害者はオフ-dutyの若い警察官で、現場は歩行者用信号機のない横断歩道でした。医師は青信号の横断歩道で渡っていたわけではなく、いわゆるゼブラゾーンを歩いていたところを轢かれたのです。この事故はタイ国内で大きく報道され、優秀な眼科医だった彼女の死を悼む声とともに「横断歩道で止まらない車社会」への批判が高まりました。バンコク都は緊急対策として市内100か所の横断歩道に歩行者用信号機を新設する計画を発表し、実際に横断歩道の塗り直し(赤白の目立つ色への変更)や取り締まり強化などのキャンペーンが行われました。
ところが、それから3年後の2025年1月、奇しくも全く同じ場所で再び事故が起きてしまいます。今度は設置された信号機が赤の状態で他の車両が停止している中、1台のバイクが信号無視で交差点に進入し、横断歩道を渡っていた歩行者と衝突しました。幸い歩行者は命を取り留めましたが大けがを負いました。この現場こそ、先の女性医師が亡くなった場所だったのです。SNS上で公開された事故の動画には「結局信号をつけても意味がない」「どんな悲劇が起きてもドライバーの意識は変わっていない」といった嘆きの声が寄せられました。
この事例から読み取れるのは、タイの交通安全意識を根本から変えることの難しさです。日本では考えにくいですが、タイでは警察官でさえ法定速度を大幅に超えて市街地を走り、横断中の歩行者を死亡させてしまうという現実があります(※日本でもゼロではありませんが、発生すれば厳しい処罰と社会的非難は免れないでしょう)。そして大々的に報道され社会問題となった後でさえ、同じ場所で信号無視の事故が繰り返されてしまう――この事実は、日本とタイの「安全文化」の差を如実に物語っています。タイでは法律や設備を整備するだけでは不十分で、ドライバー一人ひとりの意識改革が追いついていないことが伺えます。
もっとも、タイの中でも近年は徐々に変化の兆しもあります。上述のような死亡事故をきっかけに、市民がSNSで情報発信したり署名運動を行ったりして、政府に安全対策を求める動きが出ています。また、在タイ日系企業が従業員に対して交通安全教育を実施したり、民間レベルでも事故削減に向けた啓発活動が広がったりしています。実際、統計上もタイの交通事故死亡率は過去に比べてわずかずつではありますが改善傾向にあります。日本人としても「タイは交通事故が多いから怖い」と嘆くだけでなく、現地の人々と協力し合って安全意識向上の輪を広げていくことが望ましいでしょう。
日本とタイでなぜ安全意識が違うのか – 背景にあるもの
最後に、ここまで述べてきた日本とタイの交通安全意識の違いが生まれる背景について考えてみます。
一つには法制度と教育の差が挙げられます。日本では交通法規の遵守を厳しく求められ、違反に対する罰金や減点も手痛いものです。子供の頃から交通安全教室などで「道路では安全第一」を叩き込まれ、社会全体でも安全運転キャンペーンや啓発活動が盛んです。その結果、ドライバーも歩行者も比較的ルールを守り、お互いを尊重する意識が育まれています。対するタイは、急速なモータリゼーション(車社会化)が進んだ一方で、安全教育やインフラ整備が後手に回りがちでした。免許取得も容易で、「ルールを破っても捕まらなければOK」という風潮が長く残っていました。そのため、日本人から見るとマナー違反に思える運転がまかり通ってしまう土壌があったと言えます。
また社会的・文化的な要因も無視できません。タイには緩やかな国民性や「マイペンライ(細かいことは気にしない)」精神があり、良く言えばおおらか、悪く言えば安全管理に大雑把な面があります。多少信号無視をしても「大丈夫だろう」「運が悪かった」で済まされてきた歴史もあるでしょう。さらには、タイの交通事情には貧富の差や権力関係も影を落としています。高級車に乗る富裕層や権力者の中には運転が荒い者もおり、事故を起こしても揉み消されるという噂が絶えないことから「どうせ訴えても無駄」と諦める庶民感情もあります。その結果、「車が第一、歩行者は後回し」という意識が一般市民にまで浸透してしまった側面があります。実際、「歩行者が弱者だという法的建前はあるが、現実には車が容赦なく突っ込んでくる。それを警察に訴える人もほとんどいない」という指摘もあります。交通における弱者(歩行者や二輪車)の保護意識が薄いのは、タイ社会の構造的な問題を反映しているのです。
さらにインフラと公共交通の発達度合いも挙げられます。日本の都市部では発達した鉄道網のおかげで車がなくても移動できますが、バンコクでは鉄道やバスだけで全てを賄うのは難しく、多くの人が車やバイクに頼っています。車中心の都市設計になりやすく、歩行者は二の次になってきた歴史があります。歩道橋や横断歩道よりも車両の流れを優先する道路整備がなされてきたことが、結果的に歩行者軽視の文化を固定化してしまいました。しかし近年は鉄道(BTSやMRT)の延伸や歩行者インフラの改善も進みつつあり、長い目で見れば安全意識の底上げにつながることが期待されています。
最後に、日本とタイの交通安全意識の差を語るとき、過去の経験と学びの違いも重要です。日本も高度経済成長期には交通戦争とも呼ばれる悲惨な事故多発期がありましたが、その後、法律の整備や安全運動の成果で死亡事故を大幅に減らしてきました。一方タイは現在進行形で交通事故大国の烙印を押され、まさに対応が求められている段階です。日本がかつて辿った試行錯誤を、タイもこれから経験し乗り越えていく必要があるのかもしれません。
おわりに
タイ・バンコクにおける交通安全について、日本との違いを中心に見てきました。ルールやマナー、インフラや文化背景まで、様々な要因が重なって生じた違いですが、私たち日本人にできることは「違いを理解し、自分の身を自分で守ること」に尽きます。海外の交通事情に慣れていない日本人にとって、バンコクの雑踏は最初戸惑うことだらけでしょう。しかし、事前に知識を持っていれば冷静に対処できます。車が止まってくれることを期待せず、自分から注意して避ける。安全そうに見える状況でも「万一」を考えて行動する。これらを心がけるだけでもリスクは大きく下がります。
バンコクの活気ある街並みや文化はとても魅力的ですが、楽しい滞在にするためにも交通事故だけは避けなければなりません。本記事の内容を参考に、現地で「日本と同じ感覚でいたら危ないポイント」を思い出していただければ幸いです。違いを知り、備えることで、異国の地でも安全かつ快適に過ごしましょう。車社会タイならではの経験をポジティブに楽しみつつ、どうか安全第一で行動してください。皆様のタイでのご滞在が実り多いものとなるよう願っています。