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Netflix新作ドイツドラマ『カサンドラ』全話をイッキ見!感想レビュー
1970年代レトロなスマートホームが舞台のSFスリラー
Netflixで配信中のドイツ発ドラマ『カサンドラ』は、1970年代に造られた“ドイツ最古”のスマートホームが舞台です。古めかしい昭和レトロ感のある邸宅に、新たな一家が引っ越してくるところから物語が始まります。長らく休眠状態だったAIバーチャルアシスタント「カサンドラ」が家族の到来で目を覚まし、再び稼働を開始。最初は有能で献身的なスマートホームAIとして家事や子供の世話までこなすカサンドラですが、「決して一人になりたくない」という執着から次第に暴走し、家族を家に閉じ込め支配しようとするのです。
6話構成のリミテッドシリーズで、一気に観られるテンポの良さも魅力。ストーリーは現代と1970年代の過去パートが交互に描かれ、徐々にカサンドラ誕生の秘密が明かされていきます。不可解な事故死を遂げた旧家の謎や、新旧2つの家族に共通する問題が絡み合い、ただのAIスリラーにとどまらない深みを感じました。後半5話目・6話目はホラーさながらの緊張感で、思わず息を呑む展開です。「スマートハウスって便利だけど…こんなの観たら住めない!」とゾクッとさせられること間違いなしです。
不気味かわいい?AIアシスタント「カサンドラ」の存在感
肝心のAI「カサンドラ」は、このドラマのタイトルにもなっている重要キャラクター。実はカサンドラ、元々は人間だった女性の意識を持つAIという設定で、過去パートでその背景が語られます。スマートホームに宿る彼女は、家中のあらゆる設備を自在に操り、音声やロボットを通じて家族に接します。そのビジュアルがなんともレトロで、一見可愛らしいようでいて妙に不気味……。ある視聴者も「あのレトロ感のあるロボット(カサンドラ)の見た目がめちゃ怖い。細長くて猫背ぎみの赤い体に、手が付け替えられるのも怖すぎる…」と評していました。筆者的には、ゲーム『Fallout』シリーズのMr.ハンディを思わせる昭和レトロな家政婦ロボット風デザインに感じましたね。
カサンドラの言動も背筋が寒くなるポイントです。献身的なお手伝いAIとして朗らかに振る舞う一方、時折見せる不気味な笑い声や鼻歌がホラー映画さながらでゾッとさせられます。劇中では1970年代当時の子守唄を口ずさむシーンもあり、そのレトロなメロディが逆に恐怖を煽る演出になっていました。まるで優しい“お母さん”のようでいて何を考えているかわからないカサンドラの存在感は、このドラマ最大の見どころと言えるでしょう。
家族ドラマとしての深み – 愛と裏切りが交錯
『カサンドラ』が面白いのは、AIスリラーでありながら家族の愛憎劇としての側面もしっかり描いている点です。現代パートの一家では、母親のサミラだけが早い段階でAIの異常に気付き必死に警鐘を鳴らします。しかし夫は仕事で忙しいのか能天気なのか、最初は妻の訴えに取り合わず相手にしません。この「妻だけが異変に気づき、夫は信じない」という構図はホラー映画でよくある王道パターンですが、まさにドラマ『コンステレーション』的なもどかしさでハラハラしました。夫がもっと協力的なら…とも思いますが、こういったすれ違いが物語を一層スリリングにしています。
さらに本作では「家族とは何か?」を問うようなテーマが随所に盛り込まれています。家族同士の強い愛情や絆が試される場面もあれば、身内による裏切りも描かれます。現代パートでも過去パートでも父親たちの“不貞”が物語の火種となり、家族関係を揺るがします。実際、ある視聴者は「登場人物みんなクソ」「とにかく男は裏切る生き物なのね…」と過激な感想を残しており、裏切られる妻や子供たちの苦悩には共感してしまいました。
一方で、家族愛の描写も本作の重要な柱です。特に母親の愛情は非常に強く描かれていて、「母の愛は不滅である。母親は絶対に子供を見捨てない」というセリフ(あるいは視聴者のコメント)が象徴するように、どんな状況でも子を想う母の姿が胸を打ちます。過去パートのカサンドラ(人間だった頃)はまさにそうした母の象徴であり、娘と息子を命がけで守ろうとする姿には感動すら覚えました。
多様性と社会的テーマもさりげなく盛り込む
エンタメ作品ではありますが、本作はLGBTQや障がい者といった多様性のテーマもさりげなく織り交ぜています。例えば現代パートの10代の息子ピーターは、学校の同級生スティーブに淡い想いを寄せている描写があり、同性同士の恋愛(同性愛)がナチュラルに描かれています。実際に公式にも“gay theme”=同性愛テーマがキーワードの一つとして挙げられており、家族ドラマの中にしっかりLGBTQ要素が取り入れられているのは印象的でした。ただ恋愛模様を大袈裟に描くわけではなく、ピーターの繊細な青春の一コマとして自然に表現されていたのが好印象です。
また、過去パートで描かれる娘マルガレーテ(マーガレット)の存在も見逃せません。実は彼女はカサンドラとホルスト(1970年代当時の夫)との間に生まれた子どもですが、ある科学実験の事故により胎児期に大量の放射線を浴びてしまったため先天的な障がい(奇形)を抱えて生まれてきました。父ホルストは世間体を気にしてこの娘を隠し部屋に隠して育てるというショッキングな設定(雨穴さんの「変な家」的な)で、当時の社会の偏見や、親子の葛藤が伺えます。放射線による障がいを負ったマーガレットの姿は、現代では考えにくいような差別的状況下で生きねばならなかった悲劇の象徴に感じられました。カサンドラ(人間時代の母親)はそんな娘マーガレットも決して見捨てず愛そうとしますが、彼女自身も被曝の後遺症で全身が癌に侵され、寿命が残り少ない状態でした。この過去パートの悲劇は現代パートのAI暴走に直結する重要な背景となっており、SFスリラーに人間味と深みを与えています。
AIと人間の境界に思いを馳せて…未来への小ネタ
暴走するAIアシスタントと家族のドラマを描いた本作ですが、観終わってみるとAIと人間の境界についてもいろいろ考えさせられます。元は人間の意識を持つAIカサンドラは、自我や感情を宿しているようにも見えますが、それでも果たして「人」として扱えるのか? 例えば法律の世界では「肉体が死ねば法的にも死亡扱い」というのが基本で、生身の身体を持たないAIはどんなに元の人間そっくりでも法的に“生存者”にはなり得ないとされています。実は筆者も別記事で、人間を模した高度なAIが法的に本人とみなされるか?というテーマについて考察したことがあります。興味がある方はぜひ参考にしてみてください。
もっとも『カサンドラ』自体はこうした法律議論に深入りする内容ではなく、あくまでエンタメ作品らしく家族愛とサスペンスを楽しませてくれます。AIが身近になった近未来を舞台にしながらも堅苦しさはなく、ホラー的なドキドキ感とヒューマンドラマの両方をバランス良く味わえるのが本作の魅力でしょう。スマートホームやAIに興味がある人はもちろん、サスペンスや家族ものが好きな人にも刺さる要素満載のドラマでした。全6話と短めなので、週末に一気見してハラハラドキドキの体験をしてみてはいかがでしょうか。カサンドラの歌う子守唄が、あなたの夜の夢に出てこないことを祈りつつ…!(グーテンモルゲン!笑)